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Amazon.co.jp ・本 (416ページ) / ISBN・EAN: 9784003119730
みんなの感想まとめ
少年の成長と家族の絆が描かれるこの作品は、主人公オーちゃんの視点を通じて、ディケンズの『骨董屋』との関連を持ちながら進行します。高校二年生のオーちゃんは、作家の父や柔道家の忠叔父さんと共に、映画撮影に...
感想・レビュー・書評
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なんて素敵な物語なんだ。オーちゃんの瑞々しい感性よ。
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ディケンズの骨董屋を読み進めていく過程が楽しい。また、小説家の父に対するオーちゃん目線の描写にクスリとする。「事件」自体は陰惨な印象があるものの、少年の一人称目線の平易な文体で清々しい一作。
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家族からは「オーちゃん」と呼ばれている高校二年生男子。夏休みの間、作家の父の弟である、柔道家で刑事の忠叔父さんとディケンズの『骨董屋』を原文で読んだりしている。ある日、忠叔父さんの知人である、元サーカス団の一輪車乗りである百恵さんという女性を知る。彼女は今は映画監督の原さんという男性と結婚し、タローという子供がいるが、夫が映画のために借金をしたせいで借金取りに追われ、林の中に隠れ住んでいる。連絡係を頼まれたオーちゃんは、林の中で始まった百恵さんを主人公とした映画撮影のための映画基地に通うようになるが、元革命党派のリーダーだった原さんの関係者たちのせいで思いがけない事件が起こり…。
タイトルになっている「キルプ」は、ディケンズ『骨董屋』に登場する悪役のこと。悪徳高利貸で、少女ネルの祖父が営む骨董屋を借金のカタに奪いとり、ネルを不幸に陥れる、悪の象徴のような存在。
大江健三郎の長編は私小説的というか実際の家族をモデルにしていることが多いが、本作は高校生男子が主人公で珍しいなと思っていたら、どうやらご自身の次男がモデルのようだ。家族構成はそのまま、作家の父、映画監督の娘である母、姉、障害のある作曲家の兄・光。そして父の弟の叔父さん。
単行本は1988年の出版。学生運動の名残りのような闘争が描かれるのは、現代だとさすがにピンと来なかったのだけど、80年代なら納得。序盤はディケンズの解釈なども交えて穏やかな雰囲気で進むが、終盤で党派の対立云々になって急展開。ファナティックなサッチャンと森くんの考え方が気持ち悪すぎてとても不快だった。
それにしてもこういう家族をモチーフにした小説というのは、大きなお世話だけれど、題材にされた当人はどんな気持ちでこれを読むのだろう、さぞや照れくさいのではなかろうかとつい想像してしまう。照れくさい程度ならよいけど、こんなこと考えてない、勝手に創作されて迷惑とか反抗期なら思いそう、なんて。それとも大江健三郎の作品はどうしても長男の物語が多いから、このキルプ~で初めてスポットが当たった次男さんは喜ばれたのかなあ。 -
大江のエッセイからよく感じる温かさがある。
作中にもあったドストエフスキーの小説は内容としては暗い話でも全体としては励まされるようなもの、のような話の通り、党派同士の死人が出る争いはありつつも「罪のゆるし」をテーマに描かれるオーちゃんの快復とその快復を自ら語る形式に非常に励まされるものだった。
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■主人公は高校二年生の男子生徒、オーちゃん。彼をとりまく日常が、彼のその時の心もちが、一人称文体によってつぶさに、そしていきいきと描かれる。読んでいるとぼく自身すっかり忘れてしまっていた、あの頃の生身の感覚が胸の中にもくもく湧いてきて、主人公の気持ちとひとつになる。
■部長としてオリエンテーリング部の活動に精を出し、叔父に誘われてディケンズの原文にチャレンジ。そしてそのことがきっかけで映画製作の現場に出入りするようになったオーちゃん。こうして日々見聞を広げるオーちゃんの、若者らしい充実した毎日は読んでいて実に清々しい、のだが……。物語は突如、予想を裏切る大事件へと発展。その真っただ中に放り込まれることになったオーちゃんの命運やいかに?
