犀星王朝小品集 (岩波文庫 緑 66-3)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (239ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003106631

作品紹介・あらすじ

哀しいまでの美しさを後代に曳く遙か王朝の世の女性たち。伊勢物語など、平安朝の文学に材を求め、彼女らの心のうちにある熾烈なまでの情感の糸にふれた犀星の王朝物語は、人間の魂の深部を恐ろしいほどに照らし出し、余人の及ばぬ独自の小説世界を現出している。「姫たちばな」など7篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 室生犀星が思う、女性の美しさや魅力を満載した短編集。時代のベースは平安辺りだが、解説曰く文化や人物の整合性は取れていないとの事。
    作者らしい出来だが、各篇傾向が似ており読み進む毎に少し退屈を感じてしまった。

  • 『幼年時代』『あにいもうと』『杏つ子』などを読んだはずなのに、なんとなくその後しばらく疎遠だった室生犀星を、あらためて読み返す契機となった本。先に(自伝的)小説を読んだから、そこから私には予想できなかったこういう作品集があるんだ、室生犀星って、こんな人だったんだ……、と。
    森茉莉の随筆に彼のことが頻繁に出てくる、彼女とそのような文章の応酬をした人、これほどの交流をした「saisei」とはどんな人だろう、とあらためて思ったのが、この本を手にした本来の動機でした。
    そして、引き込まれました。

    この岩波文庫の解説は中村真一郎によるものですが、その解説によると、
    「ある時、老犀星は中年にして妻を失って孤独をかこっていた私をからかうのに、『君、自分のこととして、小説に書きにくいことは、大納言は……とやればいいんだよ』と、私をそそのかし、人の悪い笑いを浮かべて、私の顔をのぞきこんだ。」
    ということです。
    そうなのです、王朝物といっても「でたらめばかり」(堀辰雄曰く)のこの物語集、けれども、これも解説にある如く、
    「それよりも、その妖精たちの舞踏する夢の世界のなかに、この世に生きている私たち人間の魂の苦悩が、いかに深く純粋な密度をもって立ち現れてくるか、その波に巻きこまれ、心の底まで揺るがされる恐ろしい快楽を味わうことの方が、読者にとっては必要なのである。」
    と、そういうことなのです。

    つまり私はそのとおり、この本を読んで「恐ろしい快楽」のようなものを味わったのでした。犀星恐るべし、と思ったのが、さて、もう二昔以上も前のことになりますけれど。姫たちばな津の国人玉章花桐荻吹く歌野に臥す者舌を噛み切った女 またはすて姫以上、7篇所収。

  • 室生犀星の王朝物と呼ばれる短編集です。解説にも書いてありますが、時代考証はむちゃくちゃですが、とても面白いです。
    女性の美しさと強さを中心に描かれた作品ばかりで、女性崇拝の考えが滲み出ています。
    絢爛とした美しい短編集でした。

  • 室生犀星の、平安時代の雰囲気を帯びた小説七篇。

    下記は覚書
    「姫たちばな」…
    宿命的な形で一人の女をあらそうことになった、
    ふたりの男と、その女の話。

    「津の国人」…
    妻の筒井と、その夫と、時間の流れと縁と情との話。

    「玉章」…
    死と縁の話

    「花桐」…
    花桐と持彦の他に類を見ない恋の話

    「荻吹く歌」…
    宮仕えすることになった生絹と、
    没落してしまった夫の話

    「野に臥す者」…
    経之と、異母弟の定明と、はぎ野の話

    「舌を噛み切った女」…
    すて姫と呼ばれ、野盗と暮らす女の話

    どの話も物語が大変おもしろかった。
    特に「姫たちばな」と「津の国人」がお気に入り。

  • 室生犀星のファンタジーというか美意識というか、美しい女を描きたいという欲望が全開の作品集。前半の3編あたりが特によい。巻末の中村真一郎の解説もよい。

  • 王朝ものといいつつ、あんまり史実をきちんと調べない人だったらしく(苦笑)、まあ一種のファンタジーとして読むのが良いかと。だいたい出来のよい嫁と、ダメ亭主の話が多いですが(笑)、「舌を噛み切った女」とかは鬼気迫る感じで好きだったなあ。

  • 旅行先で読み終わった。
    時代考証の置いてけぼりが粗にならない匂やかな小説。
    筒井とすて姫が好き。
    室生犀星もっと読みたい。

  • メモ

    ・姫たちばな=ひとりの女をめぐって争った男は相討ちになり、女も後を追う。大和物語が元ネタか
    ・津の国人=帰ってくると約束した男を三年待ち続けた女が、その気立ての良さから良家の子息に見初められ、結婚しようという前日に男が帰ってくる。伊勢物語が元ネタか
    ・玉章=手紙のような話
    ・花桐=年上の女と青年が互いに恋に溺れて人生の栄達というものを捨てる話。この本の中では珍しく悲恋ではない
    ・荻吹く歌=元々恋仲であった二人が女は京都で出世し、男は落ちぶれてしまう。再会した時には既に元の仲には戻れない
    ・野に付す者=しっかり者の兄と堕落した弟の話。弟は女を連れて家を逃げ出すが逃げ出した先の村で女には捨てられ、野に火をかけられ、兄に助けられることを拒んで死ぬ
    ・舌を噛み切った女=山賊に育てられた女が敵対した山賊の長に犯されて子を身ごもるが、以前に助けた都の姫を頼って山を降りる話

  • たおやかで凛とした佳人たちが心に残る。大和物語や伊勢物語など、いつか聞いたことがある話に題材を取り、どこか懐かしく書き起こされた作品群。他の方も触れているように、また解説にあるように、時代考証的にはでたらめな部分も多々あるようだ。だが、物語を聞いたとき、ふわっと浮かぶイメージをすくい取ったような、ある意味、本物より本物らしいおとぎ話となっていると思う。*ヨナキウサギさんの紹介で読んでみようと思ったら、何と、家の本棚に発見。それも87年印刷、定価400円。20年以上前に買ったものと思われる。そう言えばこのころ、岩波文庫をよく買っていたような気もするので、買っていて忘れていたのか、それとも連れ合いが買っていたものか・・・?いずれにしろ、新鮮な再会があったのも紹介者さんのおかげ。感謝。

  • 王朝物語ばかりのもの。そして男女の話ばかり。うかうかして読んでいると素晴らしい節を見逃してしまうから侮れない小説。犀星は小説家としても素晴らしかったです

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著者プロフィール

詩:詩人・小説家。本名、照道。金沢生まれ。北原白秋・萩原朔太郎らと交わり、抒情詩人として知られた。のち小説に転じ、野性的な人間追及と感覚的描写で一家を成す。「愛の詩集」「幼年時代」「あにいもうと」「杏つ子」など。


「2013年 『児童合唱とピアノのための 生きもののうた』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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