伊豆の踊子・温泉宿 他四篇 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
3.55
  • (20)
  • (40)
  • (64)
  • (8)
  • (0)
本棚登録 : 479
感想 : 52
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003108116

作品紹介・あらすじ

旧制第一高等学校に入学した川端康成(1899‐1972)は、1918(大正7)年秋、初めて伊豆に旅をして、天城峠を越えて下田に向かう旅芸人の一行と道連れになった。ほのかな旅情と青春の哀歓を描いた青春文学の傑作「伊豆の踊子」のほか、祖父の死を記録した「十六歳の日記」など、若き川端の感受性がきらめく青春の叙情六篇。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 「十六歳の日記」。
    冒頭の祖父尿瓶(しし)のシーンも凄い。
    が、数え16歳=満14歳が、100枚の原稿用紙を大きなテエブルに据えて、自分ー祖父ー手伝いのおみよ、で話しているシーンが壮絶。
    祖父は半ば痴呆が進んでいるのか、果たせなかった野望を、大隈重信に頼めばなんとかなると言い張る。
    おみよは馬鹿にして笑う、が、ある瞬間ふっと黙ってしまう。凄絶な記録文学だ。
    語り手は淡々と「見ている」……盲目の人を見るという視線の非対称性は、今後、鑑賞用の女を探し求める川端の人生のテーマにつながっていくのだ。
    愛惜と観察。
    時間の区別なくししと食事の要求と。苛立ち。
    スケッチとは、単に思ったことを書くのではない、意思によって「それ以外」を捨象する。
    という点で14歳時点から書き手だったわけだ。
    あとは、川端自身のあとがきも興味深い。

    岩波文庫入りしたのは1952年で、もちろん代表作「伊豆の踊子」も「雪国」も刊行され、さらには全16巻の全集(1948-1954)を刊行中。
    権力獲得期間で、着々と大家への道を作っている段階だ。
    14歳で書く → 単行本収録時、27歳で( )に書き加える → 50歳を超えて文庫化でまた目を通す。
    この繰り返しのしつこさもまた、川端。

    ■「十六歳の日記」
    初読。
    ■「招魂祭一景」
    既読。
    ■「伊豆の踊子」
    既読。
    ■「青い海黒い海」
    既読。
    ■「春景色」
    既読。
    ■「温泉宿」
    既読。
    ◆川端康成自身の「あとがき」
    初読。

  • 『十六歳の日記』
    奇を衒う表現がないので読みやすく、表現が簡素であるためか却って表現以上のものを感じる。

    『招魂祭一景』
    正直、情景が全く浮かばなかった。わざとわかり難く書いているのか、狙い通りに書くとわかりにくくなってしまうのか、それとも当時の著者に表現力が足りないのか。単純に若いだけとも感じられる。

    『伊豆の踊子』
    大学の頃に一度読んで「だから何なんだ」と感じた以来で二度目。『雪国』ほどの胸一杯感はなかったが、それでも今回は、踊子の駆け引きのない少女らしい言動にキュンキュンした。踊子は結局主人公に惚れていたのだろうか。少女から女性への成長の途中といった感じで、場面によって言動に揺れがある(当然)。いつの時代でも、これくらいの女の子の方が却って肝が据わっていて怖いもの知らず。どうかして東京に出てやる、とでも企んでいるようにも感じた。

    『青い海黒い海』
    安部工房の『砂の女』を思い出した。厨二病の男子学生の妄想哲学といった感じ。良い作品かどうかは置いておいて、個人的にはあまり好きではない。『砂の女』も、合間合間にはさむ昔付き合っていた女(?)との話の回想が青臭くて受け容れなかった。

    『春景色』
    ロマンチックな作品。今巻の中で唯一の(?)明るい作品。読みたい本が溜まり過ぎているのであまりじっくりは読まなかったが、なにかの折に引っ張り出してゆっくり読みたい。

