蟹工船 一九二八・三・一五 (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
3.44
  • (22)
  • (45)
  • (80)
  • (10)
  • (4)
本棚登録 : 526
感想 : 68
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003108819

作品紹介・あらすじ

おい地獄さえぐんだで-函館を出港する漁夫の方言に始まる「蟹工船」。小樽署壁に"日本共産党万歳!"と落書きで終わる「三・一五」。小林多喜二のこれら二作品は、地方性と党派性にもかかわらず思想評価をこえ、プロレタリア文学の古典となった。搾取と労働、組織と個人…歴史は未だ答えず。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今の労働環境にも通じるところがある。本作中にでてくる台詞で、慣れこそが一番の弱点。既成概念を捨てろ!このフレーズが心の底まで鋭い矢になって突き刺さっている。

  • 「蟹工船」を再読。「一九二八・三・一五」初読。
    再読してもやはり面白い「蟹工船」である。絵づらが力強く、引き込まれる。
    冒頭の函館港の描写からしてしびれる。臨場感あふれる活写、煙の匂い、港の臭いも漂ってくる、イキのいい書き出しだ。
    そして、凍てつく最果ての北の海。オホーツク海。カムサツカ(カムチャツカ)の陸地がうっすらと遠望される沖合いでの操業。「兎が飛ぶ」、とされる時化の前触れ。「虐使」される男たちの、疲労、絶望。 
    だが、読後、少々の違和感を抱いてもいる。
    労働者達の悲惨な境遇を描く点で、ルポルタージュを読むような読み応えがある。
    だが、闘争のありようを描く場面に至っては、「労働者達よ、かく斗うべし」という労働運動の教科書の如きもの、情宣読物らしき印象を抱いた。舞台背景のリアリズムの一方で、物語の展開は、一種の“ファンタジー”に飛躍しているように感じられてならなかった。
    後世、ルポルタージュ、という手法が確立した。ルポルタージュに徹して「蟹工船」の労働を描く…、という型式で読みたかった、という我儘な読後感もある。

    「一九二八・三・一五」は、小樽と思われる北の街が舞台。件の日付、その深更。大勢の組合活動家らが、一網打尽に警察に連行される。検挙でなく、任意同行の形をとっているが、有無を言わせぬものである。
    凄惨な拷問の描写で知られるらしいが、私は、連行された活動家たちそれぞれの、様々な人物像が印象に残った。息子の活動におびえて日々涙する老母の姿に動揺する会社員。労働条件と生活改善を願って組合に合流しただけで、命を賭す程の覚悟は持っていなかった男の怯え、戸惑い。 
    信念を強く鍛えた者のみならず、そうした、弱き者の姿も描かれているのであった。
    それにしても、労働組合の成員に対して、かくも無法、無茶な暴力がなされていたことに、改めて驚かされる。

    「蟹工船」は、1929年の作。過日再読した「伊豆の踊子」とほぼ同時代に書かれたものである。一高生の甘酸っぱい青春と、表裏に重ねて受け止めると、感慨深い。 

  • 出勤前に読了。
    「一九二八・三・一五」が読みたくて岩波文庫で購入。
    買って良かった。

    「蟹工船」は2度目。1度目よりもどうにも身につまされる気がするのはきっと最近のわりと酷目な仕事の状況のせい。
    方言ゴリゴリの台詞を読むのに全く苦労がないのは私も北の方の出身だから。多喜二を読むようになってそっちの出身で良かったなって思った。違和感なく頭に入ってくるのは有難い。
    実は角川文庫版も持ってるので少し時間を置いて3度目にいこうと思う。

    肝心の「一九二八・三・一五」。わざわざ岩波で買った甲斐はあった。好き。
    拷問がまあ酷い。語彙力が貧相だからそれくらいしか言えないけれど本当に酷い。こんなことがまかり通るような時代が今とそれ程隔てなくあったという事実に戦慄する。
    時代がそうさせた、という感じがしなくもないけれどよくもまあこんな公権力と闘おうだなんて思えたな、と。そして闘えたな、と。

