蜜蜂・余生 (岩波文庫 緑 51-7)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003105177

感想・レビュー・書評

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  • 私が個人的に、しんみりしてしまう(ことに去年からなってしまった)
    このくらいの時期に、
    合わせて読んだわけではないのに、偶然か、必然か、
    ぴったりの内容の本、でありまして…、
    なんだかますます湿っぽくなってしまったここ数日、でした。

    中勘助と言えば、「銀の匙」であまねくその名を知られている訳だけれど。

    私、中勘助好きだと意識していたけれど、「銀の匙」しか読んだことのないお粗末さ。
    申し訳ありませんでした。

    この本は、
    中勘助の魂の片割れのように何十年もすべての感情を分かち合い、
    一番の味方でいてくれて、
    お互い寄り添ってきた、女性(兄嫁)が身罷ったところからはじまる。

    中家の内情をちゃんとは知らなかった。
    (お兄さんとの確執めいたものは前述の書にも出てきた気はするが)

    その一家の諸々を引き受け、中勘助曰く「犠牲」となって、
    蜜蜂のように働きづめに働いて死んでいった兄嫁、
    過酷な状況の中でも、いつも優しかった思い出を綴る。

    大好きな人が亡くなって、
    何を見ても、何を聞いても、もうただ、悲しい、と言うことありますね。

    突然棚から、あれ!ッと言うものが出てきたり、庭に生えている植物を見て
    思い出したり、あと何かを買ったり、面白いものを見たとき、
    あ、これ教えたい…、と思うことも。

    「家の犠牲になる」と言うのは、今でも減ってはいるけれど
    たぶん、まだまだおられるのであろう。

    自分があまりにも大変苦しい状態で(病気になるくらい)
    それも相手が全然認めてくれない時、
    想像では思い切って逃げ出したら…!と思ってしまうけれど、
    実際はもちろんそう簡単ではないのでしょうね。

    いわゆる「家」制度や、昔の女の人の立場や、
    複雑な事情も考えて、なんだか落ち込んでしまった。

    ひたすら悲しく、空しい気持ち、
    また一方で、誰かを好きで、その人を思う清らかな感情を味わい、
    しばし物静かに考える女となっておりました。

    収録されている「余生」は主に「蜜蜂」を読んだ人からの
    お手紙に中勘助がコメントしているという、
    本当に姉妹編と言った内容。

    ちょうど、戦争がはげしくなった頃で、
    お手紙をくれたまま、消息不明と言う人もおられ、
    呑気にしている自分がいたたまれなくなる一面も…。

    さて、余談ですが中勘助は長身の美形で
    女性にモテモテだった、そうです。
    (なんだか意外でした…)

    また全集はほぼ日記らしく、
    それも欲しいなあ、と俄かに…。
    (日記と書簡好きなもので)

    全集、古本で結構お手頃でした。

  • 『銀の匙』に次いで大好きな作品。亡き嫂への想い。涙なくしては読めない。何度も読み、中勘助全集第8巻でも読んだ。

  • 目次
    ・蜜蜂
    ・余生

    ”姉”の死。
    死に向かって時が止まることがないのはわかっていながら、それを認めることもできずに逡巡する文章。
    第二次世界大戦中、男性が女性をここまでかいがいしく看病することが、他にあったのだろうか。

    表記は”姉”なのだけど、実際は”兄嫁”なのだ。
    なのに、自身より互いを思いいたわり合うふたり。
    冷たくぎすぎすした家族の中で、支え合いながら居場所を守ってきたふたり。
    日常のささやかな出来事にに幸せのかけらを見つけて、笑みを交わし合ってきたのだろう。

    ”わたしはブラームスがクララ・シューマンにしたようにいつも発表前の原稿を姉にみせて批評をきいた。数十年来の私の最も幸福な思い出である。”

    『余生』は、出版された『蜜蜂』を、親しい人たちに送った著者に届いたお礼状の羅列。
    これにはちょっと驚いた。
    個人情報とか、著作権とか、いろいろ大丈夫なのか?

    ただ、これは奇をてらった作品なのではなく、中勘助から姉への報告というか、連絡というか、騙りかけなんだな。
    結婚しても、ずっとずっと姉は彼にとっての特別な存在だったのだ。

    特別感情が揺さぶられることはなかったけれど、静かに涙がこぼれていった。

  • まどかな文章から、大切な人を喪った静かな哀しみがにじむよう。日々暮らすそこかしこで、不在の人を思い出す寂しさ。

  • 「銀の匙」を読んでからが、よいのだろうか。
    読み方が足りないのか、ただの随筆、それだけの印象と
    なった一冊。
    不幸な話なのだろうけど、面白くない、これはいかに?

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著者プロフィール

1885年、東京に生まれる。小説家、詩人。東京大学国文学科卒業。夏目漱石に師事。漱石の推薦で『銀の匙』を『東京朝日新聞』に連載。主な著作に小説『提婆達多』『犬』、詩集に『琅玕』『飛鳥』などがある。

「2019年 『銀の匙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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