地獄変・邪宗門・好色・藪の中 他七篇 (岩波文庫 緑 70-2)

著者 :
  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003107027

作品紹介・あらすじ

地獄変の屏風絵をえがくために娘に火をかける異常の天才絵師を描いた『地獄変』、映画『羅生門』で一躍世界に名を馳せた『薮の中』など表題作のほかに『運』『道祖問答』『袈裟と盛遠』『竜』『往生絵巻』『六の宮の姫君』『二人小町』を収める。王朝物とよばれるこれらの作で、芥川(1892‐1927)は古い物語の中の人物を見事に近代に蘇らせた。

感想・レビュー・書評

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  • 藪の中;1921年(大正10年)。
    上質なサイコミステリのよう。古今の推理小説を探しても、これだけシャープな短編は稀だと思う。無駄のない研ぎ澄まされた構成に、常套句になるだけのことはあると納得。1つの殺人に3つの解釈、真相は今も…。

  •  短編11編を所収。これら作品群は、芥川龍之介の「王朝もの」と称されているという。

    「地獄変」。常に究極な表現を追求するマッドな絵師・良秀が、地獄の絵図の発注を受ける。そして、写実的にデッサンしたいので、若い娘が牛車ごと炎に包まれる様を見たいと、大殿様に所望。ところが、用意された牛車で焼かれるのは、絵師の娘、美しく気立てのいい最愛の娘なのであった。この場面、さすがの絵師も筆を取ることが出来ぬ。絵師の狂気というよりも、犠牲者に絵師の娘を選んだ大殿様のほうが残酷と感じた。
    その他、絵師がアトリエに、諸々の画題のために、ミミズクやら蛇やらを飼育しているところは、なんだか楽しい。少々江戸川乱歩な味わい。

    「邪宗門」は、摩利信乃法師、沙門(出家修行者)という者が登場。摩利信の教え、は邪教らしきもので、その伝道者らしい。(十文字の護符を掲げることもあり、キリスト教らしくも思われる。)沙門は魔術めいた技を繰り出し、京の人々を驚かせる。中篇。伝奇ものなのか? 話の行方がわからぬまま、未完で途絶。 

    「藪の中」は、少し高貴らしき女とその夫が、森の中(藪のなかで)強盗に襲われる。女は強姦され、男は殺される。その顛末、その事実を、関係者の証言を併列させて描く。だが、関係者、当事者の語る「事実」は異なっており、何れが「真実」なのかわからない。構成の巧みさが卓抜。

    「二人小町」は、軽妙なコメディ。小野小町のもとに死神の遣いが登場。黄泉の国に連れ去ろうとする。が、小野小町はまだ死にたくない。そこで、死神の遣いを騙し、もう一人の小町(玉造の小町、不美人)を代わりに連れていくよう画策するのであった。

    その他、「好色」、「運」「袈裟と盛遠」などを所収。

  • 3.72/597
    内容(「BOOK」データベースより)
    『地獄変の屏風絵をえがくために娘に火をかける異常の天才絵師を描いた『地獄変』、映画『羅生門』で一躍世界に名を馳せた『薮の中』など表題作のほかに『運』『道祖問答』『袈裟と盛遠』『竜』『往生絵巻』『六の宮の姫君』『二人小町』を収める。王朝物とよばれるこれらの作で、芥川(1892‐1927)は古い物語の中の人物を見事に近代に蘇らせた。』


    目次
    運/道祖問答/袈裟と盛遠/地獄変/邪宗門/竜/往生絵巻/好色/藪の中/六の宮の姫君/二人小町



    (冒頭)
    『目のあらい簾が、入口にぶらさげてあるので、往来の容子は仕事場にいても、よく見えた。清水へ通う往来は、さっきから、人通りが絶えない。金鼓をかけた法師が通る。壺装束をした女が通る。その後からは、めずらしく、黄牛に曳かせた網代車が通った。それが皆、疎な蒲の簾の目を、右からも左からも、来たかと思うと、通りぬけてしまう。その中で変らないのは、午後の日が暖に春を炙っている、狭い往来の土の色ばかりである。
     その人の往来を、仕事場の中から、何という事もなく眺めていた、一人の青侍が、この時、ふと思いついたように、主の陶器師へ声をかけた。
    「あいかわらず、観音様へ参詣する人が多いようだね。」』


