大江健三郎自選短篇 (岩波文庫)

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  • 岩波書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (848ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003119716

作品紹介・あらすじ

「奇妙な仕事」「飼育」「セヴンティーン」「「雨の木」を聴く女たち」など、デビュー作から中期の連作を経て後期まで、全二三篇を収録。作家自選のベスト版短篇集であると同時に、全収録作品に加筆修訂がほどこされた最終定本。ノーベル賞作家・大江健三郎のエッセンス。

感想・レビュー・書評

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  • 『不意の唖――大江健三郎自選短篇』(岩波書店) - 著者:大江 健三郎 - 平野 啓一郎による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS
    https://allreviews.jp/review/873

    大江健三郎自選短篇 - 岩波書店
    https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b249032.html

  • 高齢となった大江が、最後の長編小説の後に、作家の仕事の締めくくりとして初期・中期・後期それぞれの代表的な短編作品を選び出し、改稿した一冊。既読の作品が多いのはわかっていたが、年代順に読み進めることで、戦後の価値の転換と混乱、障害を持った子どもの誕生など、自らに起きた事態に愚直に誠実に向き合い考え続けてきたことに、あらためて得心した。
    癖のある文体で語られる大江の短編は、生じた面倒な状況を思いもかけないユーモラスなできごとでひっくり返す構造も楽しいのだが、突然、他人によって持ち込まれた奇妙な案件が何らかの解決に導かれるパターンは、コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ物のようでもあると、ふと思った。

  • 大江健三郎さんは常に日本の現代に物語で抗ってきた。日本の社会に違和感を持つ人にオススメ。

  • 大江健三郎という小説家がどのような経緯で現在に至っているかがわかる貴重な一冊。初期の名作『空の怪物アグイー』や中期の名作『レインツリー』シリーズ、『静かな生活』上げていくときりがない。

    満足感でいっぱいです。

    11月8日追記
    まさか『王様のブランチ』で紹介されるなんて思いもしなかった。大江さんが言われるように一冊の本が救いになる瞬間がある。そうした本が持てる読者はやはり幸福なことなのだと思う。

  • 初めての大江健三郎でした。
    短篇集にしては分厚いし、初期短篇はかなり暗い。
    自伝的小説。
    暗喩の表現、散文詩的文章が心地よい。
    ご子息との会話が和やかですが、他にも大変なことはいくらでもあっただろう著者は、ご子息を大変大切に想っているのが手に取るように伝わり少し優しい気持ちになりました。
    実は二度挫折した本書、理由は初期短篇が暗すぎるから。
    それは著者が経験のもとに書かれているのだが、あとがきの話のほうが生々しく強烈な印象を受けた。
    苦手意識があったけれど、読後感は最高に良いです。

  • ・「奇妙な仕事」
     狡猾な手を使わずに真正面から犬を叩き殺す犬殺しの誠実さに奇妙な感動をおぼえた。社会的にはいかがわしいとみられる仕事でも、誇りは持てるものなのか。

    ・「死者の奢り」
     「奇妙な仕事」と似た構造。今度はアルコールで満ちた水槽に満ちた解剖用死体を移す「奇妙な仕事」。そしてそれが無益な仕事であるという点でも共通している。

    ・「他人の足」
     脊椎カリエスにかかった若者たちの療養所。性と政治の主題が前面に出た。両者は決して相容れないものの、あるいは不即不離であるものの象徴。

    ・「飼育」
     谷間の村に米軍飛行機が墜落する。一人の黒人が捕虜になる。その捕虜をめぐる少年のみずみずしい感性が、日本側をも相対化する。森の描写と、黒人の描写とが何より良い。

    ・「人間の羊」
     アメリカ軍の兵士に恥辱を受けた日本人学生。そしてそれを糾弾しようとする日本人教師。「飼育」に続いて、何事かを正義という名のもとにあえて主題化することによる欺瞞と狂気を暴く作品。2.26事件の反復への予兆。

    ・「セヴンティーン」
     熱しやすい少年の肉体にとって、選ぶ思想は単なる偶然に左右される。したがって右派左派の違いにどれほどの根拠があるのか。村上春樹なんて、本作に影響を受けた口ではないか。

    ・「空の怪物アグイー」
     アグイーという怪物が見える作曲家の付き添いのバイトをする大学生が語り手。以前の短編の端正な語り口が崩れ始め、文体が変化しはじめたのがわかる。