    やっぱり感想は得意じゃない。

  • 不当に検束され、歩くと目まいがするほど拷問をされて帰ってくると、渡は自分でも分るほど新鮮な階級的憎悪がムチムチと湧くのを意識した。その感情こそは、殊に渡たちの場合、マルクスやレーニンの理論を知って正義的な気持から運動に入ってきたインテルゲンチヤや学生などの夢にも持てないものだ、と思った。「理想から本当の憎悪が虱のように湧くかい!」


    作者が望みをかけた日本共産党も本意か不本意か政策もろくに出せない烏合の衆のような体たらく。世界的にみても共産主義自体が資本主義の前に鳴りを潜めざるを得ない状態で、共産主義という理想論の破綻もいまでは常識。結局、人間みんな自分が一番。みんな横並びでハッピーな世界なんて土台無理。

  • 「蟹工船」と「1928・3・15」が収録されています。
    「蟹工船」は船の「蟹工場」という意味らしいです。雑夫や漁夫たちは考えられないほど凄惨な生活を送ります。もはや人間的な生活などといえない「過酷」以上のもの。人間の命さえなんとも思わないで、搾るだけ搾ろうとする現場監督。お金をもった資本家と「プロレタリア」との対置。頭でただ理解していたのとは違った生々しい再現を感じました。

    同時収録は、共産党一斉検挙事件を著した「1928・3・15」。
    こちらを読んで事件について知りたかったので、あえて岩波文庫版をチョイス。国家権力がいかにして共産主義者を叩いてきたか。それは体制側が「共産主義」を恐れていた証拠。警察署でのすさまじい拷問をとおしてなされる話の展開が印象的です。
    --------------------------------------------------------
    ただ、いまの時代背景とこの作品がなぜ安易に結びつけられて語られるのか?わかるんだけどわからなかった。共感を得ることはできても、そこには比べものにならない大きな大きな壁が立ちはだかっているような。でも、こういったことを知り、教訓にしていくことは大切だと思います。
    --------------------------------------------------------

  • やるせなくなった
    辛い
    そんなに辛い労働環境があったなんて

  • 蟹工船、こんなに短い作品なんですね!
    でも普段使わない言い回しや言葉に悪戦苦闘…

    とにかく泥臭く暗ーい…
    こんな底辺の働き方が、日本にもあったんだ…

    帝国/軍国主義に洗脳され、日本国万歳という気持ちから、反抗など考えても見なかった彼ら。
    それでも劣悪な環境下、”ちくしょう”という気持ちがどんどんつのる。労働者達が起こした行動とは。


    一九二八…は蟹工船より登場人物が明確で読みやすかった。ただ拷問の描写はキツかった…
    小樽であった赤狩りの事実をもとに書かれた作品。

  • かなり政治的なところがあるので今まで遠ざけていたが。思い切って読んでみることにしました。かつて日本にあった理不尽かつ残酷な労働環境の実態がありありと伝わってきました。こういったプロレタリアートの考え方は100%賛成は出来ませんが、そうでなくとも楽しめる(?)作品です。

  • 日本の代表的なプロレタリア作家、小林多喜二の代表作「蟹工船」が収録されています。
    プロレタリア文学自体は小林多喜二以前にも存在していたのですが、「蟹工船」が雑誌「戦旗」に連載されたことで、プロレタリア文学が脚光を浴びるきっかけとなりました。
    武者小路実篤らの"白樺派"、菊池寛らの"新思潮派"などと異なり、小林多喜二ら"戦旗派"は、低賃金でこき使われる労働者の権利を主張し、現実と立ち上がる力を民衆に啓蒙するような内容となっています。
    ただ、小林多喜二氏の作品は、労働者への啓蒙に加えて、共産主義へ先導するような内容となっています。
    プロレタリア自体は低賃金労働者を示す言葉ですが、日本のプロレタリア文学は自由競争への警鐘、共産主義あるいは社会主義的の主張が交じることが多いので注意が必要ですね。

