評論集 滅亡について 他三十篇 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 川西 政明 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 46
レビュー : 2
  • Amazon.co.jp ・本 (374ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003113417

作品紹介・あらすじ

作家武田泰淳は、一兵士として中国へ行き、敗戦を上海で迎えた。その時の屈折した心境を日本と中国のちがいに着目してつづった評論「滅亡について」は、泰淳の出発点であるとともに、戦後文学がうんだ記念碑的作品である。生涯、文学者としていかに社会とかかわるかを追求したその文学論・作家論の精髄31篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 泰淳の小説に描かれていることがより良くわかるエッセイ集だ。仏教や、中国文学や、上海で敗戦を迎えた経験など。泰淳は諸行無常という言葉を、滅びゆくものへの哀愁というような固定化したイメージから解き放ち、全てのものは変わっていくがだからこそ何かが生まれる可能性がある、そこにこそ希望がある、というふうに積極的に捉え直している。泰淳の滅亡のイメージとはおそらくそういうものだろう。
    そのことから未来を見据える視線が出てくる。「無感覚なボタン」が中でも特徴的である。時代が下るにつれてあらゆるものが無感覚になりつつある。例えば最近は合衆国の無人戦闘機が中東の辺りに飛んでゆき、操縦者は安全地帯でボタンを押すだけで人を殺せる。同じ人殺しでも昔は死に物狂いの取っ組み合いである。ここには行為するものの感覚に大きな差がある。何の苦労も感じないなら、人はそれをしてしまう危険が高い。こうした状況はなお進行するだろうことを泰淳は見通している。現代において、伊藤計劃や阿部和重はそういう状況を文学の問題として扱っているが、どこまで対抗出来るだろうか。

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    明治初年に、日本政府は僧侶の所帯を、法律的に許可した。また法然や親鸞、浄土真宗の先輩は、自己の苦悩の中からこの問題を早くから解決していた。

    かぶきのセリフに「坊主ッけえり」という言葉がある。
    坊主からひっくりかえって、俗人にもどった人間のこと。

    正宗白鳥、志賀直哉の諸先生も若き日は、キリスト教の説教に感激し、のちにそれから離れたのだから、「坊主ッけえり」的気分を味わわれたことがあるに違いない。

    僧侶にも寺院にも、一定不変の形式などあるはずがない。だからこそ、諸業無常なのだ。それだのに、所行無常を説く人自身が、無限の変化のありがたさをこばんで、へんに意地を張るのは、それこそ反仏教的というものであろう。

    宗教の歴史は、分裂へ向かっているのか、それとも統一へ向かっているのか。難問である。

    どうしても私には、宗教と宗教とが相争うことが不満である。

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