- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003119136
作品紹介・あらすじ
どぎつく、ものうく、無作為でまた超技巧的-百花繚乱の大正文壇は、やがて関東大震災とその後の混迷を迎える。芥川竜之介・川端康成らの一六篇を収録。
感想・レビュー・書評
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タイトル通りの短編アンソロジー。時代で括られているというのが岩波らしくて、今までありそうでなかった趣向ですよね。誰もが知ってる文豪の既読の作品もあれば未読の作品もあり、教科書で名前くらいは知っているけど読んだことはない作家、まったく名前すら知らない作家、さまざまでしたが、どれもそれなりに面白く読めました。
お気に入りは結局、もとから好きで呼んでいる作家のものが多かったかなあ。百けん「花火」は、いかにも百けんな悪夢風、佐藤春夫「西班牙犬の家」はちょっと海外のファンタジーっぽい読後感、岡本綺堂「子供役者の死」はさすがの語り口。
有名どころでは芥川の「奉教人の死」ラストにどんでん返し(?)が2回あり、まあちょっと卑怯な気もするけれどやっぱり素直に驚きはある。川端の「葬式の名人」は、作者の孤独な生い立ちが反映されているようで、ちょっと物悲しくなりました。逆に有島武郎「小さき者へ」は、子供たちへの愛に溢れた良い話なのかもしれないけれど、結局本人がそんな子供たちを残して人妻と心中しちゃったという事実を知っていると、素直に感動できなくなります(苦笑)。
初めて読む作家で面白いと思ったのは宇野浩二「屋根裏の法学士」。1918年の作品(ほとんど100年前!)ですが、主人公は今風に言えばいわゆる「ニート」。働きもせずだらだら毎日過ごし、何も成し遂げていないのに自分の才能だけは過信しており、要するに「俺はまだ本気出してないだけ」ってやつです(笑)。でもその様子が妙に共感できるというか、バカだなあと思いつつもくすっと笑えてなんか憎めない。
同じ私小説でも広津和郎「師崎行」や、葛西善蔵「椎の若葉」になると、自分こんな駄目なんですという開き直りというか、そのくせ悪いのは自分だけじゃない的自己弁護が見え隠れして、まあそれこそが王道の私小説だとは思うんですけれども、正直ちょっとイラっとしてしまう。田村俊子「女作者」も私小説ですが、こちらは唯一の女性作家ということもあり、比較的共感しやすかったかも。
他に面白かったのは菊池寛「入れ札」、上司小剣「鱧の皮」も、大阪弁の雰囲気とか好きでした。アンソロジーの醍醐味としては、有島武郎&里見とん兄弟の作品を同時に読めることとか、久米正雄「虎」への批評にもなっている岩野泡鳴「猫八」が1冊で読めるところ、なんかでしょうか。
ラストの葉山嘉樹「淫売婦」は、いわゆるプロレタリア文学なのでしょうが、女性が読む分には正直ちょっと不愉快でした。設定なんかはある意味現代的だなとも思いましたが、うーん、個人的には苦手だったかも。
一応備忘録として収録作一覧。
「女作者」田村俊子
「鱧の皮」上司小剣
「子供役者の死」岡本綺堂
「西班牙犬の家」佐藤春夫
「銀二郎の片腕」里見とん
「師崎行」広津和郎
「小さき者へ」有島武郎
「虎」久米正雄
「奉教人の死」芥川竜之介
「屋根裏の法学士」宇野浩二
「猫八」岩野泡鳴
「花火」内田百けん
「入れ札」菊池寛
「葬式の名人」川端康成
「椎の若葉」葛西善蔵
「淫売婦」葉山嘉樹詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
どれもこれも面白い短編で、夢中で読みました。
肩肘張らず読める作品ばかりです。
それでいて、当時の文芸の流れも窺えるような人間観察、心情表現も面白い。
芥川などの誰もが知る有名な文豪から、その時代を象徴しつつもあまり読む機会のない作家、全く名前すら聞いたことのない作家まで、幅広い短編作品が集められています。
それがかえって面白い。同じ時代でもこうも文体も内容も変わるのかと楽しい。
文章もいい具合に堅苦しく、読み応えがある。
この時代の人の方が、古典の素養が高いこともあってか、言葉を噛みしめるように味わうことができた。
こうして並べてみると、芥川の文筆の凄さ、語りの力強さとユーモアが浮き出てくる。
既知の作家の特徴までも感じられて、それも新鮮さがあった。
個人的お気に入りは、里見弴と久米正雄、有島武郎の作品、もともと好きだった菊池寛の作品です。
当時の大衆小説の様相が窺われる久米正雄の「虎」は、こちらも掲載作品となった岩野泡鳴の「猫又」内での批判の様子も合わさって、新鮮な感触で読めた作品。
有島武郎の「小さき者へ」は、読んでみたいと思いながら機会がなかった作品。今回読んでみて心に残った作品の一つです。
