つゆのあとさき (岩波文庫 緑 41-4)

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  • 岩波書店
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レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (157ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003104149

感想・レビュー・書評

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  • 昭和初期に書かれた、銀座の女給君江と、そこにとりまく男たちの物語。登場人物のキャラクターや生き様が淡々と描かれており、また東京の町の風景描写がとても綺麗で、内容はドロドロとしたものだけど不思議と嫌悪感を持つことなく読み終えた。
    主人公の淫蕩さと男たちの浅薄さを、否定するでもなく蔑むでもなく、当時の銀座界隈ではありふれた男女関係をニュートラルに美しく文学作品に仕上げたあたりは、さすが永井荷風。
    下手な現代小説のドロドロした恋愛モノを読むより美しい。
    主人公の淫蕩さを描く一方で、鶴子の決断・生き様をしっかり描いたところが好感を持てました。

    アブノーマルで変わり者のイメージだった荷風を見直した作品で、他の作品も読みたくなりました。おそるべし観察眼。

  •  没後数十周年記念として本屋でフェア棚に並んでいたので購入。そうでもしないと岩波緑なんて怖くて読めないので。
     カフェーで働く女性「君子」、君子のパトロンである作家「清岡」、その内縁の妻「鶴子」が主な登場人物。この3人の、それぞれの大きく異なる立場・男女観・人生観に起因するすれ違いが、妖艶に、時に軽妙に描かれる。当時の風俗が今では想像しにくかったり、描写も戦前の本だけあって映像として浮かばなかったりと、古いが故の読み辛さはあるけれど、それを差し引いてなお非常に面白く読めた。

     ちなみに、カフェーというのは昭和初期に流行った風俗店を指すそう。若い女性が給仕として働いており、客は彼女らと待合(実質連れ込み宿)へ…ということもあったらしい。
     谷崎潤一郎『痴人の愛』の奈緒美が働いていたのもこのカフェだということを、今回初めて知った。てっきりルノアールや珈琲館みたいな純喫茶で働く、穢れを知らない女の子だと勝手に想像していた私の身勝手なショックは、計り知れない。

     谷崎潤一郎程の噎せ返るような爛熟さはないが、君子の持つ男女観は、愛だなんだという文言に踊らされないサッパリとしたもので、こんな人を好きになったら大変だろうなという危険な魅力を放っている。「生まれながらにして女子の羞耻と貞操の観念とを欠いている女」(p.102)とまで称される。
     一方の清岡は、明らかに彼女を下の者として見ている反面、金も名誉もある自分に頓着せず他の男とも平気で寝る彼女に腹を立てている。挙句彼女がひどい目に遭う妄想をしてほくそ笑む始末である。ヤバイ。
     そして、清岡の内縁の妻である鶴子は、そんな清岡に愛想が尽きつつも、彼の優しい父親に恩義も感じているし、世間体のようなものもあるのだろう、二人は妻と夫としての役割を演じ続ける。

     とりわけ、君子を見て彼女の店の客である老人松崎が歳月について思う場面、鶴子が電車に乗る場面、そして最後の場面は、もう本当に良かった。
     解説の中で谷崎潤一郎の論として「登場する人物に、作者は何の内的な心の繫がりを感ぜず、不気味なくらい冷酷で虚無的である、そしてそれが「小説の凄味」になっている」とあるが、私には登場人物ならではの情感がたっぷりと伝わってきたし、だからこそ著者はあのように小説を結んだのではないかなと思った。

     同著者の小説を他にも読んでみたいし、彼が影響を受けたモーパッサンの小説も、読んでみたくなった。今年の暫定ベストです。

  • 泉鏡花もそうだが、この時代の作家は、どうしてこんなにも人間を生々しく描く事が出来るんだろうか。永井荷風の巧みな文章が、つゆの湿度を伴って、明治の銀座にタイムスリップさせてくれる。こういった作家は現代にはもういない。

  • 銀座や神楽坂の描写がとても美しい。きっとあの辺りから見ている風景かな…とわかる箇所もあるのに、あたしが思い浮かべる景色はビルばかり。同じ場所なのに荷風と見ているのとは違うのだと思うととても淋しかった。解説にもあるが、荷風は娼婦を愛してそして見下していたらしい。あたしが恋や性に奔放な女性に惹かれるのは憧れて、でもそうなりたくてもなれなくて。だからと云って身近に居たら彼女らを嫌悪しそうな気がする。人間て、女って面白い。

  •  昭和初期の東京、銀座界隈を舞台に、カフェの女給・君江とその周辺の男たちの駆け引きと日常を描く。 活動写真、円タク、巻煙草、電車停留所、路地、夜具、羽織、懐中物、メリンス、喇叭、私娼窟、軒灯、旧華族、辻自動車。使われる言葉は昭和の向こう側だが、荷風に活写されると見事に眼前に描き出される。この頃の「待合」というものの存在も、初めて知った。 上流家庭で西洋思想を身につけた荷風は、明治以降の日本の発展を「寄席の見物人が手品師の技術を見るのと同じような軽い賞賛の意を寓するに過ぎない」という。昭和6年に本作品を脱稿したあと、日本は戦争に向って傾斜していくが、時局に迎合も反抗もせずに終戦を迎える。この作品が到達した自然主義は、彼が図らずも手にした諦念が生み出したものと言える。

  • 銀座のカフェーの女給君江は,容貌は十人並だが物言う時,「瓢の種のような歯の間から,舌の先を動かすのが一際愛くるしい」女性である.この,淫蕩だが逞しい生活力のある主人公に,パトロンの通俗作家清岡をはじめ彼女を取巻く男性の浅薄な生き方を対比させて,荷風独得の文明批評をのぞかせている

  • 開巻不穏な出来事の叙述で引き付けられるが、その後の筋そのものは特にどうということもない。しかし、人物描写や東京の景観描写によって、主要登場人物の輪郭がはっきりし、カフェの女給や芸者、待合など、当時の時代風俗が明確に浮かび上がってくるところなどは、流石である。

  • 銀座のカフェーの女給、君江を主人公に、彼女をめぐる男たちの有り様、出来事を切り取って描き切るもので、最初からぐいぐいと引き込むテンポのあるリズミカルな筆致に改めて感嘆いたしました。

  • 心地よい言葉と共に、読者を昭和初期へ連れて行ってくれる永井荷風。銀座のカフェー、神楽坂の待合、当時の東京の風俗を巡る。黒ビールを呑みながら。こじんまりとした出来上がりが、かえって心地よい。

  • タイトル名に魅かれて読み始めた。

    昔、高校生ぐらいの時に読んだような・・・?
    永井荷風なんて、読んだことあったっけ?
    ・・・たぶんない。
    途中でやめたんだろうか?


    邦画「月曜日のユカ」を思い出した。
    随分昔に観た映画だから、よく覚えてないけど、
    なんか似ている。

    ヌーヴェル・ヴァーグみたいなところ?
    「月曜日のユカ」を観よう

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著者プロフィール

永井荷風

一八七九(明治一二)年東京生まれ。一九〇三年より〇八年まで外遊。帰国後『あめりか物語』『ふらんす物語』(発禁)を発表。五九(昭和三四)年没。主な作品に『ぼく東綺譚』『断腸亭日乗』がある。

「2020年 『吉原の面影』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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