斜陽 他一篇 (岩波文庫 緑90-3)

  • 岩波書店 (1988年5月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (200ページ) / ISBN・EAN: 9784003109038

みんなの感想まとめ

深い人間ドラマと美しい言葉が織り成す物語は、読者の心に強い印象を残します。登場人物たちの複雑な感情や本音は、共感こそ難しいものの、彼らの生きる姿勢には思わず心を動かされる瞬間が多くあります。特に、言葉...

感想・レビュー・書評

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  • 敗戦後に没落貴族になってしまった、ある家族の
    お話で、健気に生きていく家族たちの日常を上手に描いている。かつての栄光が、廃れていくその
    環境でどう生きるのか、10年前に父を亡くし、東京から伊豆の山荘に母と慎ましく生活している娘のかず子、彼女は、恋と革命に生きようとしている。南方の方に出兵して、消息不明となっていた弟の直治、何とか生きて帰還することができた彼だったが、彼もまた、阿片に取り憑かれ破滅に進んでいく。母も結核に罹り、かず子一人が家族を支えている状況だ。
    そんなかず子の前に一人の男が現れる。直治が
    東京で知り合った作家の上原だった。
    彼に出会いかず子の中で、恋の革命が始まろうとしていた。戦後爆発的人気を呼び、「斜陽族」という言葉さえ生み出した、著者の代表作。
    かず子のモデルになった人物も有名で、まさしく
    太宰治自身がこの作品の登場人物なのです。
    私小説に触れた最初の一冊でした。

  • 甘美で情けなくて哀しくて大好き。

    恋と革命を活力に生きようとするかず子、逞しい。
    生きる活力が恋と革命だなんて傍から見たら浮き足立っているところに世間知らずなお嬢様らしさが残っていて好き。
    手を汚してでも精神は気高く生きようとするかず子が美しかった。

    直治の遺書に書いてある「人間は、自由に生きる権利を持っていると同様に、いつでも勝手に死ねる権利を持っている(母がいない間に限る)」という言い分には今まで数多の選択肢と母からの清らかな愛を存分に与えられてきた華族らしさが滲んでいた。
    生活が困窮し、時代が混乱する中で生死や恋について苦悩するのは芸術家に傾倒しているから等の理由以前に幼い頃の経済的、精神的な豊かさといったその出自故なのかなーと思う。
    「姉さん、僕は貴族です。」
    の言葉の通りやっぱり直治は気高くて、ほんの少しだけ傲慢なのかもしれない。

    読後の今、作品についてとやかく感想を言ってる私にも環境や時代は違えど(身体的なことだけでは無い)健康な人間特有の傲慢さがあって、この傲慢さで無意識に色んな人を傷つけてきたかもしれないと感じた。

    華族らしい生活から抜け出すことに抵抗があったかず子よりも、自ら野蛮さを求めて破滅に走ろうとした直治の方が貴族らしいのは皮肉だと思った。

    斜陽を読んだ私の友人は上原宛のラブレターの内容を踏まえてかず子のことを脳内花畑馬鹿女って形容した後に女性がそう生きるしか無いと思わされたこの時代がやるせない、って言ってた。
    世間を知ることなんて作中にある通り誰も出来無いかもしれないけど、生きる為に知ろうとする努力は無意味じゃないと思えた。

    「おさん」に登場する夫といい、作中の男はみんなどこか情けなかった。

    「しくじった、惚れちゃった」
    「遮二無二私はキスされた」
    ↑あまりにもえっち、いつか私にとってのM・Cに出会った後にこんなことを言われて遮二無二キスをされる準備、しておきます。

  • ああ、何かこの人たちは、間違っている。しかし、この人たちも、私の恋の場合と同じ様に、こうでもしなければ、生きて行かれないのかも知れない。人はこの世の中に生れて来た以上は、どうしても生き切らなければいけないものならば、この人たちのこの生き切るための姿も、憎むべきではないかも知れぬ。生きている事。生きている事。ああ、それは、何というやりきれない息もたえだえの大事業であろうか。