    出版社 ‏: ‎岩波書店
    文庫 ‏: ‎243ページ

  • 平安な雰囲気がよろしい。「新・平家物語」の後に「袈裟と盛遠」、「少将滋幹の母」の後に「好色」、「大鏡」の後に「地獄変」を読んだので、更に面白かったかも。

  •  芥川龍之介の本の中で、この邪宗門は読み辛い筆頭だろう。未定稿であると断っているが、全体にまとまりがない。短編小説は意図が明確で無いと…

  • 芥川の王朝物のなかから短めのもの十一篇が収録された短編集。


    芥川って今まで本当に「羅生門」と「蜘蛛の糸」しか読んだことがなかった。なんかもう馬鹿みたいだけど、めちゃくちゃに上手い!自分が今までどれだけ教科書的な先入観に侵されていたかを反省。
    とにかく文章を目で追うだけでうっとりしてしまう。「運」の、簾の隙間から覗く往来の風景描写。「地獄変」「邪宗門」での、『大鏡』の語り手を思わせる人を食った語り口。「道祖問答」「好色」「二人小町」の洒落たユーモア。漱石門下で西洋文学の読み方をガッチガチに身につけながら、日本中古の説話集から題材をとることによって、捉え直された物語のエッセンスが凝縮され、完全に〈今〉の小説と感じられる。たしかにこの人はすごい発明家だ。
    「竜」は西崎憲の「雨竜見物」の元ネタかな?というかそれが収録された『蕃東国年代記』の宇内というキャラクター自体、「邪宗門」の若殿をモデルにしているように思える。『蕃東国〜』は日本をモデルにした架空の極東の島国という設定で、西洋から見た東洋のイメージを巧みに織り込んでいたが、芥川にもそういう逆輸入されたオリエンタリズムが溢れていて、だからこそ現代的なんじゃないだろうか。小説の形式としては完全に西洋文学で、平安貴族界のドンファンを描いた「好色」や、黄泉の使者すら手玉に取る女たちを描いた「二人小町」などの喜劇はフランスっぽい。「邪宗門」の摩利信乃法師もアポリネールの贋救世主みたいだし、「道祖問答」はオスカー・ワイルドっぽい。全体に、ユルスナールの『東方綺譚』も思い出させる。
    また、はじめてまとまった作品群を読んだが、こんなに〈恋〉をテーマにした作品が多いのはイメージになかった。愛ではなく、より執着と幻想に近い〈恋〉。あるいは、その執着を引き起こす〈運命〉を取り扱い、身を滅ぼすほどの破滅へと人を導く恋の引力を物語の中心に据えていたのが意外だった。「藪の中」はここに男のメンツ問題が絡んできてドラマティック。でもこれ、誰の話が正しいにしろ、女は責められる謂れなくない? 一番好きなのは「邪宗門」!未完なのを知らずにエッと声を上げてしまった。こんないいところで……。
    作中の女性観にイラッとするところがなくて、これもすごいと思う。もちろん王朝時代を舞台にしているのだから、登場人物たちは夜這い当たり前・女は男の所有物・行き遅れは無価値、という価値観の持ち主なのだが、それに対して地の文には人を物のように扱うことへの批判的な目線がはっきりと感じられるのだ。同じ目線は男女の関係だけではなく、身分制度というものにも当然向けられている。また、理想のみを見て実態から目を背けることの滑稽さをも描いており、崇めるにせよ見下すにせよ、他人を自分に都合よく解釈する視線には疑問を呈している。その上で、キャラクターをオブジェのように作り出して配置する物語作者としての自覚も強い。この二つが合わさると、今日基準のリテラシーで眺めても手放しで素晴らしいと思える作品になるのだなと思った。フィクション作家はみんなこうであってほしいものだよね。
    あと、思ってるより全然エンタメ小説だったのも驚きだった。どんだけ先入観強いんだよって感じだけど(笑)、文体も勿体ぶったところがないしリーダビリティが高い。芥川が衒学趣味と言われたのは、自然主義小説全盛期に虚構世界のディテールを突き詰める人だったからなのかもしれない。精巧に作られたジオラマをのぞいているような、色褪せないきらきらのブローチみたいな小説。

  • 藪の中。
    誰もが自分の世界では主人公。

  • 芥川龍之介の王朝物。
    「運」…仏のご利益についての短編
    「道祖問答」…道命阿闍梨と翁の短編
    「袈裟と盛遠」…袈裟と盛遠の独白からなる短編
    「地獄変」…地獄変を描く絵師の短編
    「邪宗門」…異形な沙門をめぐる短編(未完結)
    「竜」…源隆国と思われる人が双紙を編む短編
    「往生絵巻」…多度の五位という人物が出家した短編
    「好色」…平貞文の短編
    「藪の中」…今昔物語の『妻ヲ具シテ丹波ノ国ニ行ク男大江山ニ於テ縛ラルル』を題材にした短編
    「六の宮の姫君」…身寄りのない姫と、姫を残して京を去る男の短編
    「二人小町」…小野小町と玉造小町の短編

    「運」の題材も今昔物語『貧女清水観音値盗人夫語第三十三』だそう。
    「地獄変」、「邪宗門」の堀河の大殿とその若殿は、
    藤原基経と藤原時平のことだろうかと思いつつ読み進めていたけど、
    実際の人物に定められるものではないようでした。
    モチーフにはしているのかもしれません。

    「邪宗門」は、本当に良い所で未完となっており、続きが気になります。

    「袈裟と盛遠」は、ちょうど吉川英治の「新・平家物語」で、
    このエピソードを読んだところだったので、また違った趣を楽しみました。

    「六の宮の姫君」の最後に、慶滋保胤が出てきます。
    この話は小泉八雲の「和解」と少し似ています。

    単純な感想ですが、どの短編も、「すごく面白い」です。

  • 表題外の収録作について。
    「袈裟と盛遠」は個人的に感じ入るものあり。
    二人が複雑な葛藤を経てどうしようもなく堕ちてしまわざるをえない様が、(私には)他の作品と少し違った読後感を持った。

    邪宗門が完結していないのが、それもここから盛り上がるであろう部分で終わっているのが本当に残念でならない。
    芥川は後書きで、未定稿を上梓する理由の一つとして「作者の貧」を上げている。それ自体は残念だが、世に出てくれて、また途中までだが読めてよかったと思う、「読ませる」作品である。
    また、本作品は芥川にしては長編に思う。

  •  ネタ本として購入。

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著者プロフィール

1892年(明治25)3月1日東京生れ。日本の小説家。東京帝大大学中から創作を始める。作品の多くは短編小説である。『芋粥』『藪の中』『地獄変』など古典から題材を取ったものが多い。また、『蜘蛛の糸』『杜子春』など児童向け作品も書いている。1927年(昭和2)7月24日没。

「2021年 『芥川龍之介大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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