全体を通し、親子や家族の姿が印象的です。
この時代だからこその家族のあり方がありますが、親になる男の心情がとても細かく描かれていて興味深く思いました。
もちろん、少ないですが、女性の描く女性も印象深い。 -
収録作についての巻末解説がとても良い。〈二葉亭四迷が「浮雲」を書いた40年後に谷崎と芥川が「小説の筋の芸術性」をめぐる論争をしてた〉って所でハッとさせられます。たった40年の間でこれだけ「小説」の書き方が進化した事への驚きと言えば良いのか…。そして、本書に収録されている16編を、この二人の論争である「筋」と「詩的精神」の分布で解説されているのがとても面白くて、収録された作品それぞれマッピングされることで見えてくるものがあってなるほどなぁと。
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千葉俊二氏による解説がとてもいい。解説を読むと、それぞれの短編の良さや特徴があらためて理解でき、ああ、そういう視点で見ることができるんだ、ということがわかる。
それに加え、小説論ともいうべき解説もおもしろかった。谷崎の「筋の面白さ」芥川の「詩的精神」漱石の「(F+f)」それを発展させた千葉氏による座標軸「a(s+p)」による分析、表現と内容との二項対立にかみついた里見弴のくだりも興味深い。 -
2016/01/12
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初めて読んだ作者がほとんどだった。期待せずに読んだら面白い作品ばかりで、集中して読んだ。あらすじに納得したり、主人公のダメぶりに突っ込みいれたり、個性の強い作品が多かった印象。
田村俊子「女作者」 /上司小剣「鱧の皮」
岡本綺堂「子供役者の死」 /佐藤春夫「西班牙犬の家」
里見弴「銀次郎の片腕」 /広津和郎「師崎行」
有島武郎「小さき者へ」 /久米正雄「虎」
芥川竜之介「奉教人の死」 /宇野浩二「屋根裏の法学士」
岩野泡鳴「猫八」 /菊池寛「入れ札」
葛西善蔵「椎の若葉」 /内田百閒「花火」
川端康成「葬式の名人」 /葉山嘉樹「淫売婦」 -
最初は図書館のを読んでいたが、結局、自分のを買った。岩波文庫を買ったのは、4月に草野心平を買って以来。久しぶり。人に勧められて、読んだ。なんだかんだ1週間ぐらい読んでいた。
読んでみるものだ。ふーん、なるほど…なのだ。
有島武郎を読んだのは大学生以来か?(苦笑)
名の知られていない小品が並んでいる。佐藤春夫、宇野浩二、内田百閒、久米正雄、葉山嘉樹、菊池寛、岡本綺堂…これは、私の好きな順番である。また、折に触れ、読み直してみたいと思う。 -
上司小剣氏の『鱧の皮』では、大阪道頓堀の風情がなんとも言えず味わいがあり、また、主人公お文の亭主福造に愛想を尽かしかねるところがいじらしい。 里見弴氏の『銀次郎の片腕』では、牧夫銀次郎の女主人に対する愛情ゆえの大胆な振る舞いに驚いた。
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名前を知る人、知らない人、いろんなタイプの短篇が入っている。解説を読むと文学史での分類法がわかるので勉強になる。ネタバレがあるので最後に読むのをおすすめ。個人の好みとして、言い訳が多い私小説は苦手だとわかった。
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佐藤春夫の「西班牙犬の家」がやっぱりいい。
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大正期の小説を「筋の面白さ」と「詩精神」の和と「私小説度」との積として定義した編者による短編小説選集。巻末の「葛西善蔵の「私小説」と葉山嘉樹の「プロレタリア文学」がひどい。関東大震災後という時代背景が震災後という今の時代背景云々という理由で選ばれたのか。あまり意義を感じないが。その他の作品は、「筋の面白さ」と「詩精神」の組合せが絶妙で、どれも気に入った。
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「虎」と「猫八」が一冊に収まっているのは後者をきちんと読むのに良かった。内田百閒の短編は幻想的で夢十夜のようだった。どの作者ももっと作品を読んでみたいと思った。
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同時代の作品を同時に読むのは、その時代の息遣いや世相を実感しながら読めるので、こういうアンソロジーは好き。
名作と埋れた作品両方が掲載されており、名作を改めて読み直す機会が得られるとともに、今まで未知だった作品、作家にも出会える。