死者の書・口ぶえ (岩波文庫)

著者 :
  • 岩波書店
3.63
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本棚登録 : 421
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003118627

作品紹介・あらすじ

「したしたした。」雫のつたう暗闇で目覚める「死者」。「おれはまだ、お前を思い続けて居たぞ。」古代を舞台に、折口信夫が織り上げる比類ない言語世界は読む者の肌近く幻惑する。同題をもつ草稿二篇、少年の日の眼差しを瑞瑞しく描く小説第一作「口ぶえ」を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 夢幻能のような小説である。

    折口信夫『死者の書』、1939年に書かれた幻想小説だ。長くはないが濃密な、この異色の傑作を読むにあたっては、いくらかの知識を事前に仕入れておいた方が良い。これから書くことは所謂ネタバレだが、古代史に相当詳しい人でない限り、この予備知識によって謎解きの楽しみを奪われたと感じることはないと思うので、このまま書き進める。独力で折口の仕掛けに挑んでみたいと思う人は、ここで引き返されたい。

    物語の舞台は奈良県葛城市、二上山(ふたかみやま)の麓にある当麻寺(たいまでら)である。七世紀に建立されたこの仏教寺院には、当麻曼荼羅(たいままんだら)と呼ばれる織物が保管されている。中将姫と呼ばれる藤原家ゆかりの女性が、蓮糸を用いて一夜で織り上げたという伝説のある織物だ。姫はこの功徳によって、生きながら極楽浄土へ召されたと伝承にある。

    この中将姫が『死者の書』のヒロインである。難解な語り口のため挫折率が高いといわれる作品だが、「中将姫(藤原南家郎女)がいかにして当麻曼荼羅を織り上げたか」を幻想味たっぷりに描きだした、いわば架空の縁起物語であるという大筋を押さえておけば、幾重にも錯綜する語りの中で迷子になることはないだろう。

    そしてもうひとつ、中将姫伝説と並んで、この作品には重要なモチーフがある。姫の誕生に先立つこと百年、天武天皇の子として生まれながら、謀反の罪で処刑され二上山に埋葬された、大津皇子(おおつのみこ)の悲劇がそれである。〈した した した〉という印象的な水滴の音とともに冒頭で目覚めるのは、大津皇子の魂だ。皇子の辞世の句とされる歌が万葉集に残されている。

      ももづたふ磐余(いわれ)の池に鳴く鴨を今日のみ見てや雲隠りなむ

    折口の想像力は、中将姫と大津皇子というふたつの傑出した魂を、藤原一族の血と、二上山というパワースポットを媒介としてめぐり逢わせた。それは別の言い方をすれば、百年の時を越えて成就する、スピリチュアルな恋の記録だったかもしれない。

    『死者の書』を読むにあたって知っておくべき最低限の予備知識は、このくらいだ。あとはただ、折口の魔術的な語りに身をゆだねていれば良い。古代人の魂魄が憑依したかのごとき、折口のほとばしる情念を感じとることができれば、それで良い。稀代の民俗学者にして歌人であった折口信夫が、自身の持てる全てを注ぎ込んだ作品。〈死〉を冠する題名とは裏腹に、これほど生き生きとした古代人の息吹が感じられる小説は、そうあるものではないのだから。

    • 深川夏眠さん
      お邪魔しま~す♥
      どの版か思い出せませんが、「死者の書」は
      学生時代に単体の文庫を読み、
      最近(?)は6~7年前に中公文庫の
      「身毒...
      お邪魔しま~す♥
      どの版か思い出せませんが、「死者の書」は
      学生時代に単体の文庫を読み、
      最近(?)は6~7年前に中公文庫の
      「身毒丸」とのカップリング本で再読しました。
      この小説を原案とする演劇を鑑賞したこともありましたが、
      原体験は幼少期、親戚の家にあった日本の童話集(?)
      のような本に収録されていた、
      絵物語だった気がします。
      それから、昔、奈良県の当麻寺へ行って、
      中将姫が織ったとされる曼荼羅図も拝観しました。
      お寺の近くの中将堂本舗さんの
      よもぎ餅「中将餅」もお勧めです。
      https://www.chujodo.com/
      なんちゃって、失礼しました(汗)!
      2019/01/14
    • 佐藤史緒さん
      夏眠さん、いらっしゃいませ♪

      実は私が読んだのは一昨年に出た角川ソフィア文庫です。ほんとは岩波文庫で読みたかったんだけど、近所の本屋に...
      夏眠さん、いらっしゃいませ♪

      実は私が読んだのは一昨年に出た角川ソフィア文庫です。ほんとは岩波文庫で読みたかったんだけど、近所の本屋には売ってなかったのが1つの理由。もう1つの理由は、角川版は字が大きくて目に優しかったからでございます。ああ中高年…

