- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003118412
感想・レビュー・書評
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久生十蘭の2冊目。1編を除いて戦後、1946年から1957年に発表されたものが収められている。1957年は十蘭が55歳で亡くなった年であり、この付近は晩年の作と言うことになる。
先に読んだ同じ岩波文庫の短編集『墓地展望亭・ハムレット』と同様に、非常に凝縮された見事な表現が目を惹くが、物語の構成も優れているし、予想外の展開になる作品も多く、やはり、一つ一つがキラキラ輝いているような粒ぞろいである。
しかし、何故か短編集として通読すると、ちょっと疲れてしまう。1編ごとに凝縮されて濃厚な上に、文学性が多岐にわたっており、多彩すぎて作家のコアな「声」が迫ってこない。技巧的で言語表現に凝りまくっている点でナボコフを想起させるが、ナボコフにあるヘンタイっぽさは皆無で、ずっと大人しくも見える。実際にこの作家は穏やかな人物だったのだろうか。
やはりなかなか正体が掴めないこの作家へ目を凝らしても、何やら霧がかかって茫漠としている。それでいて、個々の作品は非常に優れていることも確かなのだ。
さらに十蘭を少しずつ読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
今回の感想はこれ一冊ではありませんが代表として。
http://navy.ap.teacup.com/book-recommended/131.html -
短編のあたり外れが大きい。
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該博な知識がさらりと反映され、しかも物語は、決してしつこくないくせに充分な分量を語って心地良い。「小説の魔術師」の異名が、確かに相応しい作家に思う。理屈や感情で通るところにこの作家の文章はない。あっと言わせてやろうなどという作為もない。ただ、物語がくるくる渦を巻いて、読者が予想していたのとは「位相が異なる同じ場所」に落としていくイメージがある。位置的には予想通りであっても、空間が違うのである。私などはただ、語りの巧みさに釣り込まれて未知の世界へ落とされるばかりである。読後に独特の浮遊と満足があった。良い出会いだった。
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初めての久生十蘭。凄まじい文章力にため息。むしろ新しささえ感じます。これは、必読です。
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彼の本を一度登録した気がするが…
読んでないんだな -
すばらしい、収録作15篇全て甲乙つけがたし。幻想譚、歴史物、純愛物、悲劇もあれば喜劇もあり。着物や建造物、芸術作品などの端麗な描写にうっとり。意外性のあるストーリーも逸品で最後にストーンと落ちる。その軽快さもまた心地よし。洒落たルビ使いも効果的だ。根底にあるだろう戦地赴任とフランス遊学の体験が源泉か。ジュラニアンを名乗るにはまだまだおこがましいけど、近づけるよう鍛錬したい。
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楽しめなかったorz 教会、マロニエなど西欧趣味のもろもろがあまりに多すぎて物語に入り込めない。著者にはフランス遊学の経験あり。その感性を真摯に作品に落とし込んでいるのは理解出来るが。文章も心地よく、話もするすると進む。筆力はさすがに立派。ただ、物語にはたいした発展もないなあというのが正直な感想。同時代の高等遊民〜中産階級ならばきっと楽しめたんだろうな。昭和モダン、その時に生きてさえいれば堪能出来たかもしれない。選中「黒い手帳」「無月物語」は良し。あ、後半は読まずに済ましてしまいましたっw
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久生十蘭は推理小説だけでなく、静かに時間が流れる空想(幻想?)と日常の短編も面白い。中でも「黄泉から」の余韻がいまだに残っていて、日常に潜む不思議な感覚がえも言われぬ感覚を与えてくれる。まさに短編の名手。