- Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003105535
作品紹介・あらすじ
永遠の理想の女性たる母への思慕をテーマに卓抜な構想力で描いた傑作2篇。創元社版の写真・挿絵を併収。
感想・レビュー・書評
-
吉野葛:1931年(昭和6年)。
吉野の山奥、落人の里、狐信仰、葛の葉伝説…。日本人の心の琴線に触れる道具立てに、母性への憧憬も加わって郷愁を誘う。事実なのか創作なのかよくわからない曖昧さも、山霞の里というこの舞台では、計算された演出なのかと思えてしまう。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/701566 -
物語の前半はどちらも随筆みたいな調子で続き、後半くらいになって突然物語になる。しかもどちらも主人公「私」が出会った人の独白で、物語が入れ子になっている。
『蘆刈』に至っては後半からいきなり『卍』みたいになり、思わずにやけてしまった。 -
第34回アワヒニビブリオバトル「舞台」で発表された本です。
2018.02.06 -
話自体はどちらも少し難しいです。特に『蘆刈』は前提知識がないとあまり理解できず、解説を読んでようやく理解できました。ただ、どちらも谷崎先生らしい色っぽい描写があるのでそこは素敵でしたね。
-
「吉野葛」
大和の国、現在の奈良県には
いわゆる「後南朝」の伝説が残っている
作家としては駆け出しのころ、それを小説にしようと考えた作者は
大阪在住の友人である津村と連れ立って
取材旅行に出たのだった
しかし、実際に足を運んでみると
どうにも王朝の実在が怪しく感じられてきて
結局その案はボツになった
一方、津村のほうは
見染めた娘を嫁にもらうことで話をまとめていた
娘は、津村の伯母の孫にあたり
早くに死んだ母の面影を、彼はそこに求めたのだった
昭和6年の作品で
4年前に死んだ芥川龍之介との論戦がひっかかっているのだと思う
張りぼての伝説も、見る人が見れば本物だし
子供にとっては永遠に未知の存在である若かりし日の母こそ
誰もが持つ理想の女性像にほかならない
それらの考えはそのまま
かの論争における谷崎の主張を補完するものだ
そしてその背景には、もっとシンプルな
生きてこそ人生の謎も解き明かせるのだという思想も見て取れる
葛のつるをほぐすようにね
実はそれこそが「筋のない小説」ではなかろうか
「蘆刈」
作者の抱えた美の象徴的イメージを
ひとりの未亡人女性として結実させているのだが
結局はそれと結ばれることなく
彼女の妹と共に、美をならび見続けた
そんな男の姿を書いており
ある意味、滅亡のイメージにも重なって見える
これは森田松子への思慕をもとにした作品ということらしい
団子よりも月を重んじる世界と言うべきか
しかし谷崎潤一郎は二番目の妻を離縁したのち
ちゃんと松子を嫁に迎えた -
☑吉野葛
□蘆刈