■若いころ犯してしまった過ちが原因で、毎夜悪夢に苦しめられ、自分の命を供してまでも贖罪を果たしたいと思い悩んでいる元活動家。そしてその元活動家の昔の仲間で、今になってもまだ、他人のことなどお構いなしに”革命無罪・造反有理”で暴れまわっている「キルプの軍団」。………いやいや。こんなやつらと深いかかわりを持ってしまって、そもそも無学で薄幸、しがない一輪車乗り”汚い百恵ちゃん”が、幸せになんかなれるハズがないッ!
■くだんの大事件は、忠(ただし)おじさんの英雄的な活躍で快刀乱麻、一気に解決。しかし精神的に深いダメージを負ってしまったオーちゃんは三日三晩高熱にうなされる。そしてその回復にともない、養護施設に通う兄・光(ひかり)作曲の「卒業」に歌詞をつけるという、実にほほえましく、かつ希望に満ちたエピローグでもって幕が下りる。 -
☆4.5 ヒューモアにあふれてゐる
大江作品のなかではめづらしく、『静かな生活』と同様に、こどもの視点からえがいた小説。
冒頭からのディケンズ『骨董屋』の読解がつづき、カッタルイかもしれない。けれど、ゆっくり読めばいい。しだいに主人公のオーちゃんがかたる高校生の生活――おもにオリエンテーリングと忠叔父さんに惹かれてくる。百恵さんや鳩山さんが魅力的なキャラクタとして登場する。結末は活劇めいてちょっとのめりこんだ。
印象としては、「河馬に嚙まれる」や「僕が本当に若かった頃」の要素に、「静かな生活」のアクションを足した長篇。
講談社文庫版のあとがきには、『キルプの軍団』がいちばん好きだといふ三十代のファンと、ドイツで会った旨が書かれてをり、同時代の若い人にむけためづらしい小説だといってゐる。
岩波文庫版の小野正嗣の解説はすこし的外れだらう。モデル小説として家族をいけにへにする、その罪のゆるしといふ解釈がなされてゐる。しかし、そのやうな局所的な思ひが大江にあったか? 尾崎真理子も、全小説の解説で指摘してゐる。
NHKの100分de名著の『燃えあがる緑の木』の特集でも、大江がむつかしいといふNHKキャスターにたいして、どこがむつかしいんですか?と小野は言ったさうで、なんだか鼻持ちならないなと私はかんじてゐた。
大江をむづかしいとかんじるひとがゐるのは当然のことで、だから村上春樹は大江から離れたのだらうし、大江も後期は文章の改善に努めた。私も文章さへどうにかなればとおもひ、大江と村上の融和こそが、つぎの小説だとさへかんがへた。
ちなみに、さがしたら「キルプの軍団」といふボカロ曲があった。 -
最後に実名で大江光の作曲が出てくる。大江の日常生活の冒険と内容が一部重なっている。ディケンズの小説を原書で読んでいるオーさんが主人公であるが、その警察官であるおじと作家である父がいる。そして映画製作する原が党派の争いで間違って殺され、サーカスで一輪車に乗っていた女性が遺される、という複雑な話である。
朝日新聞での大江の追悼で紹介された本であるが、代表的な小説としては宣伝されていないので、いままで読むことがなかった。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/713290 -
著者:大江健三郎(1935-、愛媛県内子町、小説家)
解説:小野正嗣(1970-、佐伯市、小説家) -
一度何処かで文庫化されていたような記憶があったが、巻末の初出を確認すると岩波から出た後、講談社文庫で出て、再び岩波に戻ってきたようだ。
大江健三郎の長編の中では余り知られていない作品ではあるが、この柔らかい雰囲気が好きだ。 -
単行本で既読。
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