- Amazon.co.jp ・本 (134ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003105146
感想・レビュー・書評
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<犬>
修行僧は、異教徒に体を許した少女に欲情した。異教徒を呪い殺した修行僧は、我が身と少女を犬に変える。
修行僧の身のため、人としては少女と交われない。そのため畜生に落ちて欲情のままに殺し、姦淫する僧の執念と、人としての意識を保とうとしながらも畜生の本性に逆らえない少女。人としての欲を否定するのではなく、どうしても人が持つものとして認めてさらにそれを畜生として表現する中勘助の凄み。匂い立つような濃厚な色香の漂う文章です。
<島守>
病気養生で小島に来た作者が目に触れる自然を瑞々しく表現した短編。「犬」とはなんと違う息苦しい程の純粋さ。まるで作者自身が人里離れた池に住むカワセミのよう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
中勘助といえば、犬だなあ。このどろどろした情欲の滾りは、ちょっと他に類を見ないレベル。
『銀の匙』は過大評価だと思う。 -
読後、パタンと本を閉じ
ぶるぶるっと頭を2,3度振った。
私は今何を見ていたのだ?
この鼻腔の奥に残る、生臭い血の匂いは何なのだ。
あの僧は。
神の為にと、己の全てを捧げる覚悟で、苦行の日々に明け暮れていたのでは無かったのか?
何故、たった一人の女が現れただけで、
いともたやすく神を捨てる気になれたのか?
信仰とは、理性とは、平静とは、誇りとは。
『欲』の前ではとるに足らない…
結局単なる見栄、装飾にしかならないのか。
かの哲学者ヘラクレスは
『万物の根拠にあるのは闘争心である』と説いた。
実際、
正しいと信じて疑いもせぬ、良心や道徳に背く時、
ほんの少しの…快感を感じる事は…無いだろうか。
ある。実はある。
だが、いや、しかし。
私はすがりたい。
著者が此の世界には描かなかった救いの糸に。
その糸を調達しなけらばならないのは読者であり、
その糸を伝わって、別世界を創造するのも読者の役目だ。
太古より議論されてきた
欲と理性…
人はどちらで創造されているのだろう…
わかるわけない。
ただ、ゆっくり丈夫な糸を編み込んでいたいだけだ。
愛、なぞ込めつつ。 -
犬、というのは暗喩だけれども、あらすじを読んだとき「つまり肉体は堕されても、魂の純潔は保つ話かなあ…」なんて勝手に想像してたけどなかなか。犬にされて、それでも異人の子を産んで、僧犬に害されまいと産んだ子を喰らう娘犬というのも凄まじい描写。
一方で、島守は今の自分の心境にほど近くてびっくりした。湖畔の庵でひとり煮炊きしながら、拾ってきた椎の実を机に並べてみるとか、ほんとそういう時間を過ごしたい。 -
表題「犬」は、インドの聖者が登場したりしたので、てっきり仏教説話かなにかと思ったら。伝説っぽい空気(話し筋が乱暴だけれど、別世界に置き換えてみてしまうので可、な。)(あと、第三者目線から語られるところとか)を持っているくせに、昼ドラ並みにどろっどろ描写は避けない作品に、終始キャーキャー喜んでいました。当時の掲載誌を知って冷汗かいたけど。