  • 正直なところかなり痺れてしまった。
    名作が名作たる所以をひしひしと感じた。

    人物たちの行動に共感こそ出来ないものの、
    その人たちから出てくる絞り出すような本音、
    切実な祈りのようなもの、言葉にグッときてしまい心が震えた。

    すごい。言葉でここまで人の心を動かすなんて。

    言葉によって作られる頭の中の情景に
    虜になってしまった…

    収録作の「おさん」も短編ではあるものの
    中々インパクトがあって目の覚めるような話だった。

  • 日本が大きく転換することになった太平洋戦争敗戦。その中で貴族の生まれであるかず子を中心とした4人が没落していく物語。

    感想を考えていく中で、4人だけでなく本に出てくる登場人物全員が“道徳の過渡期の犠牲者”では無いだろうか。と思いました。

    貴族として生まれたことに苦しみ生きていくことに絶望した直治と、恋と革命のため世間と争っていくことを決めたかず子。2人の違いはなにか。
    直治はどうしても抜け切ることの出来ない貴族としての自分と、下品な民衆になりきろうとする自分の乖離に苦しむ。しかし、かず子はその相反する性質を母の死と同時に苦しみながらも受け入れ、闘うことを決める。没落していく中での生きるものと死ぬものの違いがすごく印象に残りました。
    個人的に直治の遺書がすごくよかったです。直治の遺書の生きる権利があるなら死ぬ権利もあるは今の安楽死にも通じる部分だなと感じました。そして、“人間は、みな、同じものだ。”の解釈にはハッとさせられました。

    個人的に、かず子の世間知らずな感じや悲劇のヒロインチックな考え方の描写がなんだかすごく好きでした。

  • 昔読んだ時にえらく感動した記憶があったけど何に感動したのか忘れたので再読。
    敗戦後の没落貴族の一家。貴婦人のたたずまいを保ちつづける母、その娘のかず子は離婚した出戻り娘。減っていく財産のために山荘に移り住む母娘。金はないが心穏やかに母とつつましく暮らすかず子だったが、戦地から帰省した弟の直治が麻薬やら酒やらに溺れる退廃ぶりの上に、母は病気がちになり……。

    前半は、母がいかに可愛らしい貴婦人であるかということと、母娘の共依存的な関係が描かれる。貴族だけあってなかなか優雅な暮らしっぷり(縁側で編み物とか……働いてない……お金ないのに……)。そこに弟の直治登場。これが太宰っぽい男で退廃的、浪費家、でもママのことは好きな坊っちゃん。酒場には太宰お得意のダメ男達と、ダメ男に寛容すぎる女達が出てくる。
    で、中盤あたりからはかず子の恋に話が移って、『人間は恋と革命のために生れて来たのだ』と、まるで恋に盲目すぎてイタい女の主張みたいな文章が出てくるのだが、最後まで読むと、このフレーズが泣ける。
    戦争が終わり、世の中の価値観がひっくり返っていく中で、生活は貧しくなるけれども貴族精神は捨てられず、周囲に対応できず、そんな中で『恋』に身をやつす。相手がどうとかじゃなく、恋をして赤ん坊を産み育てる生き方に価値を見出す。……って感じで、まぁそういう生き方もあるわなぁと思いながら読んでいたら、最後の最後で泣かされました。直治……!
    世間に負けた直治。
    自分の赤ん坊を、直治が恋をして産ませた不義の子と言いたいかず子。
    『恋』は世間への抵抗であり、革命だったのですね。

  • 危うさをはらんだ艶かしい文章や、全体に纏う退廃的で生々しくも、やはり美しく上品な雰囲気。言葉選びや表現が秀逸で思わず圧倒されてしまう場面もありました。
    あと詞のようなリズム良い文章が、読んでいて気持ちいい。

    かず子の家族も恋も悉くが物悲しく時に衝動的で危うく、最後かず子の革命についてを読んでも、やっぱり悲劇のお話だったなと感じるし、一方でかず子の母についてを、悲劇的な人生だったと思うのはまた違うような気もして、難しい。

