雪 (岩波文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003112427

感想・レビュー・書評

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  • やっと読めた。「雪は天から送られた手紙である」という素敵な言葉は前から知っていたし、少し前に師匠に当たる寺田寅彦の作品を多少読んでおりかねがね読みたいと思っていた。この冬の間に読めて良かった。

    冒頭では専門ではないとしながらも人の生活の中での雪、特に雪害について述べ、本文中では単に仕事として研究しているのではなく、雪の美しさ、自然の美しさに感動していることを記し、附記では雪の研究は一人の人間が一生かかっても片付くようなものではないが、自分の研究が後進の土台となっていくという科学の在り方を述べて結んでいる。
    「自然に感動すること」、「地道に誠実に研究すること」、「科学と社会の関係」などおそらく自然科学者としてとても大事なことを含んでいると思う。

    「研究というものは、このように何度でもぐるぐる廻りをしている中に少しずつ進歩していくもので、丁度ねじの運行のようなものなのである」
    とかく最近はすぐに結果を求められる時代になっていきているけど、科学研究のこうした性格を認識して、基礎研究を守っていける社会であってほしい。

    さすが寺田寅彦の弟子だけあって、情緒を感じさせてくれる。『科学の方法』も最近買って読みたいけど、『中谷宇吉郎随筆集』も読んでみたい。

  • 「雪は天から送られた手紙である」という有名な一節の原典はこの本である。
    物理学者、中谷宇吉郎による、現在の版で本文170ページほどの本(中谷は「この小さい本」と読んでいる)は、昭和13年の初版時には、岩波新書から出されたという。書き下ろしの一般啓蒙書として世に送り出されたわけである。
    以来、一時期は絶版に近い状態にも陥りつつ、平成6年に岩波文庫の1冊として刊行されることになる。時代を超えた「古典」と認められたといってもよいだろう。

    中谷がここでしようとしていることは、狭義には、雪の結晶の観察およびその再現である。つまり、結晶を観察してその形状を分類し、温度・湿度などの外的条件と結晶の形状を関連づけ、人工的に結晶を作る装置を使って、自然と同様の雪の結晶を再現することである。
    だが、本書は、もっと広く、「科学的に考えるということ」の1つの例を、研究者自らが語り起こしたものだといってもよい。

    雪とは「水が氷の結晶となったもの」である。上空、高いところで結晶の核ができ、下界に舞い降りてくる間に徐々に成長する。空気に含まれる水蒸気が、芯となるものの周囲で固化して雪になる。
    雪は白く、そしてときにきらめく美しい結晶を作る。

    中谷も雪の結晶の美しさに魅せられる1人だった。北海道に職を得たこともあり、雪の結晶の研究に取り組むことになる。さまざまな工夫を重ねつつ、まずは顕微鏡写真の撮影に成功する。十勝岳を拠点とし、丹念な記録が始まる。どのような形のものが、どの程度の頻度で降ったか、そしてそのときの気象条件はどのようであったか。
    世間では以前から、「雪は六花の形をしている」といわれていた。国内外でそれまでにも雪の結晶の図や写真はあったが、多くはこの六角形のものだった。だが、中谷らの研究の結果から見えてきたのは、六角形の結晶ももちろんあるが、針状や角柱、角柱や平板が組み合わされたもの、無定形など、形状はさまざまであり、雪はそうした雑多な結晶の集まりであるということだった。また、針状のものが比較的多く見られた。

    さらに中谷は、天然の雪を再現する、人工の装置の開発にも取り組む。こうした装置が出来れば、雪の結晶が成長する過程をより詳しく研究できるし、また条件によって結晶の形がどう変化するかもより細かく見て行くことができる。
    より自然に近い形で雪を作るには、どんな装置が適しているのか。試行錯誤しながら、装置の調整が続く。

    ここに述べられているのは、世紀の大発見というわけではないかもしれない。多くの人にとって、雪の形がどうであろうと、あまり関係がないといわれればそれもそうかもしれない。そもそも雪の結晶の研究や、人工雪については、この本より新しい知見が出ているだろう、というのもその通りだろう。
    では、本書が「古典」として価値があるのはどこか。
    それは「科学的思考と実践」が述べられている点だろう。中谷はここでは、科学的に詳細に記載するよりも、一般の人に科学の「道筋」を示すことに重きを置いているように見える。
    研究は一直線では進まない。実験しようと思ってもうまくいかないことも多い。仮説を立ててもそれがどうも正しくないようだとわかることもある。立ち止まってまた考える。こうしたらどうだろうか。実はこうなんだろうか。そしてまたやってみる。中谷は、本書中で、「研究というものは、このように何度でもぐるぐる廻りをしている中に少しずつ進歩していくもので、丁度ねじの運行のようなもの」だと語っている。
    そういった一連の過程が、生き生きと、ときに熱く、示されているところに、本書の今に生きる意義がある。

    冒頭の「雪と人生」と題される章では、雪が人々の暮らしに与える影響に触れている。雪は美しいばかりではなく、雪国では雪害を起こして「白い悪魔」と称されることもある。冬中、田野が雪に覆われて使えない上、除雪が必要となるなど経済的な損失も大きい。一方で、雪上で橇を使えば運搬にはむしろプラスになることもあるし、レジャーなどでの魅力もある。
    本書の大半は、基礎科学にかかわる内容だが、中谷は、どこか遠い将来に、雪の結晶の解明が、実用・応用に役立つ可能性を心に描いていたようにも思える。
    基礎と応用はそれぞれ別々ではない。基礎研究に取り組みつつ、どこかで社会への還元も考えること、それも科学者の「責務」と言えるのだろう。

