半自叙伝・無名作家の日記 他四篇 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2008年1月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (280ページ) / ISBN・EAN: 9784003106334

感想・レビュー・書評

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  • かつて文壇の頂点に立ち、文藝春秋という一大出版社を築き上げた文豪菊池寛。
    門井慶喜の小説『文豪社長になる』の作中に本書のエピソードがあったので興味を惹かれ手に取った作品。
    当時、無名の新聞記者だった菊池寛が芥川の推薦で中央公論の雑誌に掲載される際にどうしてもチャンスを掴みたいという気持ちで芥川への嫉妬、焦燥感を綴った彼の原点ともいえる作品に強く関心を持った。どんな面白いエピソードがあるのか楽しみだ。

     本作品のなかでも面白いのは無名作家の日記の芥川への嫉妬、羨望だろう。
    作品中の登場人物の山野は芥川、語り手の富井は菊池寛がモデルでフィクションを交えて描かれている。
    印象的なのは自分とは対照的に着々と文壇への道を天才として世に認められていく山野に対する隠しようのない嫉妬と羨望の描写だ。
    山野の作品が次々と文壇に高評価され、自分は無名作家の一人として葬られるのではないかという不安と早く自分も文壇の末席にと焦燥感がひしひしと伝わってくる。
    この気持ちは良く分かる。
    私もテレビや人づてなどで人の成功した話を聞いても素直に喜べない自分がいる。運が良かったとか才能があるんだと思おうとして、そんな自分自身に嫌悪感をいだいてしまう。
    本作品では山野は底意地が悪く罠にはめておとしめたりと嫌な奴として描かれ悪意すら感じる。
    『文豪社長になる』を読むと分かるが中央公論に推薦したのは芥川で、その芥川を悪く描くというところが面白い。
    いや、もしかしたら悪い方にしか受け取れない醜い自分の心情を描いているのかもしれない。
    勿論二人の友情と、お互い作家なので理解してのことだと思うけど芥川が本当のところこの作品をどう思ったのか知りたい。
    芥川への思いは本書に収録されている『芥川の事ども』や芥川賞を創設したことからも良き友人だったことが良く分かる。

    親友に対する嫉妬心や自己嫌悪なんて普通あまり知られたくない人の裏の部分を正直に明け透けなく小説として描いてしまうところがなんとも滑稽で菊池寛らしい魅力ある作品。
    そんな苦労をした菊池寛だから若手の育成や支援や援助を惜しまなかったのかもしれない。
    そう、彼がいなければ私達は川端康成や江戸川乱歩、直木三十五、林芙美子の作品を目にすることがなかったかもしれない。
    菊池寛、芥川龍之介、二人の文豪の貴重な若かりし頃の苦い1ページを垣間見れた一冊。
     
    もし本書を読む機会があれば門井慶喜の『文豪社長になる』をあわせて読むのをお薦めする。

  • 菊池寛(1888-1948)。
    「半自叙伝」は39~40歳の時に「文藝春秋」に連載。高校時代からの親友・芥川龍之介とふたりで長崎旅行をした時(31歳)のことで終わっている。だから「半」自叙伝。「逸話の問屋」の異名をとる菊池寛だが、当然ながら自分のことゆえ、逸話は出てこない。淡々と思い出すことを綴っている。最初はこんな感じ。「少年時代のことは、何も書くことはない」。
    学生時代がおもしろい。東京高師に入学するも、翌年除籍。旧制一高で学ぶが、卒業を目前にして、盗難事件の罪をかぶって退学。その後、売れっ子だった上田敏を慕って京大の英文科にもぐりこむ。しかし、その上田教授はつれない(彼のお眼鏡にかなったのはほかの学生)。研究室にはアイルランドの演劇本が揃っていて、シングやダンセイニに夢中になる。
    京都ではかなり孤独な生活、そしてとにかく貧乏だった。京大の学資金は、一高の級友・成瀬の父親がその貧窮ぶりをみかねて出してくれた。卒業の頃、上田敏が逝去するが、葬式には出なかった。というのも、香典代がなかった。
    「無名作家の日記」は、京都に都落ち(!)してしまった自分の鬱屈と焦燥を多少のフィクションを入れて描いている。

  • 無名作家の日記は既読。半自叙伝をもとに他の作品を読むと何となく菊池寛の生涯や考え方が見えてくる。無名作家の日記はあくまで小説というスタンスであるが、本音はどこにあるのやら。そうした人間味の見え隠れするところが面白いとも言える。

  • 菊池寛って無名作家だっけ?

