釈迢空歌集 (岩波文庫)

著者 :
制作 : 富岡 多惠子 
  • 岩波書店
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003118634

作品紹介・あらすじ

民俗学者折口信夫のもう一つの顔、歌人釈迢空。両者は一にして二ならず。生涯歌に憑かれた詩人は、古代のいぶきを山に、海に、旅に感受し、みずからの息づきとした。「永久なるものを我は頼むなり」-幽明にひそむ生の躍動は、永遠の命へと読む人をいざなう。

感想・レビュー・書評

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  • 釈迢空の短歌、1,734首を収める。かなり感情を露わにした歌の多いことに驚いた。
    太平洋戦争中のものや、養嗣子の戦死を悼む歌は心を打つ。
    文庫という手軽さから仕方がないかもしれないが、もう少し古語についての注釈がほしかった。

  • すこし西行を想起するところがあった。
    生涯の旅人という印象。読んでいる題材は、里山の風景、旅中の出来事などが多いかなと思う。
    万葉がうたいあげたものを、現代的に、かつ現代の風景の中に見出し、昇華させたという印象。現代版万葉集。
    叙景的なものが非常に多い。
    簡潔、簡素。一切の饒舌がない。境地の深さ、空間の静けさを感じる。
    寡黙だけれど、詩が鮮明。鮮やかにその空間がこちらに体感される。

