上海 (岩波文庫)

著者 :
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本棚登録 : 137
レビュー : 15
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003107522

作品紹介・あらすじ

一九二五年五・三〇事件とは?日系紡績工場ストライキで出会う在留邦人と中国共産党の職女芳秋蘭。金融界から風俗業まで轟く排日排英の足音、露地に軋む亡命ロシア人や湯女の嘆き。国際都市を新感覚派の手法で多声的に描く問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 完璧な作品かって言うと、まぁ、そんなことはないんですよね。
    ひとつひとつの筆捌きには凄味があるんですけど、
    焦点が定まらず終始どこかが暈けていて、
    総体としては何となくぼんやりとしてしまっています。
    とはいえ、もやもやした感覚も決して心地悪くはないから評価に困ります。


    そんな中でとりわけ面白いと思ったのは以下の二点。
    ひとつは当時の感覚、もうひとつは群衆の表現です。

    内省的な描写が多く1920年前後の日本人の内面が垣間見えます。
    登場人物は割に多いのですがどこか共通する感覚があって、
    それは必ずしも今の感覚とは一致せず、
    背景を考えながら読むとかなり面白いです。

    群衆の描き方に関しては単純に上手いと言い切れないところがあって、
    感覚的な表現をするあまりひとりひとりの顔がまったく見えず、
    泥の塊が街をうねるように感じるんですよね。

    自分の知らない時代の感覚と独特の表現に惑わされながら、
    異国の路地を彷徨うように読む。そういう小説なんだと思います。

  • 横光利一の著作をいくつか読んでいるけれど、文章に感動する。
    読んでいて、描写されるものが立体的に浮かび上がる。すごい。
    古い作品なのに新しく感じる。

  • 読み応えがある。読後感に鉛のような重さが胸の内に残る。

  • 「日本人」とは誰か少し気に掛かるが、読み応えある小説なのは確か。昔、或る実作者が言うには、横光利一の長編小説は経済小説である云々。すれ違う恋愛模様は高踏的か、定石か。図書館本。 47

  • これはかなり実験的要素が強い。何の予備知識もないまままともに読んだら、正直、頭がクラクラした。だけどその描写は、横光が新感覚派の旗頭と呼ばれるのに全く恥じない、光る表現が次々と現われ、読者を飽きさせない。

    一番心に残ったのは上海の街の描写。「崩れかけた煉瓦の街。其の狭い通りには、黒い着物を袖長に着た中国人の群れが、海底の昆布のようにぞろり満ちて淀んでいた。…彼らの頭の上の店頭には、魚の気胞や、血の滴った鯉の胴切りが下がっている。…皮を剥かれた無数の豚は、爪を垂れ下げたまま、肉色の洞穴を造ってうす暗く窪んでいる。そのぎっしり詰まった豚の壁の奥底からは、一点の白い時計の台盤だけが、眼のように光っていた。」
    この一例を読んでも、焦点の当て方や色遣いが、センスのいい映像作品を思わせる。

    一方で、人物描写は、特に主人公の参木の心理描写がとにかく不安定で、読む方も掴み所のない感じが始終付きまとう。なんせ参木の人物像でわかっているのは、上海の銀行に勤め、もう十年も日本を離れ、日本に母を残し、かつて友人の妹を慕っていたがその妹は別の男と結婚したとか、そういうことだけ。生い立ちかとか、日本のどこで育ったかとか、なぜ上海にいるのか、などの内面を覗かせるような描写がほとんど見当たらない。まるで年恰好はわかるのに、のっぺらぼうのように顔の造形がはっきりしない人物。
    だが、それは十分、作者の意図の範囲内だろう。まるで彫刻刀で荒く削ることでかえって特徴を浮き立たせる彫像作りの手法のようだ。

    人物描写がそんな感じだから、ストーリー展開が成すがままのような感じで、山場がないというか、行き当たりばったり、そんなふうにも感じられる。しかし、これも作者の意図で、余剰な事件性の付加や過剰な演出を人物に与えることは、街の描写で見られるような新感覚的表現の輝きをかえって鈍らせるだけ、と考えたのかもしれない。考えようによっては、複数の人物をまるでビリヤードの球のように上海の街というテーブルの上でぶつけ、あえて球を不規則に進むがままに任せ、その集合離散を横光は上から見て描いているような感じがする。

    それはある意味、お決まりの小説(特に日本の小説)のパターンから厳然と離れようとする作者の強い意図として、街の描写と人物描写とが相まって、横光のオリジナリティーとして形成されているように思われる。
    だから、この作品については、オリジナリティー追求のための実験ということで、「成功」「失敗」で語るのはやめたい。
    (2013/5/18)

  • 売却済み

  • 主役は上海。人物の描写が淡白なのに対して、上海という都市を生き物のように緻密にデッサン。都市全体が蠢く蛆虫のようにぐちゃぐちゃで悪臭漂い、五・三〇事件の喧噪はレミングの群れのごとく断崖まっしぐらに盲進、視覚的イメージを喚起させます。それに比べ登場人物の男性は優柔不断でイデオロギーもない、なんだかわからんうちに政治運動に巻き込まれどうにか切り抜ける‥が、なんの心的変化もなく元の通りの虚無っぷり。無駄な心理描写を省くのが新感覚派なのですか? いい感じの文体、面白かったです。

  • 男と女の惹かれあいよりも、上海という街が抱える猥雑さや禍々しさ、さらに文中に頻出する泥溝(どろどぶ)の語が象徴するような異臭を放ち、澱んだ雰囲気の描写に強い印象をもった。カオスからは様々なものが生まれるように生命力溢れる未来への希望が感じられるときもあるのだが、ここ上海では一部の人には束の間の華やかな人生を味わえたのであろうが、それよりも排日排英運動のさなか多くの人が殺され、さらに時代が下って日本軍の起こした上海事変によってさらに多くの無辜の人々が死んだり傷ついたりしたという陰惨な歴史のほうが際立っている。

  • 群集の描写がものすごいです。

  •  1925年の上海を舞台に描かれた小説。背景になっているのは日系紡績企業での争議をきっかけに起こった「五・三十事件」。列強に支配されていた上海、「魔都」と呼ばれた独特の雰囲気が、イギリスからの独立を志すインド人、ドイツ人やアメリカ人の駐在員、没落したロシア貴族など、この時期の上海でしか存在しない人たちとの係わりから浮かび上がる。今や世界経済を牽引する近代的な大都市になった上海。20世紀初頭の混沌とした姿はあとかたもないが、快適なホテルの一室でかつてこの街を行き交っていた人々に思いを馳せてみるのも一興。

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