- Amazon.co.jp ・本 (362ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003107614
感想・レビュー・書評
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心象のはひいろはがねから
あけびのつるはくもにからまり
のばらのやぶや腐植の湿地
いちめんのいちめんの諂曲(てんごく)模様
(正午の管楽よりもしげく
琥珀のかけらがそそぐとき)
宮沢賢治の小説は苦手だが、詩は好きだ。「雨ニモマケズ」や「永訣の朝」もいいが、「春と修羅」が一番好きだ。何を言っているのかはわからないのに、何が言いたいのかはなんとなくわかる、この不思議な言葉の連なりが好きだ。
いかりのにがさまた青さ
四月の気層のひかりの底を
唾(つばき)し はぎしりゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(風景はなみだにゆすれ)
『銀河鉄道の夜』から連想される、聖人君子みたいな賢治はここにはいない。ここにいるのは、潔癖さゆえのフラストレーションに悶える、ひとりの孤独な青年だ。遠くに聞こえる雷鳴のような、青白い炎のゆらめきのような、何かひとつでもバランスが崩れれば今にも荒れ狂いそうな、破滅的なエネルギーの予兆。
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
(玉髄の雲がながれて
どこで啼くその春の鳥)
荒ぶる魂は、ときに文法や文脈をも破壊する。しかしその逸脱に、私はほとんど本能的な悦楽を覚える。形式上は破綻しているそれらの言葉は、交響曲のように重なりあい、響きあって、ひとつの世界を形成しているのだ。これが計算に基づくものなのか、感性によるものなのかは、私にはわからない。しかし賢治のように、既存の言葉を破壊してなお、言葉によって人に感銘を与える者がいるとすれば、それは「詩人」と呼ぶよりほかないではないか。
まばゆい気圏の海の底に
(悲しみは青々ふかく)
ZYPRESSEN しづかにゆすれ
鳥はまた青ぞらを截(き)る
(まことのことばはここになく
修羅のなみだはつちにふる)
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私は、 有 明 という詩が、一番好きです。
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まことのことばはうしなはれ
雲はちぎれてそらをとぶ
ああかがやきの四月の底を
はぎしり燃えてゆききする
おれはひとりの修羅なのだ
青もとい靑の印象が強い詩集。ふと泣ける。言葉の断片が詩集を閉じても浮かんで来てしまう。明るい雨の中のみたされない唇、とか。抒情的な透明感が物凄いと思う。岩波文庫の書体も古めかしくて色っぽくて好い。 -
本を開くと、イーハトーヴを流れる風の透明さと、土の匂いと、生い茂る草と、光る花々が見える。詩のことばで書かれた科学のことばは、木の芽のようにやはらかく、時には金剛石のように硬く光る。賢治の「ほんたう」を求めるこころのひたむきさに打たれ、泣きたいような気持ちになります。いつでも傍に置きたい本です。あまりに深く囚われているのでうまくレビューが書けません。
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賢治というフィルターを通っていろいろと濾過された結果のこの純度って言う。純粋性がマジこわい。
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「阿耨達池幻想曲」!
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収録:「春と修羅」「東京」「文語詩稿」「肺炎詩篇」「手帳より」「歌曲」
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「春と修羅」が好きです♪
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民俗学、宗教学、科学、自然学、哲学的
に見ても奥深い彼の詩の世界。 -
賢治は大好きな作家です。一番長く読んでいる詩人といってもいいでしょう。童話も大好きですが、私が最も愛してやまないのは『春と修羅』の『序』なのです。「わたくしといふ現象は 假定された有機交流電燈の ひとつの青い照明です (あらゆる透明な幽霊の複合体) 風景やみんなといっしょに せはしくせはしく明滅しながら いかにもたしかにともりつづける 因果交流電燈のひとつの青い照明です (ひかりはたもち、その電燈は失はれ)」 私にはこの時の賢治の思いがストレートにこちらに伝わるような気がするのでした。
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ポタシュバルブの心臓。
自己の凝縮、福祉の輝き -
それは古いふるい記憶の彼方の昔に嗅いだ、憧憬にある夏草の薫りである。