    「おさん」の方はより一方的な感じがして、
    どうしようもない辛さを感じました。奥さんの感情が終始平坦に見えるのもより悲しい。

    作中で直治が奥さんに対して思う
    「正直という言葉で表現せされた本来の徳は、こんな可愛らしいものではなかったのかしら」
    という一文が特に印象的で、直治の愛も想いも感じられて好き。その前後の奥さんとの会話も良い。

  • めちゃくちゃ好きな作品になった。

    私も父を早くに亡くしている。弟ではないが兄がいる。
    もちろん母親と二人で暮らしていた時期もあったし、裕福な家庭でもなかった。
    心境が似ていたのでボロボロ涙が出た。

    いつか親は死ぬものだが、母親が死ぬとわかっていて読み進めるのは凄く辛かった。
    弟何してんねんとか思ったけど、最後の遺書を見てめちゃくちゃ泣いた。
    一人称が僕は…になっているのが印象的だった。
    最後の弟の遺書が全てだと思う。

    人生は恋と革命という長女のたくましさは凄いと思った。
    やはり絶望的な場面において、そこから這い上がる考えに切り替えることは大事だ。
    例え良くない恋愛の形だったとしても希望を持つのは大事だよなあと思う。
    奥さんからしたらたまったもんじゃないと思うけど…。

    作品を読んで好きな文がたくさんあるので書き残しておきます。



    夏の花が好きな人は夏に死ぬ。

    姉さん、僕たちは貧乏になってしまいました。

    人間は生きる権利があると同様に、死ぬ権利もある筈です。

    いつもくらくらとめまいをしていなければならなかったのです。

    結局、僕の死は自然死です。人は、思想だけでは、死ねるもんではないんですから。

  • 直治の遺書に泣かされる
    どうにもならない堕落し切った人の屑の様な存在が、本当は時代に翻弄されただけの優しく清らかな青年だった。
    姉さん。だめだ。先に行くよ。 から始まり
    僕は貴族です。 で終わる遺書
    とても照れ臭いお願いがあります。来年の夏に着る様にと姉さんが繕ってくれた母の形見の着物を棺に入れてください。僕、着たかったんです。
    とてもいじらしく清い。涙なしには読めなかった。
    直治に太宰治が重なる。何なら自分の弟まで重なる。
    没落貴族を描いた作品という事は知っていたが、プライドを捨てきれずに没落していったわけではなく、真の貴族であり時代の波に流されて自然に花が散った様な印象だった。母に縋って生きていた かず子は自分の中で革命を起こし、常識に囚われず自分の意志を貫く事を決心してシングルマザーとして強く生きる、希望と決心を表したところで小説が終わる。
    革命と表し強く生きようとするかず子と死を選ぶ直治が対照的で印象深かった。

    私は29のばあちゃんだから- 29歳は婆ちゃんという歳らしい。悲しい

  • 悲観的な面と未来への希望が交錯して面白かった。個人的にはこれが太宰の中で1番好き。特に『葉』との対比が太宰の精神状態を表しているようで悲しかった。

  • 没落貴族の緩慢かつ甘美な破滅を母、かず子、直治、上原の四人の人生を通して描いた作品。かず子の激情(「私の胸の虹は、炎の橋です。」こんなにも激しい恋心があるだろうか)にも上原の刹那的な生き方にも心惹かれる部分はあるが一番共感できたのは直治。
    悩みがないのが唯一の悩みなんていう歌詞がどっかにあった気がするけど突き詰めていけば直治のように素面では生きていけなくなって、アヘンとかに手を出してしまうんだろう。いつもクラクラとめまいをして、凶暴になって民衆と共に輪に入れて欲しいけど直治が纏う貴族の雰囲気を民衆は好まない。かといって上流社会に今更戻るのも願い下げ。快楽のインポテンツに成り果てた自分が最後に選んだのは自死の自由。クスリや酒で身をやつして死んでいくことすら自分に叶わぬと知った直治が自死を選んだことこそ貴族のプライドだろう。
    粗暴な直治がただ一人母だけは悲しませぬと誓って、自殺を思いとどまっていたのがあまりにも哀しい。

