銀の匙 (岩波文庫)

著者 : 中勘助
  • 岩波書店 (1999年5月17日発売)
3.83
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003105115

銀の匙 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 夏目漱石が絶賛し、1913年、1915年に東京朝日新聞に掲載された中勘助の自伝的小説。主人公が子供の頃の生活を回想する形で書かれています。当然、作者が大人になってから書かれた作品ですが、感受性豊かな幼少期のことが生き生きと描かれています。読み始めた時は、独特の日本語の言い回しや使い方に少し苦労するのですが、慣れてくると突然目の前が開けたように様々な情景が目に浮かぶようになります。この本は、読む年齢や読まれる時代によって、ぜんぜん違った印象をあたえると思います。

  • 夏目漱石を始め、明治の文人たちが絶賛したというこの有名な小説を、時間をかけてゆっくりと読破した。宝石のように綺羅びやかで、ガラスのように脆い少年の日々が、まさしくそれに見合う文体で見事に綴られている。

    明治の終わりに記されたこの小説には、現代では見ることもなくなったアイテムや、することがなくなった遊びが随所に出てくるが、読み進むうちに、最早失われてしまった遊びやアイテムをトリガーにして、自らの少年時代にも同じように、儚くも繊細な日々があったことが思い出され、そうした日々の中に埋め込まれていた、忘れ去られていた自身の想い出、例えば幼馴染と遊んだこと、ビー玉やメンコ、近所の神社の境内、学校でのエピソードなど、が鮮やかに蘇ってきた。

    そうした記憶を呼び戻す「鍵」がこの小説の随所に散りばめられていて、何とも『鼻の奥がツンとする』感覚に何度も襲われた。

    巻末の和辻哲郎の解説には、中勘助の稀有な文体表現を評して、以下のように記されている。

    「『銀の匙』には不思議なほどあざやかに子供の世界が描かれている。しかもそれは大人の見た子供の世界でもなければ、また大人の体験の内に回想せられた子供時代の記憶というごときものでもない。それはまさしく子供の体験した子供の世界である。子供の体験を子供の体験としてこれほど真実に描きうる人は、実際他に見たことがない。」

    では、なぜ中勘助のみにそれが出来たのか、については、松岡正剛の千夜千冊から。
    「こういう芸当が中勘助にできたということは、尋常ではない。ここには書かないが、当然に中勘助の生涯や生き方に関係がある。が、もし、そのような生き方を越えてもこのような散文を書く者がいるとすれば、それは真に「文芸の幼年性」に到達した者であるだろう。」

  • 誰もが持っている記憶の中の少年時代を、美しい文章で蘇らせてくれる一冊。何度か読み返しているが、その度に、ある種の清涼感を心に与えてくれる。

  • 子どもの頃の何気ない経験は、大人になってから色々と意味を見出だすことが多いけれど、そんなことを思い出させてくれる一冊。
    風景も心情もとにかく美しい本です。
    心の洗濯をしたい方は、ぜひ。

  • 一人の女性のこの上ない優しさは、少年の心の中でやがて結晶になりました。
    愛らしいオノマトペと無垢な眼差しに癒やされます。幼い頃の感性を大人になってもなお自然体で表現できるのは、やはり伯母さんの影響でしょうか。
    成長につれて繊細さを持てあます後篇は、朗らかな前篇との色調の変化にドキリとします。
    隣に住むお蕙ちゃんの仕草が何ともかわいらしい。
    大きくなった甥っ子が会いに来た時の伯母さんの喜びように泣けました。

  •  綺麗な日本語といえばこれ。心洗われたいときに読んでる。
     読んでると色と風と味と人の温かさが見えてくる。

  • 子供の鋭い視線、質問には時々どきりとするけれど、まさにそのような子供視点の話。「だって先生も人間だって思うから」とか、好きな子にいつまでも素直になれないところ(!)に中勘助の繊細で心優しい人柄が伝わってくる。
    謙遜しながらも周りから応援されたと聞くけれど、本当に人に恵まれていた方だったんだと思う。

  • 作者の当時の幼少期と自信のそれとは全く時期が異なるし,体験内容も違うのだけれども,幼き頃に感じた印象・思いというのはとても共感できた。
    大人になった今では当たり前の景色でも,子供の頃はやたら不思議に映ってたなぁと妙な郷愁を感じてしまった。

  • 劇的な展開も、あっと驚く結末もないが、少年時代におそらく誰もが抱くあたりまえの感情を、これほどあたりまえに描けている作品は他になかなかない。
    忘れたころにもう一度読み返したい。

  • 表現が美しい。
    短く章立てされているので一つあたりの話に劇的な起承転結があるわけではないが、不思議と引き込まれる。

    子供のころに見えていた世界を透明な水越しに覗き込んでいるような気分になる。景色もそうだが、心情もそうだ。
    周囲と自分との差ーー例えば漢籍を知る主人公と知らない他の子供たちとの中国観の違いのようなーーを感じてしまう時、主人公は他の子供を見下しながらも孤独を覚える。
    皆と同じであることは楽でしかも快感だ。しかし同調できない。協調性の有無ではなく、自分を裏切ることになる行為に諾と言えないのである。
    だから、この小説は水鏡で世界を映したような美しさと悲しさを湛えている。

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