    一流の科学者でありつつ、名随筆家としても知られた中谷ならではの1冊だろう。

    • yuu1960さん
      ドミトリーともきんすにも中谷宇吉郎は登場してましたね。
      良い本をご紹介有難うございます。
      ドミトリーともきんすにも中谷宇吉郎は登場してましたね。
      良い本をご紹介有難うございます。
      2016/03/04
    • ぽんきちさん
      yuu1960さん

      コメントありがとうございます。

      「ドミトリーともきんす」、よかったですね。引用されていた中谷の「イグアノドン...
      yuu1960さん

      コメントありがとうございます。

      「ドミトリーともきんす」、よかったですね。引用されていた中谷の「イグアノドンの唄」http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/B00G3UAAT2もよかったです。

      一般の人向けの啓蒙書ということでは、やはり「ドミトリー・・・」で紹介されていた朝永振一郎の「鏡の中の物理学」http://booklog.jp/users/ponkichi22/archives/1/4061580310も思い出します。
      どちらも、科学とは何たるかを語る「熱」を感じる好著と思います。
      2016/03/04
  • 適切な場所に積木をかさねるような文章の、なんと心地好いことだろう。

    宇吉郎先生なら、いまの科学をどんな言葉で綴るだろう。
    誰にでも言えそうなことを、一つずつ積み上げて、ささやかだけど大切なことを書かれる気がする。

    よんでみたいなあ。

  • 「雪の結晶は、天から送られた手紙である」という趣深い一文で有名な本作だが、同時にこれほどまでに科学的誠実さに溢れた本が他にあるだろうか。降り積もる雪のひと欠片を丁寧に観測し、吹きすさぶ冬景色の中、時には氷点下の実験室で根気強く分析を続けていく。やがてその研究は雪の結晶の多様性を明らかにし、世界初の人工雪の作成という偉業に結び付いた。エッセイ風に書かれた文章は理性的でありながらも簡潔な説明の中から気品の良さが滲み出ており、本人曰く「茶漬けのような味」の内容は滑らかに入ってくる。自然科学入門として最良の一冊。

  • 「雪の結晶は、天から送られた手紙である」
    という言葉から伺えるとおり、科学的であり詩的である。

  • 1/12は
    スキーの日
    スキーに必要な人工雪の実験に世界にさきがけ成功、雪の結晶の生成条件を明らかにした雪博士の著作を。

  • 雪は天からの手紙である・・・という有名な言葉が載っている本。

    昭和初年。雪と言えばまだせいぜい美的興味かはたまた生活の障害物でしかなかった時代に、筆者・中谷宇吉郎氏は雪の結晶を撮影し、分類・体系化し、さらには種々の条件下で人工の結晶を作って空の大気状態を類推するところまで研究を進め、世界的な評価を得た。その経緯…そもそもの関心の所在や、研究のあらましを伝える本である。

    もっともこの本は、一般読者への啓蒙が主眼という通り、学問的なものではない。結晶の撮影のために十勝岳の白銀荘を借り、雪が降らない時には仕方がないから山スキーでもしようとか、北大の低温施設で満州の哨兵のような恰好で実験を進めたとかの軽口を交えながら、さらりと軽妙に書かれている。もちろん、厳寒の中で、しかもコンピュータや上等な光学機器もない時代に、地道な試行と考察の繰り返しは生半可な苦労ではなかったろう。

    昭和13年頃に書かれた薄い文庫本というのはそれ自体なんだか味があるし(蛮族とか裏日本とかいう単語にはどきっとするけど)、その文体の香りとともに、まだ日本に自信があった時代の知的好奇心と学究精神を伝えてくれる好著である。

  • 「複雑精緻をきわめた美しい六花」雪の結晶を表すこの言葉だが、六花以外の美しくない結晶は幾許とある。結晶はどのような種類があるか?雪はどうしてできるか?雪の正体を掴むため、人工で雪華を作った「雪博士」中谷の、文理問わずオススメする「自然科学読本」。【中央館/080/IB/G124-2】

  • 雪の結晶の分類など細かいところまで入り込んでいくと、まさにミクロの話しでちょっとついていけなくなる(じっさいかなり斜め読みしてしまった)。それよりも著者も述べているように、自然科学の研究とはこういう風にして進めていくのだ、ということがわかればよい、というスタンスで読んでいくとおもしろい。自分が好きだと思える者の研究に心から打ち込め、それでご飯が食べられるというのは何ともうらやましいことだ。もちろんそこに行くまでにはいろんな苦労があるわけだが。その苦労や失敗をあえて書いていないという指摘が読書会では出たな。

  • 風呂読書で。

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著者プロフィール

1900年石川県生まれ。物理学者。東京帝国大学理学部で寺田寅彦に師事し、卒業後は理化学研究所で寺田の助手となる。北海道帝国大学教授、北海道大学教授を務め、1962年没。雪の結晶の研究や、人工雪の開発に成果を上げ、随筆家としても知られる。主な著書に『冬の華』『楡の花』『立春の卵』『雪』『科学の方法』ほか。生地の石川県加賀市に「中谷宇吉郎 雪の科学館」がある。

「2014年 『寺田寅彦 わが師の追想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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