梨の花 (岩波文庫 緑 83-3)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (479ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003108338

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  • 中野重治(1902-1979)の没後40年を記して......と思つてゐたら、年越しをしてしまひました。
    詩集もいいけれど、ここではわたくしの好きな『梨の花』を登場させませす。

    中野重治が生まれ育つた福井県の農村を舞台にした、自身をモデルにした「高田良平」の成長物語であります。良平の幼少期から少年期、そして青年の入口あたりまでが描かれてゐます。

    良平少年は祖父母に育てられてゐます。「をぢさんとおばば」と表現します。両親はゐないのではなく、三人の妹とともに朝鮮で暮らしてゐます。兄が一人ゐますが、これまた寄宿舎に入つてゐるので、同居してゐません。この兄が、ちよくちよく中学生の読む雑誌なんかを送つてきて、良平はそんなのを読んでゐます。

    物語は、良平少年の視点で語られ、彼と彼をとりまく人々の長閑な世界が繰り広げられます。と言つても、ドラマティックな展開を迎える事もなく、日々の日常が語られるのみであります。
    なんだ詰らない、とお思ひか。

    まあ実際、退屈だと感じる人もゐるかもしれませんが、わたくしにはこの上なく愛おしい世界。
    祖母があつけなく死んでしまふ事、『海底軍艦』を愛読してゐたエピソオド、皇太子殿下を我が村で歓迎した思ひ出、人気の女教師・恩地先生が失踪した話、「いとうこう(伊藤博文)が暗殺された事件、斬髪屋の同級生・谷口タニとの仲を揶揄われる件、中学に進学して読んだ『千曲川のスケッチ』のいやな感じ......

    さういふ様々な、良平の身辺で起きる取りとめもない出来事。しかし子供にとつては大事件であります。中野重治本人の体験には相違ないでせうが、時代と土地は違へど、多くの人が自分の事として追体験できる普遍性を持つてゐるのではないでせうか。
    そして地元の方言が効果大ですな。「......あい」と答へる良平くんが可愛い。

    まあ結局、今年最初の書物としては相応しいものになりましたかな。
    さういふ訳で、本年もよろしくお願いいたします。

  • 越前の村で育つ男の子の、小学1年から中学1年まで。三人称小説ではなく、男の子が語るのでもなく、彼が思ったこと、そのときに思い出した過去のことが切れ目なく記録されている形式なのが独特。6歳の時は6歳の範囲でしか世界が見えないので、読み始めてしばらくはなにがなんだかわからなかったけれど、「これは6歳児の頭の中なんだ」とわかってからは面白くてたまらなかった。子供の頃の、わけもなくおもしろかったりこわかったりする気持ちや、世界に対する信頼感が思い出されて。主人公の男の子は知らないことは知らないままで、少しずつ世界を広げながら地に足をつけて育っていく。そういう健康さに触れると、自分も少しまっすぐになれる気がする。

  • 朝日新聞の紀行で福井県での小説、という紹介であった。児童文学としては他書ではほとんど紹介されていない。その理由は定かではないがわかるような気もする。
     大人向けの小学生中学生の子どもを描いた小説である。

  • 中野重治の自伝的小説。
    少年の視点を通して辿っていく物語。これは好きな作品。

  • 著者:中野重治(1902-1979、坂井市、小説家)

  • (おそらく)福井県の村を舞台に,主人公の少年が,中学生になるまでの日々をつづっている。
    田舎の少年の視線で,子どもの世界と大人の世界を通り過ぎてゆく。
    何か特別な事件が起こるわけではないが,情緒あふれる,なんとなくじんわりする作品だった。

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著者プロフィール

中野重治

一九〇二(明治三五)年、福井県生まれ。小説家、評論家、詩人。第四高等学校を経て東京帝国大学独文科卒業。在学中に堀辰雄、窪川鶴次郎らと詩誌『驢馬』を創刊。日本プロレタリア芸術連盟やナップに参加。三一年日本共産党に入党するが、のちに転向。小説「村の家」「歌のわかれ」「空想家とシナリオ」を発表。戦後、新日本文学会を結成。四五年に再入党し、四七年から五〇年、参議院議員として活動。六四年に党の方針と対立して除名された。七九(昭和五四)年没。主な作品に『むらぎも』(毎日出版文化賞)、『梨の花』(読売文学賞)、『甲乙丙丁』(野間文芸賞)、『中野重治詩集』などのほかに、『定本中野重治全集』(全二八巻)がある。

「2021年 『歌のわかれ・五勺の酒』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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