腕くらべ 新版 (岩波文庫 緑 41-2)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003104125

感想・レビュー・書評

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  • 図書館で借りた。
    永井荷風の小説。岩波文庫としては緑色で”現代文学”だが、既に100年以上前の作品だ。
    「君はウイスキイだったね」「いや、ビイルにする。おい、ボオイさん…」この語感だけでも頭の中に浮かぶ色合いが変わってくる。
    花柳界を舞台とした人間模様が描かれ、近代日本の”どらま”を楽しめる作品だ。
    朝の通勤電車で読むには濃い内容だったが(笑)、個人的には苦手な小説モノの中でも読み込めたと思う。

  •  1917(大正6)年、荷風38歳。中期の傑作とされる小説。
     西洋近代小説的な結構を持ち、ゾラやモーパッサンの影響が窺え、特に荷風自身が翻訳したこともあるゾラの『ナナ』を連想させる。ナナに該当する新橋の芸者駒代を軸に、徐々に多くの登場人物があらわれて、さまざまな人間関係の変遷を経て主人公が不幸に陥っていく。が、ゾラほど激烈な破滅に進むのではない。
     驚いたことに、本作には濃厚なセックスシーンが描写されており、江戸の春本みたいになる箇所がある。これは大正時代の青年たちを刺激したことだろう。
     文体は明解だが、ときどき江戸時代の読み物の文体に近くなるのが面白い。句読点などで区切らない名詞の並列が、どこで区切れるのかと瞬間的に考えさせられる。
     最初の方で、駒代が吉岡なる男に身請けを誘われて何となくその気になれず返事をしないが、離れるでもなくこの関係を維持しつつ、役者をやっている瀬川を突然誘惑し、こちらに惚れ込んでいく成り行きを読むと、この女性の浮気っぽさに男としてはちょっと気に入らないところではある。しかし、そのように不安定なところがありしばしば打算に揺れるものの、総じて駒代は魅力的に描かれている。裏切られた吉岡や、かつて駒代に吉岡を奪われた別の芸妓などが、復讐を図り結局駒代は情人瀬川にも捨てられて没落する。
     浮薄だったり金権主義的だったり打算的だったりする俗物たちを多く描いており風刺的な小説だ。それでいて、随所が味わい深い文学性が見られ、美しさに溢れた作品である。さまざまな要素で立体的に構成された奥深さを持つし、この時代の東京の芸妓のシステムもよく分かって興味深かった。良い本を読んだ。

  • 登場人物は多いけど、ストーリー自体は’’嬢王’’みたいで100年経っても面白いのはさすが永井荷風。主人公は腕くらべに1度のみならず2度負けるんですけど、勝利の理由がほんの些細なことである意味切ない
     当時はエロ小説だったのですが(発禁処分くらってます)、その部分を取り除いても、売れっ子だったことは文章力が半端ない一流作家であったためということはわかります。

  • 失われゆくものへの愛惜。

  • 4003104129 244p 2007・7・5 13刷

  • 「小夜時雨」の章が白眉。

  • 2012/11/29
    大正7年の私家版を国会図書館のサイトからダウンロードして読了。この後、岩波文庫新版(完全版)を読む。当局に憚って私家版では掲載を割愛した描写その他の異同について読み比べしてみるつもり。

    2014/3/19
    岩波文庫新版を読了。閨房描写の異同に興味を惹かれて読み始めたが、そこはむしろ些細なもので、絶妙かつ繊細なバランスの研ぎ澄まされ方にディレクターズカット(ノーカット?)ならではの深みがあった。ハイレベルな大人の小説。

  • 季節の移り変わりの風景描写や、芸者の衣服の描写がとても美しかった。登場人物にはそれぞれに自分の意思があり、人間味があった。

  • 荷風ファンなのに、これをどうして今まで読んでいなかったのかという感じ。風俗描写と文明批評と季節感と閨房描写(ポルノ)がほどよくミックスされた傑作。
    閨房描写はかなり露骨なので、これは普通に発禁になるんじゃないか? と思ったけど、解説によれば、この岩波文庫版は、戦後に公表された私家版が底本になってるんですね。戦前にこれはさすがに捕まるでしょう。というか、戦後でも猥褻文書に指定されても不思議ないような・・・。
    また荷風が忌み嫌っていた当時の俗物たちをこれでもかと登場させるのは、「おかめ笹」とも共通します。
    「腕くらべ」がそういった好色小説・滑稽小説にとどまらないのは、「ボク東綺譚」同様、季節の移り変わりを美しくはかなく描写する荷風の筆の見事さにあります。これが書けるのはやはり荷風だけだなあと感心するばかりです。

  • 浮世絵のような様式美の中に、作者の冷めた視線がチクリチクリ。

    単純に、大正期の新橋芸者の生活をのぞけるのも楽しい。

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著者プロフィール

東京生れ。高商付属外国語学校清語科中退。広津柳浪・福地源一郎に弟子入りし、ゾラに心酔して『地獄の花』などを著す。1903年より08年まで外遊。帰国して『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表し、文名を高める。1910年、慶應義塾文学科教授となり「三田文学」を創刊。その一方、花柳界に通いつめ、『腕くらべ』『つゆのあとさき』『濹東綺譚』などを著す。1952年、文化勲章受章。1917年から没年までの日記『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『美しい日本語 荷風 Ⅲ 心の自由をまもる言葉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

永井荷風の作品

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