吉野葛・蘆刈 (岩波文庫 緑 55-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (172ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003105535

作品紹介・あらすじ

永遠の理想の女性たる母への思慕をテーマに卓抜な構想力で描いた傑作2篇。創元社版の写真・挿絵を併収。

感想・レビュー・書評

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  • 吉野葛:1931年(昭和6年)。
    吉野の山奥、落人の里、狐信仰、葛の葉伝説…。日本人の心の琴線に触れる道具立てに、母性への憧憬も加わって郷愁を誘う。事実なのか創作なのかよくわからない曖昧さも、山霞の里というこの舞台では、計算された演出なのかと思えてしまう。

  •  蘆刈: 前半部までは何のはなしかとおもった。中盤で茂みから突然男が現れて以降、彼が回想形式で話を進める。ここには何の企みもないと思われたが、男の登場のあまりの突然さに、私の意識は一気にその男に注がれたのであった。そしてその意識を優しく押し流すように彼が物語を進行させていくのだった。最後までとても読みやすかった。
     谷崎の織りなす回想形式の物語展開はとても巧みである。不自然に感じられる行動であっても、そこは登場人物の心理描写で丁寧に補われている。似たような話のつくりである春琴抄も、読後に実際にあった話を聞かされたように感じるが本作もまさにそうであった。
     作中の男は他の作品に見られるように愛する女性に夢中で女性の奔放さに操縦されるようなときがある。それでも決して彼のプライドは痛まない。むしろその女性の意向が尊重されることがそのまま彼の幸福であるという振る舞いをする。ここも春琴抄と似ていると思った。
     生身の身体の交わり最後まではっきりと描かれることはない。それがあったという示唆のみである。複数の男女の間柄が中心となった物語では、その瞬間をいつかいつかと待ってしまうところが私にはあるが、最後までそれが現れないことで物語は一段と美しく昇華する。
     

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/701566

  • 物語の前半はどちらも随筆みたいな調子で続き、後半くらいになって突然物語になる。しかもどちらも主人公「私」が出会った人の独白で、物語が入れ子になっている。
    『蘆刈』に至っては後半からいきなり『卍』みたいになり、思わずにやけてしまった。

  • 第34回アワヒニビブリオバトル「舞台」で発表された本です。
    2018.02.06

  • 月から遊びに来ている姫君みたいなお遊さまは、愛され尽くされるのが仕事。卍もそうだが、谷崎って三角関係の頂点は1人だけいる異性ではないのである。『蘆刈』は溝口健二の お遊さま 原作。そして3人はいつまでも仲よく幸せに暮らしましたとさ、とはいかないのか。
    一文が2,210文字ある文を発見。二者間の話し言葉をだらだらーと綴った場面。しかしまさにそんな感じの話である。

  • 吉野山を訪れ、その歴史を調べてるうちに谷崎潤一郎の「吉野葛」に行き当たった。

    作者は友人と自天王の足跡をたどり歴史小説を書くために吉野山へ訪れた。能の二人静に現れる菜摘川や妹背山婦女庭訓の妹背山を眺めながら道を行く。吉野の村には義経千本桜の「初音の鼓」が伝わっているというので、鼓を見に。友人は初音の鼓の狐忠信を引き合いに出し、自らも母と幼い頃に死別し母の面影を探しているのであるという。唯一の記憶が「狐噲」を上品な婦人が箏で弾いている情景であるという。

    作者は引き続き資料を集めるため史跡や峡谷を歩いたものの資料負けし、友人は母の生家へ奉公に来ていた田舎娘の指先に「初音の鼓」を見、はたして嫁に迎えたのであった。

  • 話自体はどちらも少し難しいです。特に『蘆刈』は前提知識がないとあまり理解できず、解説を読んでようやく理解できました。ただ、どちらも谷崎先生らしい色っぽい描写があるのでそこは素敵でしたね。

  • 「吉野葛」
    大和の国、現在の奈良県には
    いわゆる「後南朝」の伝説が残っている
    作家としては駆け出しのころ、それを小説にしようと考えた作者は
    大阪在住の友人である津村と連れ立って
    取材旅行に出たのだった
    しかし、実際に足を運んでみると
    どうにも王朝の実在が怪しく感じられてきて
    結局その案はボツになった
    一方、津村のほうは
    見染めた娘を嫁にもらうことで話をまとめていた
    娘は、津村の伯母の孫にあたり
    早くに死んだ母の面影を、彼はそこに求めたのだった
    昭和6年の作品で
    4年前に死んだ芥川龍之介との論戦がひっかかっているのだと思う
    張りぼての伝説も、見る人が見れば本物だし
    子供にとっては永遠に未知の存在である若かりし日の母こそ
    誰もが持つ理想の女性像にほかならない
    それらの考えはそのまま
    かの論争における谷崎の主張を補完するものだ
    そしてその背景には、もっとシンプルな
    生きてこそ人生の謎も解き明かせるのだという思想も見て取れる
    葛のつるをほぐすようにね
    実はそれこそが「筋のない小説」ではなかろうか

    「蘆刈」
    作者の抱えた美の象徴的イメージを
    ひとりの未亡人女性として結実させているのだが
    結局はそれと結ばれることなく
    彼女の妹と共に、美をならび見続けた
    そんな男の姿を書いており
    ある意味、滅亡のイメージにも重なって見える
    これは森田松子への思慕をもとにした作品ということらしい
    団子よりも月を重んじる世界と言うべきか
    しかし谷崎潤一郎は二番目の妻を離縁したのち
    ちゃんと松子を嫁に迎えた

  • ☑吉野葛
    □蘆刈

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著者プロフィール

1886年7月24日~1965年7月30日。日本の小説家。代表作に『細雪』『痴人の愛』『蓼食う虫』『春琴抄』など。

「2020年 『魔術師  谷崎潤一郎妖美幻想傑作集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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