- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003111031
作品紹介・あらすじ
「復興しないったってさせてみせらあ。日本人じゃあねえか。」焼け野原の銀座にたったひとつ灯った、トタン小屋の飲み屋のランプ-作家と実業家、二足の草鞋を生涯貫いた水上滝太郎(1887‐1940)が、関東大震災後の銀座の人びとを描いて力強い『銀座復興』。他に、『九月一日』『果樹』『遺産』を収録。
感想・レビュー・書評
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今年2023年は関東大震災100年に当たる年ということで、書店では夏ころから新刊を含め関連書が多数陳列されていたが、そんな中で本書を見つけたもの。収録作品4作のうち、表題作の『銀座復興』『九月一日』『遺産』は関東大震災に直接関連した作品。
『銀座復興』は、今でも銀座に店を構える「はち巻き岡田」がモデル。関東大震災でほぼ壊滅状態になった銀座で、小屋を建て「復興の魁は料理にあり 滋養第一の料理ははち巻にある」と銘打ち、いち早く復興の第一歩を踏み出した店があった。その店を舞台に、復興を期待する主人公、店の主人夫婦や店に集う客たち、もう銀座は駄目だとあきらめている主人公の友人などの会話を通して、復興への前向きな姿を描きていく。
それに対して『遺産』では、震災で隣家の壁が崩れたため、付き合いのなかった隣人と思わぬ交流が始まったが、隣人は高利貸しの子どもということで後ろ指を指されてきたため周囲との付き合いを拒絶し隠遁生活を送っていた。震災後、町内会で夜回りをするということで、嫌々ながらも隣人を誘って参加したのだが……。ここには、自警団に見られる暴力的にもなる同調圧力の厭らしさがはっきりと描かれている。
作者は、実業家と作家の二足のわらじを履いていたとのこと。文章は平易でとても読みやすい。
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ドキュメンタリーではなく小説です。震災小説とでも言うのでしょうか。どのお話も思いのほか静かで落ち着いた気持ちになれる読後感がありました。
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じーんとした。
「砂漠」を目の前にして、「そこで自分はどう生きるのか」という命題は、時代や場所が変わっても全く不変なもので、本著においては、「ひとつの灯り」が点る居酒屋から、波状的に人々が「活動」へと向かっていく、人々が変わっていくそのダイナミズムが描かれている。勿論その過程には様々な懐疑や動揺、不信があって、一筋縄ではいくわけもない。人はそれほどには強くはない。しかしだから故に「変わっていく」こと、それに伴う微細な変化が見えた時に、我々は心を打たれるのだろう。またそうした内面の変化が、天候の動きと結びついている箇所が多く見られ、人の「自然」をさらに浮き彫りにしている。 -
地震に打ち勝つ自信。
びくりとも揺れない心。 -
震災とそこからの復興は繰り返される日本の宿命。
うまい酒とうまい料理で元気を出して、それぞれの仕事をがんばる。そうすりゃ、天子様もお喜びだ。
上記のような具合に、人々は関東大震災後の復興に尽力するが、その姿は読者に元気と勇気を与えてくれる。 -
震災後の銀座の荒涼とした様子や、復興にかける市井の人々の奮闘ぶりがよく伝わってくる。会話が生き生きしているせいだと思います。
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関東大震災によって焼け野原となった銀座を舞台に、人々の復興に向けた様々な思いを描いた表題作を含む四編を収めた短編集。文語体の面影を残す叙述が昭和初期の時代を感じさせるが、現代においても違和感なく寧ろ心地よく読み手に響くところに著者の力量がうかがえる。震災という大きな事件におかれた市井の人々の様子を淡々と描写してみせることによって、その非日常性が効果的に表現されている。