六白金星/可能性の文学 (岩波文庫 緑 185-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003118511

作品紹介・あらすじ

大阪の庶民のねばり強い人生と、大阪という土地そのものが醸しだす雰囲気を独特の言葉遣いで写しとった織田作之助(一九一三‐四七)の、戦後発表の代表的短篇十一篇と評論二篇を収録。大阪を愛した作家による、なつかしい大阪がよみがえる。

感想・レビュー・書評

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  • ⭐︎
    六白金星
    競馬

  • 六百金星とアド・バルーンが面白かった!
    オダサク読んだことなかったけど文豪でこんなおもしろいのは最高!!
    人間の絶望より可能性を描く文学、活き活きとした昔の大阪の描写、大好きな作家になった!

  •  1945(昭和20)年から翌1946(昭和21)年にかけての作品が収められている。1947(昭和22)年にまだ33歳にして早逝した作家なので、若いが「晩年」に当たる。
    『夫婦善哉』を中古の新潮文庫で遥か昔に読んだことがあるきりで、さして印象のない作家だったが、今回読んでみてとても良かった。読みやすい文章でしばしばユーモアをも交え、微妙で深みのある人間像を呈示する。特に「表彰」「六白金星」が非常に良かった。
     この世代の作家の文章は、先行する世代の文章とは何か根本的に異なって、実に読みやすい。太平洋戦争中から作品を発表した作家なのだが、私の目には「戦時以前」と「戦後」とのあいだに、日本文学の「文体」に大きな断絶があるように見える。そして後者の文章の「平易さ」(あるいは工夫の無さ)は後々に更に度合いを増して、こんにちのスカスカな文体へと一直線に変容してゆくように見える。
    「無頼派」と呼ばれる
     織田作之助(1913《大正2》-1947《昭和22》)、
     太宰治(1909《明治42》-1948《昭和23》)、
     坂口安吾(1906《明治39》-1955《昭和30》)
    の3人はどうやら実際に仲が良かったらしく、本書所収のエッセイ「可能性の文学」の中で3人が共に酒を飲みながら語り合う場面が描かれている。この3人は何故かみんな若死にしている(織田33歳、太宰38歳、安吾48歳)。
     本書の短編小説の深みのある味わいに心動かされたのだが、作家が文学観を明示したこのエッセイ「可能性の文学」も非常に興味深い。当時文壇で絶賛された志賀直哉を中心に、ほとんど宗教のように瀰漫した価値観に、織田作之助は全霊を込めて抵抗する。そうした「美術工芸品」のような小説価値は、世界近代文学から見るとほんの一部に限定されたものでしかない。「美術工芸品」としての完成は、もはやそこには「可能性」は残されていない。文学としての「可能性」、そして人間の「可能性」である。

    <「可能性の文学」は果して可能であろうか。しかし、われわれは「可能性の文学」を日本の文学の可能としなければ、もはや近代の仲間入りは出来ないのである。
     小説を作るということは結局第二の自然という可能の世界を作るということであり、人間はそこでは経験の堆積としては描かれず、経験から飛躍して行く可能性として追究されなければならぬ。>(P362)

     そういえば日本社会・文化、日本人というものが、西欧と比べると確かに「ほんとうの近代化」を経ないまま未熟さに留まり続けたという現在の現実が、ここにも表現されているように思える。
     そして「第二の自然という可能の世界を作る」ということ、思うに音楽を作るということもやはりこれなのではないか、と感じ入った。
    「無頼派」の3人は3人ともに独自の魅力を持った作家たちだが、織田作之助に関しては、死ぬのが早すぎたという惜しまずにはいられない。

  • 作之助の作品全部大好き脳内お花畑ハッピー野郎です
    『アド・バルーン』がどちゃくそ好きで何回読んでも良〜〜〜!!!ってなります
    『髪』は「撲られたということをここで語ることでユーモアを生んでいる」って解説では言ってるけど、私はいつもユーモア以前に作之助のこと撲ったやつ地獄で待ってろよって思いながら読んでますユーモア無くてごめんなさいははは

  • 「女の橋」「船場の娘」「大阪の女」「アド・バルーン」「世相」「可能性の文学」は角川文庫で
    既読。「表彰」をはじめ、既読の作品に見られる大阪に住む人々の暮らしぶり、市井の様子がまるで絵巻物のように広がって目に見えるようです。特に「アド・バルーン」の中に描かれる、犇めく夜店、灯る明かり、賑やかな界隈は幻燈映写機が映し出すよう。いかに織田作之助が大阪に愛着を持っていたかが窺われます。「六白金星」の主人公、楢雄の性質や気性のせいか、何か不思議な感じのする作品。「競馬」は読んでいて何となく寺山修司を思い出しました。ラストの競馬のシーンはスリリング。連作の「女の橋」「船場の娘」「大阪の女」は何度読んでもいい作品だなと思いました。特に「大阪の女」の、娘の葉子と島村が駆け落ちするとなった場面で、葉子の母である雪子が、若い2人の理想を、夢を信じようと呟いたシーンは感動的。雪子もまた想い人と結ばれなかった過去があるからこそ、出てきた言葉だと思うと切ないものがあります。

  • ○目次
    道なき道/髪/表彰/女の橋/船場の娘/大阪の女/六白金星/アド・バルーン/世相/競馬/郷愁/二流文楽論/可能性の文学

    人のリアルと可能性を描く織田作之助文学。変に飾ってない素の人間が見えるので、夫婦善哉に続けて一気に読みました。

  • 彼の文学論が読めるとは思わなかった。興味深い。

  • 道なき道

    表彰
    女の橋
    船場の娘
    大阪の女
    六白金星
    アド・バルーン
    世相
    競馬
    郷愁
    二流文楽論
    可能性の文学

    著者:織田作之助(1913-1947、大阪市天王寺区、小説家)
    解説:佐藤秀明(1955-、神奈川県、日本文学)

  • 大戦前後の短編と文学論。短編は感触がとても良く好感度高め文学論に関しても共感度高め。志賀直哉はいい書き手だと思うけど指摘していることは正しいように思う。当初文学に抱いていた違和感がうまく書かれていたように思う。ここからいろんな本を読むことができる。いい感じで小説読む気分にさせてくれるそんなテキスト群

  • 上手いなぁ。世相、郷愁の戦後間もない時代の匂いの出し方とか、女の橋、船場の娘、大阪の女と続く明治大正昭和の三世代の悲哀とか。上手いなぁとしか言いようがない。
    混沌として何を信じたらよいのやらとんとわからないという風の世相、郷愁は面白い。郷愁のなかにも赤子の泣き声の話がでてくる。オダサクのなかで、通低音として、聴こえていたのだと思う。
    きょとんとした目という表現もまた印象深い。「それはもう世相とか、暗いとか、絶望とかいうようなものではなかった。虚脱とか放心とかいうようなものでもなかった。」とその目を評する。

    競馬のもつギャンブルの魔的な魅力、ラストのカタルシスは、構成力の妙だと思う。馬と一緒に走り去るように、一気に読ませる。

    夫婦善哉とともに、手元に置いておきたい一冊。

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著者プロフィール

一九一三(大正二)年、大阪生まれ。小説家。主な作品に小説「夫婦善哉」「世相」「土曜夫人」、評論「可能性の文学」などのほか、『織田作之助全集』がある。一九四七(昭和二二)年没。

「2021年 『王将・坂田三吉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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