新編春の海: 宮城道雄随筆集 (岩波文庫 緑 168-1)

著者 :
制作 : 千葉 潤之介 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 60
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003116814

作品紹介・あらすじ

箏曲「春の海」「水の変態」をはじめ数々の美しい作品をのこした宮城道雄。その鋭い感覚に支えられた豊かな才能は、随筆にもあらわされた。作家らとの多彩な交流をはじめ、四季の情景、芸の話、失敗談、紀行、家族のことなどをやさしく語った43篇に、林芙美子との対談を加える。

感想・レビュー・書評

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  • 正月番組に必ず流れる「春の海」の箏曲家宮城道雄の随筆集。
    「春の海」は瀬戸内海の島々の綺麗な感じを描いたらしく、そういわれると長閑な景色が浮かんでくる。宮城は視覚障害者であり、体験が主に聴覚によるはずであるので、景色の捉え方は違うかもしれない。
    宮城は有名な音楽家だけど、茶目っ気があり明るい人柄で、読んでいて安心感があり、心地良い。
    内田百閒が箏の弟子になっていおり、よくエピソードに出てきて、仲の良さが微笑ましい。内田百閒が宴会中に珍しく歌っているのを宮城が録音したところ、その録音を何度も聴きたがったり、長いステッキで夜中に宮城宅の2階の雨戸を叩く悪戯をしたり、やることが子どもだ。この本も宮城道雄が口述したものを内田百閒が編集したものである。

    日経の読書欄で松浦弥太郎が紹介しており、Amazonで高値が付いていたが、町の本屋で見つけて買う。

  • 宮城道雄というとどうしても寝台急行銀河から落ちての悲劇的最後とか盲人で琴(筝)の作曲家というイメージが濃く、いまいち積極的に近づく気なれなかった。それが内田百閒の随筆を読むうち親友ともいえる道雄の姿を見てだいぶイメージアップ。今回たまたま書店でこの本を見つけて読んでみたもの。戦争前後の話がほとんどだが少年時代の思い出も描かれている。その時代のさまざまを知るためにも読んでよかった。あまり戦時の話はないけど書いていないのかな?他の随筆作品もちょっと読んでみたい。あと、前の住居が比較的中町に近く、区立図書館へ行くときに記念館(旧居)前を通っていた。その時はあまり興味もなくスルーしていたのだが、今度コロナ禍が落ち着いたら行ってみたいと思う。

  • 音に生きる
    春になるとやってくる小鳥が毎年同じものとわかる。

    音楽の世界的大勢と日本音楽の将来
    ドビュッシーのセロとピアノの奏鳴曲の中の一楽章をきくと、セロの使い方には確かに支那の蛇皮線(じゃみせん)の趣がある。ラヴェルの弦楽四重奏の中には、全く弓を使わずに、ピチカットだけで行っているところがあるが、それなんかはちょっと琉球の音楽を聴く感じである。

    箏と私
    私たちは、ただこの道を往く他はない。迷ったりする余地はない。ただ驀然(まっしぐら)にこの道を進んで往こう。その一年が私を今日あらしめてくれたとも言えるのである。
    もし何かの都合で一日中箏を弾くことが出来なかったりすると淋しくて堪らない。
    また、弟子の弾いている箏の音を聴いただけで、どの人がどんなことを考えているかがよく分かる。

    耳の生活
    その耳が、時々風邪をひいて欧氏管が腫れると悪くなる。
    しかし幸いなことに耳が遠くなると楽器の調子などがかえって微細に聞こえる。
    私はひと(の声)には耳が遠くなるが自分には近くなるような気がする。

    四季の趣
    私は冬になると寒いので、無精をして寝床の中で勉強する。それは灯光もいらず、あおむけになって、おなかの上で点字を探り探り本を読んだり、点字の道具を動かして書いたりする。寒い夜中などは、落ち着いた気持になる。

    歓迎会

    アメリカからヘレン・ケラー女史が来朝された
    ケラー女史の今までのいろいろの苦心談や、女史の非常に美しい愛の言葉は、聴いている人々に心迫る感を与えているように思われた。そうして、一言聞くごとに、私たちは涙が流れるのを止めることが出来なかった。その日集まった人々は非常に府買う感銘を受けて、知らず知らずのうちに、何かある深い教訓を受けたのである。
    ケラー女史の講演が終わってから、私の演奏が始まると、耳の聞こえぬはずのケラー女史が私の音楽を聞かれた。その音が空気の波動か何かで女史に伝わるのか、女史がしきりに音楽に合わせてタクトのようなことをやられたそうである。
    私は耳以外の感覚で音楽を理解されることを意外に思ったのである。
    ケラー女史があらためて三十分間講演された。
    岩橋氏は盲人であるのに、英語で云われた事をその場で日本語に通訳され、その日本語もケラー女史の云われた気持や感情がよく出ているように思われた。おそらく、その晩に集まられた朝野の名士も、その通訳ぶりに対して、岩橋氏を盲人とは気がつかない人が大分あったのではないかと思う。
    「どうも目が明いているのが馬鹿馬鹿しい」とか、「こうして行きているのがいやになった」とか、「私も盲目に生まれて来ればよかった」と云うようなものが聞こえた。私たちもケラー女史のような人がおられるために、自分たちまで鼻が高くなったような気がした。