    里人も 踏むことはなし 草荒れて さびしき道の 浜にとほれり

    ----------------

    葛の花 ふみしだかれて 色あたらし この山道を行きし人あり

    山の際の空ひた曇る さびしさよ 四方の木むらは 音たえにけり

    鳥の子の ひろき屋庭に出てゐるが 夕焼けどきを過ぎて さびしも

    目のかぎり 若松山の日のさかり 遠峰の間の空のまさ青さ

    ★きはまりて ものさびしき時すぎて 麦うらしひとつ 鳴き出でにけり

    山の霧いや明りつつ 鴬の 唯ひと声は、大きかりけり

    ★沢なかの木地屋の家にゆくわれを ひそけき歩みは 誰知らめやも

    ★山道に しばしたたずむ。目にとめてみらく さびしき木ぼっこの顔


    ★灯ともさぬ村を行きたり。山かげの道のあかりは、月あるらしも

    山のうへに かそけく人は住みにけり。道くだり来る心はなごめり

    闇夜の 雲のうごきの静かなる 水のおもてを湛えて見にけり

    朝やけのあかりしづまり、ほの暗し。夏ぐれけぶる 島の薮原

    ★川風にきしめく舟にあがる波。 きえて複来る小き鳥 ひとつ


    島山のうへに ひろがる笠雲あり。日の後の空は、底あかりして



    朝日照る川のま上のひと在所。台地の麦原 刈りいそぐ見ゆ

    ★緑葉のかがやく森を前に置きて、ひたすらとあるくひとりぞ。われは。

    児湯の川 長橋わたる 川の面に、揺れつつ光 さざれ波かも

    ★山原の茅原に しをるる昼顔の花 見過ごしがたく 我ゆきつかる

    裾野原 野の上に遠き人の行き いつまでも見えて、かげろふの面

    谷風に 花のみだれのほのぼのし 青野の槿 山の辺に散る

    焼け原の石ふみわたるわがうへに、山の夕雲 ひくく垂れ来も

    おのづから まなこは開く 朝日さし 去年のままなる部屋のもなかに

    目の下の冬木の中の村の道 行く人はなし。鶯おりいる

    ★年の夜の雲吹き下ろす風のおと ふたたび出て行く。砂捲く町へ

    ★窓の外は、ありあけ月夜。おぼぼしき夜空をわたる 雁のつらあり


    ★はろばろに 浮きて来向ふ海豚のむれ つばらつばらに 向きをかへたり

    曇りとほして、四日なる海も 暮れにけり。明れる方に グワジャの島見ゆ

    山原になほ鳴きやまず 夜のふくる山のキギシを 聞きて寝むとす

    木立ち深くふみゆく足の、たまさかは、ふみためて思ふ、山の深さを

    雪ふみて、さ夜のふかきに還るなり。われのみ立つる音の かそけき

    湯の山に ひとり久しき 年くれて せど山のべに 花をもとむる

    秋深く 穂に立ちがたき山の田に、はたらきぎとら おり行にけり

    朝さめて あたま冴えたる山の家。きその夜更けて 宿こひにしか

    ★庭土にあたる日寒し 朝おそく 閑けき村を たち行かむとす


    ひねもす 磯静かなる道を来ぬ。うしほ染み入る 砂のうへの色

    吹きすぎる風をしおぼゆ あなあはれ 葛の花散るところ なりけり

    ★外の海に 夕さりつのる荒汐の 音のさびしさ 山に向き行く

    ★砂原に 砂の流らう音すらし 鴉二羽ゆく。頭よぎりて

    ★はろばろの わたの砂原 時をりに 鴉ゐるらしー声 起りつつ

    このあたりまで 来てー波おとのなかりけり。砂こまやかに うへ堅くあり

    砂原に 砂の吹き立つかげ。ありてー見れば、静かに移ろひにけり

    ★うらうらと さびしき浜を来りけり。日はや、暮れて ひびく 波音

    ★★しずかなる村に 出でたり。村のあること忘れ来しひと時の 後

    ★鳥のなく山を おり来てたそがれぬ。 つひに一つの その鳥のこゑ

    ★ひたぶるにさびしとぞ思ふ。もろごえの蝉の声すら たえて久しき


    ★忘れつつ 音吹き起る山おろしに、なほひそやかに散る 花あり

    ★荒山に 寺あるところー暮れぬれば、音ぞともなく 琉気噴くなり


    ★たなそこを拍てば こだまのしづけくて、亀は浮き来れー。水の底より

    山おろしのよべの響きは こもれども 朝光暑き山を あゆめり

    ★ことごとに もの問ひいけり 朝早き 伊敷原田の幾群れに逢ふ


    ことさらに人はきらはず 着よそひて行かむ宴会を ことわりて居り

    ★朝早く たぎちの音を聞きにけり。ひたすら過ぐる 深き瀬の 音

    松山に 夜の道白くとほりたり 十七夜月 峰にこもれり

    ★鳥の声まれになり行く山なかに 来向ふ秋は ひそかなりけり

    ★海側に 汽車よりおりて、乗り継がむ車待つほどに 曇り濃くなれり

    ★北国の ほどろに曇る夕焼け空。歩み出にけり。港はずれまで

    ★今日ひと日 ながめ暮らしてゆふべなり 超路をすぎて 出羽に入る汽車

    ★汐入り田は 霜折れ早し。さそはれて 我は至れり。草むらのなか

    ★道の霜の消えて 草葉の濡れわたる 今朝の歩みの しづかなるかな

    ★榛も勝軍木も すべて枯れ枯れに、山 ものげなき道 登り来ぬ

    ★をち方に 屋むら見えたる府中町 八十草につづきつつ 見ゆ

    ★夜を込めて 響くこだまか 木曽の峪深く宿りて、覚めて居るなり

    冬あたたかく 終日汽車に乗り来り 人とことばをまじへず


    ★日ねもす すわり居たりしか この夕光に、山鳥 きこゆ

    ★山かげは寒しといへど 雲きれて、睦月ここのかの日ざし あたれり

    ★崎山の篠も 薄も臥しみだれ、海風 ひたとおだやむ夕

    ★柏崎の町見えわたり 長浜の草色とまじる 海人の葛屋敷

    ★崖下に 干潟ひろがり物もなし ひそけきゆうべ 波のよる音→万葉そのもの
     
    ★静かなる夕さり深き波のおもー。海より風の吹く 音もなき

    ★かたよりて 雲の明かりの なほ著き海坂につきて、佐渡 低くあり

    ★ひろびろと 空照り返す曇り波 鵜の鳥ひとつ居る岩 見ゆ

    ★曽我寺の岡にのぼれば わかれ見ゆー。日向 山瀬野 村の家々

    ★山くらく 幾日降りつぐ雨ならむ。今日も とぼしき村をのみ 過ぐ

    ★たたずめば ひたに思ほゆ 山深く かく入り立ちて 我は還らじ

    枯山に向きて 我が居る時長し 尾長鳥など また居なくなる

    ★うしろより 風鳴り過ぐる広き道ー。からだ冷えつつ ひとり歩めり

  • いにしえの歌人のように歌言葉を使うそのインテリジェンスの高さにまず圧倒される。
    よく読み込むと、その歌には普遍的な人間の感情が描かれている。
    しかし難しい。

  • 葛の花 踏みしだかれれ、色あたらし。この山道を行きし人あり

  • 2010年8月13日購入

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著者プロフィール

歌人・詩人、国文学・民俗学・芸能史・宗教学者。筆名・釈迢空。
大阪府木津村生れ。國學院大學卒業。國學院大學教授、および慶應義塾大学教授。
1953年9月3日逝去(66歳)。能登の墓所に養嗣子春洋とともに眠る。

「2019年 『精選 折口信夫 Ⅵ アルバム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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