    ・「頭のいい「雨の木」」
     ひやりとさせられるほど、文体に凄みが備わっている。うねうねとした言葉の運びがいったいどこへ向かうのやらと思いながら読んでいると、まったく思いもよらぬ場所へ連れていかれた。ここらから、事実に根ざしたフィクションが先鋭化されてゆく。

    ・「「雨の木」を聴く女たち」
     男の持つ厭らしさと脆さが前面に出た作品。「高安カッチャン」の報復がささやかすぎて痛々しい。私小説を偽装したフィクションにドライブがかかる。

    ・「さかさまに立つ「雨の木」」
     物語はどこへ向かうのか、もう五里霧中で息を飲みながら読み進めた。「泳ぐ」というライトモティーフが目をひいた。パトロンで友人である作曲家Tと高安カッチャンのノートをもとにレコードを作った彼の子供が音楽を介してつながる。

    ・「無垢の歌、経験の歌」
     イーヨーもの。ウィリアム・ブレイクが登場。イーヨーの発言がいちいち胸に突き刺さる。「家族」にフォーカス。

    ・「怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって」
     死の主題、導入。後頭部の傷とイーヨーの二つの脳。ブレイクと「独学者」の死。

    ・「落ちる、落ちる、叫びながら……」
     プール小説。不穏な、日本人なのになぜかスペイン語で会話するM(三島由紀夫)信奉者たち。溺れるイーヨー。
     
    ・「新しい人よ眼ざめよ」
     二十歳になったイーヨーがイーヨーと呼ばれることを拒否する場面で、この複雑な短編が一挙に生命を得る。

    ・「静かな生活」
     めずらしく、イーヨーの妹がコミカルな語り手。外国へ出かけた両親のいない家で子供たちが留守番をする。すでに一人前の男になったイーヨーの性的問題を妹はひそかに心配している。

    ・「案内人」
     タルコフスキーの「ストーカー」について長女と次男は議論する。長女の心配の種であるイーヨーがじつは妹のことを守ろうとしている。そのコミカルさが胸にずしんとくる。

    ・「河馬に噛まれる」
     ある日、語り手はアフリカで日本人青年が河馬に噛まれたというニュースを新聞で読む。それは彼がかつて頼まれて文通をしたことのある相手。自身の出した手紙がその事件の遠因となっているのを知る。

