雨瀟瀟・雪解 他七篇 (岩波文庫 緑42-3)

  • 岩波書店 (1987年10月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784003104231

感想・レビュー・書評

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  • 永井荷風が洋行から帰国した直後から太平洋戦争序盤までの短編集。タイトルにはなっていないが、「ひかげの花」が言い様のない纏わりつくような感じの作品で読み応えがあった。
    一種の「知らない世界」を知りたい方は、ぜひ。

  •  この荷風作品集に収められているのは、帰国直後1909(明治42)年の「狐」から1942(昭和17)年に書かれ戦後になって発表された「勲章」までと長く、荷風の作家生活のほとんど全域に及ぶ。
    「あめりか物語」「ふらんす物語」と同時期でキャリアの初期に発表された「狐」は、回想録風、随筆風で、たぶん荷風自身の幼年期の実体験を描いているのだが、「絶対、そんな細かいことまで覚えているわけない」ディテールも鮮明に描写されており、すでにこのとき、現実の体験に基づく記憶を、現在の作家的感性によって再構成することにより、作家という主体の統合性を確立する作法が明らかである。つまり記憶は文学的コンテクストに埋め返されることによって改変され、新たな「自己」の生成に資される。
    「墨東奇譚」(1937)も随筆とフィクショナルな小説との混合物のようなカテゴリに属するが、荷風文学はそのような曖昧な輪郭を持つものが多いようだ。
    「雨瀟瀟」(1921《大正12》年)はほぼ随筆に見えるが、確かにフィクショナルな作家=主体の様相を呈してもいる。
    「詩興湧き起れば孤独の生涯も更に寂寥ではない。」(P.111)
     と「詩興」の名において求められた文学フィールドが、家族を作らず最後には孤独死へと向かった生身の荷風を覆った。
     ただしこの「雨瀟瀟」は漢詩の引用が多く、私の苦手分野であった。
     長い短編小説「ひかげの花」(1934《昭和9》年)は荷風55歳、「墨東奇譚」の3年前に当たる。女に売春させているヒモの物語で、なかなか面白い。もっとも最後まで読むと作品の構成に深まりがなくて傑作とまでは言えない感じではあった。
     
     最近は永井荷風を読むことが心の潤いになっているような気がする。次第に忘れられ・失われていった江戸情緒を愛し当時既に時代遅れとなっていた荷風の明治後半〜昭和の戦後にかけての時代は、その文学性の深さゆえに現在から見るとやはり「失われた時代」に他ならず、その懐かしい過去の像を追いかけて、私もまた、自己の主体を新たに統合し直すのである。

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著者プロフィール

(ながい・かふう)1879-1959
東京市の現・文京区小石川生まれ。官僚のち実業家の父・久一郎の長男で、早くから江戸・東京の落語、歌舞伎、戯作などに親しむ。文学を志し、広津柳浪に師事して作家活動を始めるが、父の意向で実業を学ぶため1903年からアメリカ、フランスに渡る。帰国後その体験をもとに『あめりか物語』『ふらんす物語』を上梓、注目を集める。実業家となることなく、1910年慶應義塾大学の教授に就任、「三田文学」を創刊。1916年に大学を辞してからは、『濹東綺譚』をはじめとする作品のみならず、実生活も江戸戯作者のごときであった。そのさまは1917年以降の日記『断腸亭日乗』に詳しい。

「2024年 『小説集 蔦屋重三郎の時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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