  • 2026/02/10
     戦争の事は、語るのも聞くのもいや、などと言いながら、つい自分の「貴重なる経験談」など語ってしまったが、しかし、私の戦争の追憶の中で、少しでも語りたいと思うのは、ざっとこれくらいの事で、あとはもう、いつかのあの詩のように、
      昨年は、何も無かった。
      一昨年は、何も無かった。
      その前のとしも、何も無かった。
     とでも言いたいくらいで、ただ、ばかばかしく、わが身に残っているものは、この地下足袋いっそく、というはかなさである。

  • 名作って伊達に名作と呼ばれているわけではないと思い知る。
    斜陽が没落貴族の話であることは知っていたが、現代の田舎庶民である私が貴族というものを身近に感じることはなく、読み始める前は「貴族といえどお金がないなら働くしか無い」とぼんやり思っていた。

    しかし読み始めると、高飛車に人を見下したり、我儘を言っているのでは無い。海水魚が淡水で生きられないような、もうそもそも生まれが違うのだと思った。
    あと直治のことクソガキだと思って読んでたけど、手紙で普通に泣いたし1番好きになった。

  • かず子の手紙に圧倒され、直治の遺書にも衝撃を受けた。
    身構えいたよりも読みやすく、暫く余韻が残るお話。

  • 自分が描く人間の核心に刺さりすぎて命絶っちゃう疑似体験をしてしまった。一度読み始めたら最後まで読ませちゃう力はバケモン。お母様に対する憧れが彼らを蝕んだように思うのだけれど、少しその感覚が分かるんよね。それを蝮として表現していたのがどんぴしゃで震えた。文豪たちが命を削って書いた小説からしか得られない、この読後感。

  • 世間知らずのお嬢様の浮かれきった恋文がキツくて心臓がチリチリした。
    どんなに貧乏になっても、最後まで誇りを持ち己の信念を貫いて生きる様は美しいと思った。
    あんまり本の地の文で「〜しちゃった」という表現は見ないけど、かず子はよく「〜しちゃった」というので可愛らしいね。

  • 1番くらい好きな本。
    最初の出だしからすき。
    何回読み返しても素晴らしい。
    何回読んでも泣いてしまう。

  • 「しくじった、惚れちゃった」が太宰の本の中で一番好きな一言で、それを見るためだけに何周もしてしまう。話の流れもスムーズで読みやすく、太宰らしい内容で当時流行ったのがとても理解出来る。

  • 人間の恥ずかしい気持ちを書くのが上手い。哀しい饒舌さがキザに聞こえる。こんなにさらけ出してもらっていいのか読んでいて戸惑った。世間から余りにズレているかず子の、しかしそこはかとなく溢れ出てくる現実的な生きる力に好感を覚えた。

  • ギロチンギロチン、シュルシュルシュ
    太宰治の何がいいって、登場人物の心情描写が美しいのと死を美化せずに身近にあるものとして当たり前のように書くところ。
    それに登場人物が死を選ぶ理由が腑に落ちるのに、自死を教唆する書き方になっていないところ。
    そういう良さが詰まった作品でした。
    なぜ人は生きるのか、そういう問いかけを持ち悩む人の心にスッと入り込む太宰治の作品。
    人間失格と併せて読んでほしい。

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著者プロフィール

太宰 治(だざい・おさむ):1909年、青森県北津軽郡金木村生まれ。中学の頃より同人誌に習作を発表。旧制弘前高校から東京帝国大学仏文科へ進学、中退。1933年、太宰治の筆名で「列車」を発表。「二十世紀旗手」「女生徒」「富嶽百景」「お伽草子」「ヴィヨンの妻」「斜陽」ほか代表作多数。1948年、筑摩書房の雑誌「展望」にて「人間失格」連載。同年6月、同作最終回の掲載をみることなく、玉川上水に投身。

「2025年 『人間失格』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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