- 岩波書店 (1998年9月16日発売)
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感想 : 17件
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Amazon.co.jp ・本 (326ページ) / ISBN・EAN: 9784003115718
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テーマは妻や故人との思い出、身近な自然との関わりを描いた短篇私小説集で、約300ページにわたる作品が収められています。特に冒頭の作品群では、著者が描く天真爛漫でユーモラスな妻の姿が印象的で、まるでエッ...
感想・レビュー・書評
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十五の短篇私小説集、約300ページ。作品のテーマは妻、故人にまつわる回想、虫や植物といった身近な自然など。代表作を含む芥川賞を受賞した作品集からの収録や最晩年の作品も含み、執筆時期は幅広い。
まず、やはり表題の「暢気眼鏡」をはじめとする冒頭から四作品ほどの妻を題材にした作品に目を引かれる。天真爛漫でユーモラスな若い妻の言動を闊達に描き、単純に読んでいて楽しい。いまでいえばエッセイ漫画に近いだろう。その他のやや落ち着いた筆致の作品内でも、妻を描くシーンにかぎっては著者の筆も滑らかに思える。
その他は自然観察や故人の思い出を材とする作品が多く、いずれもがどこかに生と死を見つめる静かな視線を想像させられる点で共通する。死を思わせる小説といえば陰鬱なイメージだが、著者の作品の場合はさばけた自然体で暗い印象を抱かせず、落ち着いた静けさにある。このあたりは先に読んだ同著者の作品集、『閑な老人』にも通じ、楽天主義と厭世が同居したような独特の安定感がある。
大きく上記のような二つの傾向にある作品集だった。後者に類する作品については『閑な老人』にも収録があったため、個人的には、前者にあたる妻をメインに扱った小説を新鮮に読んだ。いちばん面白く印象的に読んだのは「玄関風呂」だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ベストセラーばかり、追いかけて読むなら別だが、読書は個人的な体験である。
小学校の多分、まだ高学年にはならない僕の誕生日に、両親から、二冊の本を贈られた。
著者名は忘れてしまったが「おやじと息子」という本と、偕成社の少年正直文学全集の「末っ子物語」(尾崎一雄)の二冊である。
僕が住んでいた所は、当時まだ町で、現在のようにコンビニどころか、一番近い商店まで大人の足で片道30分くらいかり、ネットで本を買うなどということも出来ず、本屋がある街に行くには、路線バスと電車を乗り継いで行かなければならなかった。
両親と一緒に書店に行ってその二冊を選んだ記憶が無いので、二人で選んで買ってくれたのだろう。
一人っ子だった僕に、何となく合うような書名の本である。
「暢気眼鏡・虫のいろいろ」は何の気なしに、書店の平台で見つけて、暫く積読されていたものである。
今回読んでいて、「虫のいろいろ」を確かに偕成社版で読んだのを思い出した。
「命冥加な奴」という表現を覚えていて、確か脚注を読んだ覚えがある。
収録順としては、年代順のようで、初期はいわゆる私小説っぽいもので、後半は自然観察や人生の懐古譚のようになっている。
「虫のいろいろ」以外では、落第を救ってくれた恩師の死を知らされる「山口剛先生」が印象的である。
かつての大学生と教師との関係が分かって、興味深かった。
尾崎一雄は志賀直哉の弟子だということだが、若い頃通り一遍に読んだ短編や「暗夜行路」を読みたくなった。
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やはりベストは『虫のいろいろ』。額のしわで一匹の蠅をつかまえながら(くしゃおじさんに匹敵)、そこから確率論、宇宙の有限or無限まで話がいって、最後は「うるさくなったのだ」というサゲ。笑える。
続く「蜂」の連作もよい。対象即自己。『城ノ崎にて』を落語にするとこんな感じか。 -
初の尾崎一雄。自分の好きな私小説というジャンルではあるのだか、初期作品の雰囲気は好みそのものであるものの、年齢とともにある程度落ち着いた感性で描かれているものや、自然や虫をテーマにしたものは個人的には刺さらず可もなく不可もなくといったところ。
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木、虫、自然への畏敬の念。終わりの方の老年期の日常に一抹の寂しさ。
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芥川賞受賞作から1982年の最後の作品まで、編者に選ばれた短編や随筆で構成された一冊。どこかユーモラスで明快な文章が並ぶ初期の小説が面白い。志賀直哉に師事したとあってなるほどと。私小説の定義と尾崎一雄のスタイルについての編者解説がわかりやすく、また読み直そうかと思う。
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2009/05/06
病気とか貧乏の話なのに、からっとしてさわやか。
2012/11/15
尾崎一雄が好きなのを確認するために読んだようなものなので特に新しい感想はないけれど、尾崎さんの何がいいって、思考が借りものじゃないところ。派手な独創性はないかもしれないけれど、100%自分の人生を生ききった人だ。この若いころから絶筆までの選集を読むと、ねばりづよく時間をかけて家族と自身を作り上げてきたのがわかる。憧れざるを得ない。
題名もすてきな「美しい墓地からの眺め」の、親戚との会話が好き。言わないでおくことの良さ。 -
曲が終わった.すると蜘蛛は,卒然といった様子で,静止した。それから,急に,例の音のないするするとした素ばしこい動作で,もとの壁の隅に姿を消した.それは何か,しまった,というような,少してれたような,こそこそ逃げ出すといったふうな様子だった。――だった,とはっきりいうのもおかしいが,こっちの受けた感じは,確かにそれに違いなかった。
蜘蛛類に聴覚があるのか無いのか私は知らない。ファーブルの「昆虫記」を読んだことがあるが,こんな疑問への答えがあったか無かったかも覚えていない。音に対して我々の聴覚とは違う別な形の感覚を具えている,というようなことがあるのか無いのか。つまり私には何も判らぬのだが,この事実を偶然事と片付ける根拠を持たぬ私は,その時ちょっと妙な感じを受けた。これは油断がならないぞ,先ずそんな感じだった。
(「虫のいろいろ」本文p.111) -
尾崎一雄の奥さんが面白く描かれている。本当にそうだったのかは知りませんが、こういう人なら気楽でいいなと思ってしまいます。虫のいろいろもよく観察しているなと感心してしまう。この本はおすすめです。
著者プロフィール
尾崎一雄の作品
