- Amazon.co.jp ・本 (464ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003119129
作品紹介・あらすじ
「裏に一本の柘榴の木があって、不安な紅い花を点した」(小川未明「薔薇と巫女」)。何を視、どう伝えるのか-日露戦後の新機運のなか、豊饒な相克が結ぶ物語。明治三八‐四四年に発表された、漱石・荷風・谷崎らの一六篇を収録。
感想・レビュー・書評
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明治篇1よりも、言文一致の作品が多かったので比較的読みやすかったです。好きだったものの感想をいくつか。
漱石の「倫敦塔」は、タイトル通りロンドン塔の観光ガイド的要素もあり、アーヴィングの「アルハンブラ物語」あたりに通じるところのある、歴史的建造物を観光しながら過去の光景を幻視するような幻想的な要素もありました。
谷崎の「秘密」は、いかにも谷崎な隠微さで(刺激のある生活を求めるあまり、女装して徘徊するようになる男の話・笑)、谷崎を読むといつも思いますが、あの時代にこういう作品を書いて受け入れられてるっていうのは凄いですよねえ。
小川未明なんかは童話作家(ゆえに文章も平易で読みやすい)の印象が強いので、明治生まれの作家だと思っていませんでしたが、初期は普通に小説を書いていたんですね。といっても今回の収録作「薔薇と巫女」は、かなり幻想的な要素があって、のちの童話作品に通じるものがありました。
志賀直哉「剃刀」は、なんというか、センスが現代的。こういう作品、最近の暗い作家が書いてそう(笑)。
夏目漱石「倫敦塔」
寺田寅彦「団栗」
大塚楠緒子「上下」
正宗白鳥「塵埃」
田山花袋「一兵卒」
徳田秋声「二老婆」
小栗風葉「世間師」
島崎藤村「一夜」
永井荷風「深川の唄」
中村星湖「村の西郷」
近松秋江「雪の日」
志賀直哉「剃刀」
小川未明「薔薇と巫女」
水上滝太郎「山の手の子」
谷崎潤一郎「秘密」
長田幹彦「澪」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
明治後半(明治38年~44年)の短篇小説16篇収録。
小川未明の「薔薇と巫女」が良かった。まだ社会主義活動や童話の類いを書き始める前の印象主義的な作風で、描かれている世界が、日本なのだけれどどこか異国的で(後の有名な童話「野ばら」のように、どことも知れぬ国の物語のようで…)とても浪漫的で感覚的な短篇。後にああいう童話を書く片鱗みたいなものが感じ取られます。
正宗白鳥「塵埃」、徳田秋声「二老婆」なども面白い作品。その他、中村星湖、長田幹彦、水上瀧太郎、小栗風葉、大塚楠緒子など、普段あまりお目にかかれない作家の作品に触れられるのも良い短篇集ですね。 -
日本近代短篇小説選6冊の中で一番楽しめた。1905年(明治38年)から1912年(明治45年)までの20世紀の明治の短篇小説が100年後の今も楽しめるのは、言文一致運動の成果であろう。大塚楠緒子、小栗風葉、長田幹彦等を初めて読めたのも収穫であった。
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徳田秋声の短編が秀逸。