    『温泉宿』
    温泉宿にいろんな条件で勤めにくる女たちを描いた作品。今作にかぎらず今巻のどの作品にもいえるが、読んでいると柳田國男の『木綿以前のこと』だっかに載っていた、方々を旅する遊女(?)の話を思い出す。むかしは流れ者というのが沢山いたとか。『温泉宿』の女たちはそれぞれに過去があって、温泉宿にずっといるわけでもなく、出たり入ったり。そこを出て出世することを夢見たり、反対にそこを死場所と思い定めたり、いろんな人がいる。まえに似たような作品を読んだ記憶があるが思い出せない。そのときも余韻が尾を引いて色々頭の中の整理がつかなくなりしばらく病んだ。

  • 横光利一らと共に「文藝時代」を創刊し、ダダイスムな芸術活動の先駆となった「新感覚派」と呼ばれる作家グループの代表的作家・川端康成の短編集。
    本作は氏の処女作から、その文芸活動の前期にあたる作品が収録されています。

    川端康成ははっきりって読みやすい作家ではないと思っています。
    例えば、本作収録の"温泉宿"はこんな出だしで始まります。
    「彼女らは獣のように、白い裸で這い廻っていた。」
    これは何を表現しているかというと、風呂掃除をしている女性たちなんですね。
    こういった、比喩的な、詩的な表現が多用されていて、表現力が多彩すぎて何が書かれてるかすぐにわからない場面が多々あります。
    ある種のクイズのようなこの表現は、イジワルでやってるわけではもちろんなく、例えば上記例の場合、"温泉宿"は実は娼館で、そこに漂う人熱れが一文で伝わってくるようになっており、単に、「女性たちは裸で風呂掃除をしていました。」と書くよりも、より確かに情景が伝わってくるわけです。
    そのため、川端康成の文学は、読むだけで情景が鮮やかに伝わってきて、さらには日本語の美しさ、その多様さ、自由さを堪能できるものになっています。

    ただ、一方で、あまり文学を読まない方は、繰り返し読まないと意味が伝わってこず、文章量の割にはまったく読み進められずに挫折することにもなる可能性もあります、
    一応、掲題の"伊豆の踊り子"が最も読みやすいと思いますが、川端康成らしさというと、私的には、他の作品の方がそう感じます。
    本作収録作は、皮切りとして、川端康成文学に親しむことができると思います。

    各作品の感想は以下のとおりです。

    ・十六歳の日記 ...
    発表されたのは「文藝時代」の創刊後ですが、書かれたのは川端康成の中学3年生の頃で、事実上の処女作です。
    寝たきりの祖父を看病していた日記風の文学で、執筆したことも忘れた頃に、伯父の倉から発見され、注釈等を付加した上で出されました。
    苦しみながら日に日に弱ってゆく祖父の様子を、川端少年の視線から純粋に写実した内容となっており、計算されない死の嫌悪や祖父の看病の煩わしさなどが生々しく克明に描かれます。
    苦しみながら放尿する祖父の尿瓶の音を"谷川の清水の音"と表現するなど、非凡な谷川少年の才覚が垣間見える作品となっていて興味深い作品です。

    ・招魂祭一景 ...
    川端康成の最初期の作品。
    氏は本作で菊池寛から認められ、その他多くの著名な作家から高く評価されたことで商業作家としての地位を得ることとなりました。
    まず、曲馬娘の「お光」から見た、靖国神社の招魂祭の賑わいが描写され、昔、曲馬団にいた「お留」という女性に、早く世帯を持って引退することを勧められる。
    そして、動揺したお光が落馬する、と、まあそれまでの作品なのですが、情景の描写と会話だけで、登場人物の感情、心理が伝わってくるようで、完成度の高い作品と感じました。

