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- 本 ・本
- / ISBN・EAN: 9784003106518
感想・レビュー・書評
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「春泥」は1928(昭和3)年、短い「花冷え」は1938(昭和13)年の作品。
岩波文庫にときどきある、旧字体・旧仮名遣いの本である。これに慣れてもいるのだが、画数の多い旧漢字は老眼には判読が難しくてまいった。平仮名の多い平易なはずの文体なのに、こんにちでは使われないような言い回しがたくさんあって、読み進むのに少々手こずった。
純文学というか、日本の近代小説である。エンタメ系の小説を読むのとは、やはりかなり異なる感触がある。これは脳内に分泌される化学物質による違いによるのだろうか。哲学書を読む時と、気楽な小説を読む時とでは、脳内の活性化する部位が違っているような気がしている。
「春泥」は地の文において、非常に凝った文学的表現が見られ、味わい深い。この時代の「凝った文体」というと私は何よりも泉鏡花を思い出す。鏡花の場合は凝りすぎとも言えるのだが、その凝りまくった文章の、言葉の端々から物語要素がにじみ出しくるかのようで、文体と一体となった小説芸術の粋という観がある。
本作はそこまでは行かないが、味のある文章をつづりつつ、当時の「役者」稼業の風俗を描き出す。当時は役者などやるのはしょうもないごろつきと扱われていたようで、現在の俳優たちの世界とは違うわけだが、明治以降の日本の演劇史はどうなっているのだろう、と興味が湧いた。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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