    収録作は「蟹工船」と「一九二八・三・十五」の二作です。
    各話の感想は以下の通り。

    ・蟹工船 ...
    プロレタリア文学の代表的な作品です。
    戦旗は三・一五事件がきっかけで作られた合同組織全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関紙として発行されました。
    蟹工船は戦旗に連載された作品で、本作により日本中の低賃金労働者は決起し、戦旗はプロレタリアの旗手となりました。
    また、本作がにより小林多喜二は後に不敬罪により起訴、投獄されることとなります。

    内容は過激で、共産党賛歌がすぎると感じるところもありましたが、命さえも奪いかねない拷問のような労働環境の中、共産主義という夢のような制度に憧憬を抱くのは仕方ないと感じました。
    漁獲したカニを缶詰にする蟹工船「博光丸」、オホーツクの極寒の海が舞台となっており、そこでは貧困層からかき集めた労働者に対し、非人道的な酷使がまかり通っています。
    特定の主人公はおらず、その船の上での地獄のような有様が書かれた内容となっています。
    脚気に侵されて動かない脚を動かし、凍傷で動かない指を動かして働く労働者を様は酷いの一言につきます。
    今がどれだけ恵まれた状況であるか、ということを実感できる内容と思います。今が極楽であるというわけではありませんが。

    なお、文体は独特で、ストーリーのつながりがぼやけていて、直前まで菊池寛や芥川龍之介を読んでいたこともあってか、思ったより読みやすくないと思います。
    普段文学を読まない人が挑戦する場合は少し気合が必要と思います。

    ・一九二八・三・十五 ...
    三・一五事件を題材にした作品。本作も戦旗に連載されました。
    題材が題材故に、無産政党や共産主義的な考えが表に出た内容でした。
    ただ、共産主義運動家達をある晩、急に検束し、拷問にかけてゆく内容で、特に拷問シーンの比重が高く、読みにくい作品ではないように思います。
    特高警察による、善良な市民への不当な拷問描写を克明に書いた本作は、当然、特高警察の怒りを買い、小林多喜二は警察に要注意人物として目をつけられることとなります。

    本作も特定の主人公がいるわけではないですが、思想を持って活動をしている人々一人ひとりが主役であるような書き方になっていて、それぞれの人は活動家だが、それに至る生き方があり、生活があり、家族がある。
    そんな人々を突然拘束し、目を覆うような酷い拷問にあわせる様が書かれていて、事件の告発という感じを強く受けました。
    どれだけ忠実なのだろうか、と思うくらい、拷問描写はとにかく凄まじいです。
    その後、小林多喜二自身も拷問死したことを思うと、そういう時代だったんだろうなあと思いました。

  • ★ 広国大の電子ブック ★
    Maruzen eBook Library から利用
    ※ 音声読み上げ機能付き ※

    【リンク先】
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000072982

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
    <選者コメント>
    「おい地獄さ行(え)ぐんだで!」

     蟹工船内の過酷な労働環境を描いたプロレタリア文学の金字塔。2008年度
    には、新語・流行語にトップ10にも選ばれ(「蟹工船(ブーム)」)、再脚光
    を浴びた。松田龍平主演の映画あり。『まんがで読破 蟹工船』(イースト・プレス)は本学図書館にも所蔵。

     2008年前後の社会状況を知りたい人のためには、MaruzeneBook Library
    の、湯浅誠『反貧困「すべり台社会」からの脱出』などがオススメ。
    (医療福祉学科 田野慎二先生)

    ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

全68件中 1 - 10件を表示

小林多喜二の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヘルマン ヘッセ
フランツ・カフカ
三島由紀夫
村上 春樹
ヴィクトール・E...
有効な右矢印 無効な右矢印
ツイートする
×