    ・伊豆の踊り子 ...
    言わずと知れた川端康成の初期の代表作。
    川端康成の、自身の伊豆旅行の体験を元にしています。
    憂鬱から逃れるために一人、伊豆へ旅行に出た学生の「私」は、旅の途中で出会った旅の一座の踊り子に心惹かれます。
    一座を率いる踊り子の兄と仲良くなり、道中共にすることになるが、という展開で、伊豆の風景美や、「私」と「踊り子」の心理描写が、直接的に表現されていないのに、ダイレクトに伝わってきます。
    氏の代表作であり、テーマも明るく一般的で、読みやすい名作と思います。

    ・青い海 黒い海 ...
    岩波文庫の本作は川端康成自らがあとがきを書いているのですが、それ曰くには"横光利一が非常に褒めてくれた"作品。
    確かに新感覚派らしい、感覚的な作品だとは思いましたが、本作については高次元過ぎて何が書いているのかさっぱり意味がつかめなかったです。
    日本語なのですが、抽象的で、ストーリーがあるのかすらわかりませんでした。
    本作については、ネットを調べてみても明確に解説できている情報もないので、無理して理解せず、"こういう作品も書くんだ"でとどめておくのが吉な気がしています。

    ・春景色 ...
    ある絵かきとその恋人の日々を情景豊かに描写したもの。
    こちらもなんでもない日常の一コマを記述しているだけなのですが、表現が文学的で難解です。
    話がブツブツと飛び、状況を把握するための大事な一行が婉曲的にサラッと書かれます。
    それほどページ数もないのですが、読むのが大変な作品だと思います。
    また、特に物語的な面白さも感じられなかったのも残念でした。
    川端康成らしさのある作品だと思いましたが、おすすめはできないです。

    ・温泉宿 ...
    ある娼館を舞台にした作品で、そこで働く女達について描いたものとなっています。
    土工を相手にするような、安い温泉宿で、体を壊しながら働く事情持ちの女達がの様子が書かれており、明確な主役というものはいません。
    閉鎖的で退廃的な場所で働く彼女たちは、不思議と、躍動的な雰囲気が感じられました。
    個人的には"伊豆の踊り子"よりも表現豊かで、川端康成らしい文学だと感じました。

  • 「 伊豆の踊子 」約30年ぶりの再読。やっぱりいい作品。踊子の少女 薫が素朴で可愛らしい。14歳だという。二十歳の一高生である私を兄のように慕う。しゃがみこんで袴の埃をはらってくれたり、杖に良さげな竹の棒を持って走って来る。いじらしい。読んでいて優しく 柔らかな気持ちになるのだった。
    巻末に「 解説 」でなく、川端康成自身が後世に書いた「 あとがき 」があり、創作の背景などに触れていて興味深い。「 伊豆の踊子 」は人物の多少の美化はあるが、ほぼ実体験だという。知らなかった。川端自身の伊豆の旅での思い出を、後に少し整理したものだという。奇跡のような美しさはそれ故か。
    他に以下の五編を所収。「 十六歳の日記 」「 招魂祭一景 」「 青い海 黒い海 」「 春景色 」「 温泉宿 」。これらの短編・中編は川端の言わば初期の習作。こなれていないものが多い。妙に観念的、象徴的過ぎる作品もあり、作風が定まっていないように思われる。
    「 温泉宿 」は宿屋の女中や酌婦の女達の群像劇で、人物造形に秀でている。リアルである。川端は湯ヶ島温泉に長逗留していた時期があったそうで、その頃の見聞から材をとったものらしい。「 第二の故郷 」と言うほど何度も通い、長逗留したという。
    それら五編と比べると「 伊豆の踊子 」の完成度と美しさは突出している、と改めて感じる。

  • 川端康成自身が短編を選び、解説を加えたもの。
    以下の感想以外の短編も目を通しましたが、
    言い回しや、歴史背景などがよくわからず、挫折しました・・・。

    ☆伊豆の踊子
    自分が孤独根性で歪んでいると、反省を重ね、
    その憂鬱に堪えかねず旅をしたが、
    旅で出会った踊子がとても純粋で可憐であり、
    恋愛ともまた違う好意が芽生え、
    主人公を心身ともに清らかな気持ちにさせてくれた。

