防雪林・不在地主 (岩波文庫) (岩波文庫 緑 88-3)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003108833

作品紹介・あらすじ

「目付かって、たまるもんけ」秋味(鮭)の密漁で石狩川の冬を凌ぎ、渾身の力で地主に抗う若者を描いた未定稿「防雪林」。小作争議の主題をさらに展開し、道庁小役人の背後に蠢く都会の搾取を暴いた「不在地主」。貧困と正義を問い29歳で国家に殺された作家の、ふるさとの言と魂こもる北海道小説。

感想・レビュー・書評

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  •  『防雪林』は地主の搾取に苦しめられる農民を描いた作品だ。
     「現世で苦しんでいるのは前世で罪を犯したからだ」という僧侶の説教を聞き、それに応えて「来世では楽をしたいから現世では苦しみながらも頑張って耐えよう」とする農民。他方で、これだけ苦しめられてるのは地主のせいだと説く校長。「地主に対して小作料率の低減を嘆願するべき」という農民もいれば、「それでは足りない、力づくで地主から畑を取り返すのだ」と激しく主張する者も、また逆に「地主様に逆らえば罰が当たる」と言う者もいる。当時の苦しい生活状況に対して様々な考えを持っていた農民たち――これは当時の世相をそのまま表しているようにも思える。都市に出る者もいたが、都市には別の苦しみが待っていてどうすることもできない彼ら。この作品では貧困に苦しむ小作人と都市労働者の様子を同時に描く。
     小林多喜二はこのような理不尽な不平等を実際に目の当たりにし、徐々に共産主義に傾倒していったのだろう。この作品を読めば、共産主義は当時、このような状況の中で起こるべくして起きた思想であることが分かってきた。現代とは全く異なる、共産主義が広まっていった当時の雰囲気のようなものを知るのに良い作品だと私は思う。現代を生きる私には、共産主義という考えに盲目的にすべて賛同することなどできないが、それでもこの作品を読んで、もし本当に当時このような状況にあったなら共産主義運動が起きても仕方なかったと思ったし、私も立場が立場だったなら小林多喜二のように共産主義に傾倒していっただろうな、と思いを馳せた。

     小林多喜二は、その後『防雪林』を「発展」させる形で『不在地主』を著した。しかし部分的に共通する描写や時代背景があるものの、私が読んだところ全く別物の作品としか言えないような仕上がりになっている。後ろに付されている「解説」によると『防雪林』には共産主義者が描いたとしては不備も多く、そのためプロレタリア文学の観点からは『不在地主』の方が完成度が高いのだそうだ。しかし、私はどうも『不在地主』からは人間味のようなものが感じられず、『防雪林』の方が感情移入しやすく楽しめた。『防雪林』では書きたいように書いていた小林多喜二が、『不在地主』の頃になるとプロレタリア文学の作家として書かなければいけないように書くようになったのだろう。「解説」の参照しながら両作品の違いに着目して読んでいくのも面白い。

  • 電車移動のお供にしていた1冊を本日読了。最後はお気に入りのカフェでまったりと。

    少しでも早く先を読みたくて眠気に負けさえしなければ隙間の時間にガンガン読み進めた。
    細かいことは置いておいて単純に「面白い小説」。
    解説にも書かれていたけど本当に自然描写がすごい。
    個人的には北の方の出身ということもあって方言が読んでいてすごく好きだった。厳密に言うと私の出身地の訛りとは少し違ってはくるもののかなり近い。読んでいると話の筋とは関係なく田舎を思い出す。

    何より文章が本当に好みなんだ。サクサク読み進められる。これが1番大きいかもしれない。

    解説で10年前の『蟹工船』ブームの話もチラリと出てきて思わず「おお!」となったりも。
    こんなにも好みどストライクな文章を書く作家を10年も本棚に寝かせておいたことを若干後悔しつつも、「本には読むべきタイミングがあってそのときになると自然に手に取るものだ」というようなニュアンスのどこかで聞いた言葉を思い出して「今だからこそ」なのかなとも思う。

    やっぱり感想は難しい。今回も感想か? みたいな内容になってしまった。

  • 再読

    読んでいたことを忘れていた。半分以上読んで再読であることに気が付いた。印象的だったところがむしろはっきりして良かった。

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著者プロフィール

1903年秋田県生まれ。小樽高商を卒業後、拓銀に勤務。志賀直哉に傾倒してリアリズムの手法を学び、28年『一九二八年三月一五日』を、29年『蟹工船』を発表してプロレタリア文学の旗手として注目される。1933年2月20日、特高警察に逮捕され、築地警察署内で拷問により獄中死。

「2008年 『蟹工船・党生活者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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