      私、折口は初挑戦だったのですが、夏眠さん流石いっぱい読んでますね〜!
      でも絶対、折口好きだと思った!
      霊魂だし幻想だし衆道ですもの(笑

      しかしその絵本?現存するなら見てみたいものです。渋すぎる。

      何より現地を訪問できたのは羨ましいですね! 奈良は法隆寺と東大寺しか行ったことないけど、いつか行ってみたいです。

      中将餅のサイト、早速みてきましたよ!よもぎ餅だいすきなので、これはもう買うしかない!
      よもぎシーズンを待つ楽しみができました。
      耳より情報、ありがとうございました〜
      (*´∀`*) 今年もよろしくです。
      2019/01/14
  • 再読。「死者の書」続篇も完結してほしかった...。読者がこの先を想像しても楽しいだろう、と解説で言われても、よほど博学じゃないと無理でしょう!注解は、語句の説明というより、小説の背景を詳しく説明してくれて、大いに参考になる。個人的には「死者の書」は解説抜きでも十分面白いと思うのだけど、著名な文芸評論家でも「わけわからない」「気持ち悪い」と発言していたりもするので、こういう注解でいわば裏を知ることができるのは、非常に良いと思う。

  • 文学

  • 非常に難しい。
    解説を読んでも理解出来なかった。
    折口信夫は民俗学という先入観があって、読了後も文学者とは思えなかった。
    「死者の書」は冒頭から次の場面に移る描写が判りづらい。
    『萬葉集』を読んだが、折口信夫の萬葉観を知らなかったのでより複雑に分からなくなった。
    構成が極めて独特だった為、展開が全く掴めなかった。
    「口ぶえ」の方がまだ物語として楽しめた。
    最後に少年二人が自殺する場面は中々鮮烈だった。

  • 良い

  • なにしろ今回は入念な下準備をしたので最後まで読めた。実は下準備の段階で尻込みしていた。何やらとてつもなく恐ろしいものを読もうとしているのではないか。懸念は当たる。地中深く鎮まっていた情念が蠢き出す気配に苛まれなんとも薄気味悪い。崇高な魂を追い求めるが故の純粋さに陶然と酔い痴れるには私は俗され過ぎている。無論反発はないが近寄り難さはある。だが惹かれる、稀有の気高き美しみが私を甘く誘う。この入り組んだ感情に解決の糸口は見つからず。まず折口信夫(釋超空)ほどやっかいな人は二人といないであろう。どうにも気になる。

    (入念な下準備といってもたいしたことありません。富岡多恵子『釋超空ノート』、近藤ようこのコミック、國學院大學博物館での「折口信夫と死者の書」展。あとはネットでちょこちょこ。知れば知るほど慄き増したのでここらが限界と踏ん切りました。)

  • 「彼の人の眠りは、徐かに覚めて行った。まっ黒い夜の中に、更に冷え圧するものの澱んでいるなかに、目のあいて来るのを、覚えたのである。
    した した した。耳に伝うように来るのは、水の垂れる音か。ただ凍りつくような暗闇の中で、おのずと睫と睫とが離れて来る。」

    『死者の書』の冒頭。「彼の人」とは誰か? 謎めいた出だしにぐっと引き込まれる。次に、「した した した」という擬音音が、雫の落ちる音だと知って驚く。闇の中に、生者とも死者ともつかぬものが身を起こす不気味さ。第一章が魅力的だ。

    他の章でも、独特な擬音語が登場する。「のくっと」身を起こす様、「こう こう こう」と魂を呼ぶ声、「つた つた つた」また「あっし あっし あっし」という足音、「はた はた ゆら ゆら」という機織りの音。異世界に連れて行かれるような心地がする。

    ただ、筋立てが難解。ネタバレになるが、本来の筋立ては、「当麻寺を訪れた少女(郎女)からはじまり、「当麻のみ寺のありの姿」を模した曼陀羅を織り上げ、描ききることで、自身が目覚めさせてしまったこの世に「執心」を残して死んだ死者の想いを昇華させる少女(郎女)で終わる」(解説より)。
    私には、「自身が目覚めさせてしまった」「死者の想いを昇華させる」の部分が読み取れなかった。丁寧な解説抜きでは、ほとんど理解できなかったと思う。

    筋立ては理解できなくとも、郎女の見た俤人の神々しさ、一心に仕上げた衣の輝きが、胸に残った。また読んでみたい。

  • なるほどわからない。「死者の書」は途中で飽きて文字なぞっただけで読了ということにしてしまったけど「口ぶえ」はなかなか興味深いBLだったのでちゃんと読んだ。私は清らかな渥美より男くさい岡沢のほうが好きだわ。我ながら浅い読み方しかできてないのが丸わかりの感想。

  • 内容は難解。ただ、日本語の使い方が恐ろしい。例えば石棺の中で蘇った死者に垂れる雫の音「した、した、した」。その死者が人を呼ぶ声「こう、こう、こう」。朝が来て東の空が「ひいわりと」白んでくる。昔の人は語彙が少なかったというが、こういう表現を目にするとよほど伝わってきてむしを恐ろしい。

  • 難解で、とりあえず読んだーという感じ。解説を読むと少しわかって面白い。謎解きのような、頭の片隅に置いておいて、少しずつ折に触れて、スッキリしていくといいな。
    口ぶえはどちらかというと読みやすかった。

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著者プロフィール

歌人・詩人、国文学・民俗学・芸能史・宗教学者。筆名・釈迢空。
大阪府木津村生れ。國學院大學卒業。國學院大學教授、および慶應義塾大学教授。
1953年9月3日逝去(66歳)。能登の墓所に養嗣子春洋とともに眠る。

「2019年 『精選 折口信夫 Ⅵ アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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