    新田丸の印象
    私は一度寝て眼がさめるとそれからどうしても寝つけないので、それで家にいるときいつでも魔法瓶に酒を入れて枕元においておくのである。それで今晩もなんだか我儘のようであったが百閒氏にその話をすると、それでは頼んでやろうと言ってボーイさんに頼んでくれた。

  •  
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4820558900
    ── 宮城 道雄《雨の念仏 ~ 障害とともに生きる 200102‥ 日本図書センター》
    http://booklog.jp/entry?keyword=%E5%AE%AE%E5%9F%8E%E9%81%93%E9%9B%84&service_id=1&index=All
     
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/400311681X
    ── 千葉 潤之介・編《新編 春の海 ~ 宮城 道雄随筆集 20021115 岩波文庫》
     
    http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1319027
    ── 宮城 道雄・曲&箏/吉田 晴風・尺八《春の海 193012‥ ビクター》
    http://www.enpitu.ne.jp/usr8/bin/search?idst=87518&key=%B5%DC%BE%EB+%C6%BB%CD%BA
     

  • お正月に耳にする「春の海」の作曲者である、近代箏曲の父・宮城道雄の随筆集があると知り、購入した

    曲の印象が強く、ご本人のことは盲目であったことと悲劇的な最期であったことしか知らなかった
    停電の話にはなるほどと思い、胡弓をいきなり弾いたりする話にはやはり天才だと感じた
    内田百けんとの繋がりがあったことも初めて知った
    興味のある人には、宮城道雄記念館(神楽坂)もおすすめ

  • たぶん宮城道雄なんて、僕と同じ年代で知ってる人はもはや、それこそお箏とか三味線をやってるような人だけだろうな。僕も大学に入るまで知らなかったし。
    でも彼が作曲した音楽は、日本人なら誰しも絶対聴いたことがあるはずだ。
    お正月、神社に行けば、テレビをつければ、どこからともなく流れてくる、『春の海』。

    大正、昭和を通じ、邦楽と西洋音楽との融合を目指した「楽聖」宮城道雄。
    その随筆には、彼の人間性がみずみずしくあらわれている。

    彼は盲人であったゆえに、描写に視覚表現がほとんどない。触覚や嗅覚などよりも、聴覚で彼のとりまく日常を描いているさまは作曲家ならではだ。しかしそれでも不思議なことに、彼の書く文章(口述筆記で綴られたらしいが)には「色」がある。光を持つ我々晴眼者にも、彼の「視ている」世界が容易に浮き上がってくる。それはやはり、宮城のすぐれた感受性でこそなせる業なのであろう。

    東海道線の列車から転落するという悲劇的な最期を遂げ、「伝説」と化した宮城道雄の、心優しく、朗らかで、ひょうきんな人間性が伺える文章たちが、いたずらにまつり上げられた彼に、親近感を抱かせてくれる。

    現代に、彼のような純粋で、新鮮で、素敵な感受性を持った音楽家はいるだろうか。
    ドメスティックな流行に終わり、非将来的で、どこか停滞した印象を受ける今の日本の音楽を……音楽文化自体が軽視されがちなこの時代を、彼はどう思うだろう。

    「音楽の世界的大勢と日本音楽の将来」は音楽に携わる人みんなに勧めたい。
    「白いカーネーション」で久々に泣きかけたのはナイショの話。ふふん。

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著者プロフィール

宮城道雄(みやぎ みちお 1894‐1956)
名曲《春の海》の作曲者として知られる宮城道雄は、明治27年(1894)4月7日、神戸三宮居留地内で生まれた。8歳で失明の宣告を受けて以後、自らの道を箏曲地歌に定め、やがて西洋音楽の要素を邦楽に導入することによって、新しい音楽世界を開拓。自己の音楽理念に関する叙述も数多く著した。また、親友の随筆家、内田百閒のすすめで、昭和10年(1935)に最初の随筆集『雨の念仏』を出版して以来、生前に7タイトルの随筆集を出版。音楽家の単なる手すさびの域を越え、文学として一つの世界を確立し、川端康成ら各界から高い評価を得た。演奏家としても一世を風靡したが、昭和31年6月25日、《越天楽変奏曲》を関西交響楽団と共演するため大阪へ向かう途次、刈谷駅付近で急行「銀河」より転落、62歳で死去。

「2022年 『宮城道雄著作全集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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