  •  
    ── 菊池 寛《半自叙伝・無名作家の日記 他四篇 19530505-20080116 岩波文庫》
    「葬式に行かぬ訳/回想「上田 敏先生の事」/晩年の上田敏博士/芥川の事ども」
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4003106334
     
    …… 二十五歳未満の者、小説を書くべからず。
    ── 菊池 寛《小説家たらんとする青年に与う 192312‥ 半自叙伝》
    http://www.aozora.jp/misc/cards/000083/files/shosetsuka_tarantosuru.txt(*)
     
    https://twilog.org/awalibrary/search?word=%E8%8F%8A%E6%B1%A0%20%E5%AF%9B&ao=a
     Kikuchi, Kan 18881226 香川 東京 19480306 59 /
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/search?idst=87518&key=%B5%C6%C3%D3+%B4%B2
     
    (20140816)(20210708)
     

  • 読み終わったとしておきながらも半自叙伝と無名作家の日記しか読んでいないのであしからず。

    ※一部ツイッターより転載

    半自叙伝…
    私の初読の感想後の文末メモ書きによると

    「自虐している割にやる気を出さない。
     これは文学と言うより随筆の類。
     人物が縁のない人なのでイメージしにくい。
     文壇はつながっているよう」

    とある。
    まあ他人様の日記を見ているのだからこうなるのも無理はなさそうな。


    無名作家の日記…
    一般に、この作品の登場人物は菊池の身の周りにいた文士たちの事だと言われている。山野や桑田は、芥川や久米をもじった名前らしい。夏目漱石を頂点に置いていた当時の文壇は、その下に芥川や久米など帝国大学の文学青年によって構成されていて、菊池も最初はその一人だった。しかし、ずんぐりむっくりで熊のような見た目に自信のなかった菊池は、まず彼らとの見た目の違いにやや引け目を感じ、文壇で彼らが名を馳せ始めると、今度は自分の作品がそのように日の目を浴びることはないのではないかと思い始めた。
    そんな彼の考えをパロディ化したのが本作であるが、この作品に書いてあることは必ずしも実際の出来事と全て一致するわけではない。この作品が、半自叙伝と同書に収録されていることに注目されると分かるが、明らかに時期を同じにしていると思われるにもかかわらず、半自叙伝に記されていた青木の學ラン盗難事件のことは全く書かれていないのである。これは、実際の出来事と本作に書かれている部分へのギャップ、ズレを意味する。授業で解説されたところによると、この作品を当時の文学青年たちが読んで、主人公と自身の身の上を重ねることが出来そうではあるものの、そうした事実と作品とのずれがあることから、単なるパロディに終わらない作品である、とのことだ。
    とはいえ難しい解説抜きにした感想としては、菊地寛を応援したくなる楽屋落ち小説でした。これ当時読んでた人笑っただろうなあ、と。

    全体的に感想よりも解説が必要そうな印象であります。

  • 『半自叙伝』

    『無名作家の日記』
    作家を目指す「俺」。東京の仲間たちから離れ京都で執筆活動を行う。認められない彼の作品。東京の仲間たちが出版した同人誌の良い評判に対する嫉妬。彼の周囲の人々の低評価を聞き慰められるが世間での高評価に嫉妬は増大する。

    『葬式に行かぬ訳』

    『上田敏先生の事』

    『晩年の上田敏博士』

    『芥川の事ども』

  • 旧制高校の雰囲気や、
    芥川や菊池寛が持っている価値観というのは
    良くわかる本。
    若者が文学をする、ということは今では何か古い感じがしてしまうが、
    あのころは流行の最先端であった。
    今でいう映画監督のような花形的な地位であったのだろう。
    若者が自らの知性や感性を武器に、戯曲や小説を書きあげる。
    挫折にのたうちまわる無名作家もいれば、
    気のきいた文章を書きのし上がっていく作家もいる。
    そういうことに昔の若者も夢中になった。

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著者プロフィール

菊池 寛(きくち・かん):1888年、現・香川県高松市生まれ。1916年、京都帝国大学英文学科卒業。卒業後より時事新報記者として働きながら、短篇小説「恩讐の彼方に」をはじめ作品を発表。代表作に『真珠夫人』『藤十郎の恋』、戯曲『父帰る』ほか多数。1923年、文藝春秋社創業。芥川龍之介賞・直木三十五賞の創設者でもある。1948年逝去。

「2025年 『半自叙伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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