    ・「「河馬の勇士」と愛らしいラベオ」
     かつて浅間山荘事件に加担して逮捕された「河馬の勇士」が、未来への活路をかすかに見いだす。

    ・「「涙を流す人」の楡」
     谷間の古い記憶が、語り手の現在に暗い影響を及ぼす。

    ・「ベラックワの十年」
     ダンテ「神曲」と想像妊娠。

    ・「マルゴ公妃のかくしつきスカート」
     性と聖の両立。

    ・「火をめぐらす鳥」
     伊東静雄の詩が著者の人生を統括するかに見える。

  • ・大江健三郎「大江健三郎自選短篇」(岩波文庫)を 読んだ。帯に「全収録作品に加筆修訂が施された大江短篇の最終形」とある。本書収録の23編に関しては、以前の「全作品」や「全集」ではなく、これが最終形、もしかしたら定本になるといふことであらう。それを意識して読んだと書いたところで、私にはそれ以前との違ひなど分かりやうはずがない。ただ、かうして初期から最近の作品まで通して読むと、大江の変貌の具合と文体の推移、つまり読みにくくなつていく過程がよく分かる。私が大江を読み始めた時、既にかなりの作品が文庫になつてゐた。それらは初期の作品であつたはずだが、それゆゑにそんなに読みにくいとは思はなかつた。もちろん初期の作品の文体からして大江である。かなり特徴的な言ひ回しがあつたりして、決して読み易い文体ではない。それでもまだましなのだと、本書から改めて思ひ知つた。「大江短篇の最終形」といふコピーに引かれたこともあるが、同時に、そんな文章の変化が、私にも感じられる形での変化が表れてゐるかといふ興味もあつた。結果は、最初から最後までやはり読み易くない、しかも後期、つまり最近の作品ほど読みにくいといふ、これまで私が感じてゐたことを再確認しただけであつた。
    ・しかしである。内容的には大きな改訂もあつたのである。これは自分で気づいたわけではない。『読売新聞』に「『大江健三郎』を作った短編…デビュー作など自選23編、文庫に」(14.09.28)といふ記事があつた。この中にかうある。「作品の根幹に関わる校正はない。ただ東大在学中の22歳の時、発表 した『奇妙な仕事』では、ある変わった仕事に携わる『僕』『私大生』『女子学生』の3人のうちの1人の設定を、『私大生』から『院生』に直した。」さうか、私大生とあるのに違和感を持つた覚えがあると思ひ出したものである。大江が直したのはもちろんこんな理由ではない。「『私大生』では、学生の『僕』 との違いが出てこない気がした。『院生』にすれば、知的な面や人生経験の違いが出てきますね」。あの現場での対応の違ひがこの改訂によりより鮮明になるとい ふことであらう。もしかしたらこれに関連する小さな改訂があるのかもしれない。手許には何種類ものテキストはないので私には知りやうがない。ただ、50年 以上前の作品にも手を入れて完璧を期さうとする執念(?)には感服するばかりである。万が一、他にもかういふ類の改訂があつたとしても私には気づけない。 たぶんそれで良いのである。読者にはそんな細部に気づくことは求められない。大筋が問題である。だから、「『空の怪物アグイー』の冒頭は、<ぼくは自分の 部屋に独りでいるとき、マンガ的だが黒い布で右眼にマスクをかけている>。以前の『海賊のように』の語を、『マンガ的だが』に入れ替えた。」などといふのにも気づかない。確かにこの方がよりふさはしさうではある。それに気づかずとも読める。分かつた気になれる。さうして「雨の木」連作あたりから読みにくさの度合が一気に強まるのを感じ、ここに至つて大江は日常生活の冒険から抜け出して新たな段階に至つたことを知るのである。それは文体だけでなく、内容、物語からも分かる。己が生活を核にして物語を作る、私はかういふのが嫌ひだから、その文体と相俟つてこの頃から大江嫌ひになつていつた。しかし、今もまだた まに大江を読んでゐる。これがノーベル賞作家の魅力か底力かと思ふのだが……。とまれ、個人的には、物議を醸しさうだが、「セヴンティーン」完全版(第1部、第2部)が読みたかつた。そんなことを考へながら時間をかけて本書をやつと読み終えた次第である。

    • suenaganaokiさん
      本当に勉強になりました。ありがとうございました。
      本当に勉強になりました。ありがとうございました。
      2015/10/02
  • 初期、中期、そして近年の短篇から、著者が自選の上、改稿した短篇集。
    自選短篇だけあって、ストレートにイデオロギーや政治的なテーマを表現した初期短篇から、徐々に幻想的私小説へと繋がる作風の変遷を俯瞰するには最適。

  •  読みでありまっせえ!
    「飼育」からポツポツ読み継いで、二つ目に読んだのが「雨の木を聴く女たち」の連作、三つ目が「新しい人よ眼ざめよ」、大江健三郎の中期の二つがこころに残りました。それぞれあれこれ書きました。
     覗いていただければ嬉しい(笑)
    「飼育」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202211280000/
    「雨の木を聴く女たち」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202212030000/
    「新しい人よ眼ざめよ」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202301020000/
    「静かな生活」の感想
     https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202301100000/

  • 大江健三郎という作家は、自らの作品を改稿する癖で知られているが、2014年に出版された本書は、1957年のデビュー当時から60年代までの初期作品、80年代の中期作品、90年代前半の後期作品という3つの時代の短編を、自らの改稿に基づき編集し直された自作短編アンソロジーである。

    長きに渡って活躍している作家であるが故に、決して執筆ペースが早い作家ではないものの、トータルでの作品数もそれなりに多くなる。それなりに彼の作品を読んでいる自身であっても未読(特に短編は)のものが多いため、改めて大江健三郎という作家の面白さを実感することができた。比較的初期作品は昔に読んでいたが、生々しいグロテスクさを詩的な言語というオブラートで微妙に包み込んだかのような世界観はやはり読んでいて感嘆させられる。端的にいって、とても面白い。

    また、自身の息子、大江光との家族との関係性をテーマにした中期の連作短編『新しい人よ眼ざめよ』は未読の作品であり、静かな感動があった。

    大江健三郎の作品は、集中して読み進める必要があるので、また時間ができたタイミングでゆっくり読み進めたい。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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