大石良雄 笛 (岩波文庫 緑49-8)

  • 岩波書店 (1998年6月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (196ページ) / ISBN・EAN: 9784003104989

みんなの感想まとめ

人間の内面の葛藤や家族の営みを描いた二篇は、清澄な水彩画のように心に残ります。41歳の時に書かれた「大石良雄」では、忠臣蔵の大石内蔵助が抱える義務と責任の狭間での揺れ動く心理が描かれ、読者はそのリアル...

感想・レビュー・書評

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  • 清澄な水彩画のような二篇であり、書いた年は違うがともに安心して読める佳作である。
    41歳の時に書いた「大石良雄(よしとも)」は、忠臣蔵の定説である忠義と義侠心で四十七士をまとめ上げ、歴史に残る義挙に命を賭けた、あのいわゆる大石内蔵助の意外な内面の姿である。自分の人生への打算と義務・責任の武士道の狭間で揺れる心理が人間のよくある現実を如実に表して読み手に共感を誘う。機密費という経済的視点と利己的処世への叔父の誘導のくだりはリアルで切実である、妻は原理論の推進派。
    「笛」は79歳の時の作品で、人生のあらゆることを経験した眼で淡々と夫婦・親子の営みを描写している。苦労をともにした夫に先立たれたつね、娘が結婚し親になり長男も巣立とうとする、夫が残したフルートを慈しみ孤独と寂寞に悶え、自死の結末に展開を託す。
    なんとも言えない余韻が残る。

  • それぞれの背景は違えど、2編とも周辺の人々に振り回され自分の思い描いていた未来と「今」とのギャップに苦悩する主人公の心理描写がくどくなく巧みに描かれている印象を受けた。
    赤穂浪士を含め、武士の散り様を見せるお話は苦手だったが、この大石良雄はとても面白かった。

  • 心理描写、しかも内面だけをべたべたと連ねるのではない筆致が巧みで、とくに内蔵之助が長男と対面する場面など圧巻だった。読み終えたくない気さえした。

  • お家再興の保管金を中心に大石を描いているらしい

  • 実は「笛」しか読んでいないのだけど、
    「笛」だけで言えばもう胸に読後の余韻が残りまくりの哀しく美しい傑作。
    簡素な表現のなかにリアルがきらめき、
    愛おしさがレースのように作品全体に渡って編み上げられている。
    ひとって、人生って、家族って、恋愛って、歴史って、
    たぶんすごくひとつひとつは宝石みたいに輝く美しさと愛らしさを持っているのだけれど、
    それをひとつに「繋げる」のは難しいのだろうね。

    私は個人的には最愛の祖母を「つね」の姿の上に重ねてしまったので、
    胸に迫りくるものもひとしおだった。
    特に、ちょっとした仕草や些細な情景描写に全身全霊の感情がこもっていて心が震える。
    破滅に向かって物語は流れていくのに、
    研ぎ澄まされたような美しさが印象として残る。
    そう、なんだか鋭利な水晶のような。

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著者プロフィール

野上 弥生子(のがみ・やえこ):1885年、大分県生まれ。明治女学校卒。夏目漱石の紹介で「縁」を「ホトトギス」に発表して以来、明治・大正・昭和という三時代を通じ80年余りの作家活動をおこなう。写実主義に根差す作風で女性たちが直面する生きづらさを見つめ、家父長制の物語に抗うとともに、戦争に向かう時代のなかでも体制におもねることなく反戦思想を訴え続けた。1957年『迷路』で読売文学賞、64年『秀吉と利休』で女流文学賞、86年『森』で日本文学大賞、71年には文化勲章などさまざまな賞を受賞。他の著書に『欧米の旅』『山姥』『海神丸』などがある。文芸雑誌「青鞜」を発行していた青鞜社のメンバーでもあった。1985年逝去。

「2025年 『真知子』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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