    読んでいて、きれいなきもちにさせてくれると思いました。
    今のロリコンとかと通じるものがあるのかなぁ。
    いや、そんなことは無いはず!
    描写がとても美しかった。。

    ☆春景色
    絵かきとその恋人が田舎で生活をする様子を、景観の描写を豊かにして書いている。

    ほのぼの日記。

    ☆青い海 黒い海
    第一の遺言
    きさ子と婚約出来ず、熱病にうなされた時、りか子に呼びかけてもらった。
    第二の遺言
    りか子との無理心中。二人でみた黒い海はりか子がしんだ後青い海だった。
    作者の言葉
    それぞれの遺言の解説

    死と恋の描写がとてもダイナミックに感じられる作品。場面が激しく変化し、恐怖や、儚さを感じ、最後にはちょっとした切なさが心に残った。

  • 【電子ブックへのリンク先】
    https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048432

    ※学外から利用する場合は、以下のアドレスからご覧ください。
    SSO-ID(教職員)又はELMS-ID(学生)でログインできます。
    https://login.ezoris-hokudai.idm.oclc.org/login?url=https://kinoden.kinokuniya.co.jp/hokudai/bookdetail/p/KP00048432/

  • 文章も構成も確かに美しい。複雑でないものを陳腐というのは浅薄だが、しかし、画期的とまでは言えない気がする。伊豆の踊り子以外の篇を未だ読んでいないので、悪しからず。

    薫に投影される、無垢で潔白な女性像というのは、愛情とか神秘を描くのに一役買っているのかもしれない。しかし、時代背景の理解が浅いのかもしれないが、気持ち悪いと感じてしまった。『草枕』の女は神秘的でエロティックで不快感も感じなかったが、それだと温度のある愛情を表現できないから、やりたいことは成功してるのかもしれない。

    というのが今の自分のファーストインプレッションで、文学を味わい、学んでいく過程で変わっていく価値観かもしれません(という予防線)。

  • デビュー作を含む、川端康成の初期の作品集である。
    若さ故か、私の読解力不足か、所々で話者や情景がわかりにくい箇所があった。
    しかし、それでも後の文豪となる片鱗を見せ、毒のないサッパリとした文章でありながら、森や温泉の匂いが鼻先にツンと香ってくるような、艶かしい表現を併せ持っている。

    特に印象的だったのが『青い海黒い海』だ。自殺をした男の手記である。揺れ動く人間情緒を追った他作品とは一線を画した短編になっており、別の作家の作品だと勘違いしてしまいそうなほどだ。かなり哲学的な内容で、ハマる人はとことんハマるだろう。

    日本で2人しかいないノーベル文学賞受賞者は伊達じゃない。しかし、ここまで美しい小説と、あそこまでドロドロとした小説が同じノーベル賞だなんて、私には理解できそうにない。

  • ★4.0 「春景色」
    本人が選んだ初期の作品集。ご本人のあとがき付き。

  • 若い頃に書かれた短編集。
    先日、「伊豆の踊り子」は、雪国の若者バージョン?、「雪国」と比べてフレッシュな感じ。「雪国」に比べて愛情に対する反応も素直。瑞々しい、というべき?
    映像が目に浮かぶ。

    「十六歳の日記」は、死にゆく祖父を写生した日記。

全52件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一八九九(明治三十二)年、大阪生まれ。幼くして父母を失い、十五歳で祖父も失って孤児となり、叔父に引き取られる。東京帝国大学国文学科卒業。東大在学中に同人誌「新思潮」の第六次を発刊し、菊池寛らの好評を得て文壇に登場する。一九二六(大正十五・昭和元)年に発表した『伊豆の踊子』以来、昭和文壇の第一人者として『雪国』『千羽鶴』『山の音』『眠れる美女』などを発表。六八(昭和四十三)年、日本人初のノーベル文学賞を受賞。七二(昭和四十七)年四月、自殺。

「2022年 『川端康成異相短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

川端康成の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×