石垣りん詩集 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (2015年11月17日発売)
4.09
  • (24)
  • (15)
  • (13)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 504
感想 : 36
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784003120019

みんなの感想まとめ

仕事と生活を背負いながら生き抜いた女性の詩は、力強さと厳しさ、そして温かさが交錯し、読者の心に深く響きます。彼女の詩には、戦中・戦後の混乱の中での平和への願いや、家族を養う重圧、日常の中で見出す小さな...

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 今日は2020年8月15日、75回目の終戦の日です。
    終戦といって真っ先に浮かぶ詩です。

    「崖」
    戦争の終わり、
    サイパン島の崖の上から
    次々に身を投げた女たち。

    美徳やら義理やら体裁やら
    何やら。
    火だの男だのに追いつめられて。

    とばなければならないからとびこんだ。
    ゆき場のないゆき場所。
    (崖はいつも女をまっさかさまにする)

    それがねえ
    まだ一人も海にとどかないのだ。
    十五年たつというのに
    どうしたんだろう。
    あの、
    女。


    そしてもう一篇。
    1951年に書かれた詩だそうです。

    「雪崩のとき」
    人は
    その時が来たのだ、という

    雪崩のおこるのは
    雪崩の季節がきたため と。

    武装を捨てた頃の
    あの永世の誓いや心の平静

    世界の国々の権力や争いをそとにした
    つつましい民族の冬ごもりは
    色々な不自由があっても
    また良いものであった

    平和
    永遠の平和の銀世界
    そうだ、平和という言葉が
    この狭くなった日本の国土に
    粉雪のように舞い
    どっさり降り積もっていた。

    私は破れた靴下を繕い
    編物などしながら時々手を休め
    外を眺めたものだ

    そして ほっ、 とする
    ここはもう爆弾の炸裂も火の色もない
    世界に覇を競う国に住むより
    このほうが私の生きかたに合っている
    と考えたりした。

    それも過ぎてみれば束の間で
    まだととのえた焚木もきれぬまに
    人はざわめき出し
    その時が来た、という
    季節にはさからえないのだ、と。

    雪はとうに降りやんでしまった。

    降り積もった雪の下には
    もうちいさく 野心や、 いつわりや
    欲望の芽がかくされていて
    ”すべてがそうなってきたのだから
    仕方がない”というひとつの言葉が
    遠い嶺のあたりでころげ出すと
    もう他の雪をさそって
    しかたがない、しかたがない
    しかたがない
    と、落ちてくる。

    ああ あの雪崩
    あの言葉の
    だんだん勢いづき
    次第に拡がってくるのが
    それが近づいてくるのが

    私にはきこえる
    私にはきこえる


    「今からほんの半世紀前には、現代詩にがこんなに率直に平和や社会についてことばを発することができた時代だったということに私は詩人として驚いている」と解説の伊藤比呂美さんがおっしゃっています。
    非常に何か恐ろしいことが起こる前触れのような怖い詩のような気がしました。
    伊藤さんは「今、それができないのが情けないとも言いたいが、実はそんな表現をしないで済んでいるこの時代に詩を書くことができてほんとうによかったと思っている」ともおっしゃっています。


    「私の前にあるお鍋とお釜と燃える火と」「不出来な絵」「表札」「くらし」「兵士の世代」「すべては欲しいものばかり」「犬」も心に残りました。

    • kuma0504さん
      こんにちは、石垣りん詩集は角川文庫で持っています。
      「雪崩のとき」の
      しかない、しかたない、しかたない
      と言う言葉が今も鳴り響いています。
      こんにちは、石垣りん詩集は角川文庫で持っています。
      「雪崩のとき」の
      しかない、しかたない、しかたない
      と言う言葉が今も鳴り響いています。
      2020/08/15
    • まことさん
      kuma0504さん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      石垣りんは、私は2冊目ですが「雪崩のとき」は、この詩集で初めて知...
      kuma0504さん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      石垣りんは、私は2冊目ですが「雪崩のとき」は、この詩集で初めて知りました。
      今日は終戦の日なので、投稿しました。
      2020/08/15
  • 石垣さんは

    14歳で銀行に事務見習として就職し

    定年まで家族の生活を一人で支えつづけた

    職業婦人。

    そういう背景を知ってから読むと

    仕事と生活の描写が多い詩に納得がいきます

    雄々しく力強かったり 生活に疲れていたり

    何度も自分の背負う重荷に

    負けそうになりながらも

    厳しく 強く 温かい

  • 私は、まえへ、
    あごをあげて、


  • 「表札」の石垣りんである。表紙の自筆原稿の達筆に驚く。
    強い人だと思っていたが、父と義母、無職のふたりの弟、5人の暮らしをひとりの月給で支える日々で、

    長い間漕ぎつづけましたが
    文化的な暮しは
    そんなやすらかな港は
    どこにもありませんでした

    と書いた。さらに、

    最低限度の生活を維持したいのが
    私の願いでした
    国はそれを保障してくれたことがありません
    国とは何でありましょう

    と告発する。やっぱり強い人だ。


    日本国憲法第25条
    (第1項) すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
    (第2項) 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。  


    もっとも心にひっかかった詩をひとつ、

    雪崩のとき

    人は
    その時が来たのだ、という

    雪崩のおこるのは
    雪崩の季節がきたため と。

    武装を捨てた頃の
    あの永世の誓いや心の平静
    世界の国々の権力や争いをそとにした
    つつましい民族の冬ごもり
    色々な不自由があっても
    また良いものであった。

    平和
    永遠の平和
    平和一色の銀世界
    そうだ、平和という言葉が
    この狭くなった日本の国土に
    粉雪のように舞い
    どっさり降り積っていた。

    私は破れた靴下を繕い
    編物などしながら時々手を休め
    外を眺めたものだ
    そして ほっ、とする
    ここにはもう爆弾の炸裂も火の色もない
    世界に覇を競う国に住むより
    このほうが私の生きかたに合っている
    と考えたりした。

    それも過ぎてみれば束の間で
    まだととのえた焚木もきれぬまに
    人はざわめき出し
    その時が来た、という
    季節にはさからえないのだ、と。

    雪はとうに降りやんでしまった、

    降り積った雪の下には
    もうちいさく 野心や、いつわりや
    欲望の芽がかくされていて
    "すべてがそうなってきたのだから
    仕方がない”というひとつの言葉が
    遠い嶺のあたりでころげ出すと
    もう他の雪をさそって
    しかたがない、しかたがない
    しかたがない
    と、落ちてくる。

    ああ あの雪崩、
    あの言葉の
    だんだん勢いづき
    次第に拡がってくるのが
    それが近づいてくるのが

    私にはきこえる
    私にはきこえる。
    (1951.1)

  • 女であり、一家の大黒柱であり。どれほどのことを諦めてきたんだろう。作者の私生活の苦労が詩に昇華されることによって報われたことを願う。

  • ふむ

  • 光村図書の中学二年生の教科書に「挨拶ー原爆の写真によせて」が載せられている関係で、石垣りんの教材研究をしようと思って、友人がいっしょに読んでくれることになった一冊。石垣りんの詩以上に、伊藤比呂美の解説が、ものすごく丁寧に一つひとつの詩集の流れを追っているところの方が、ものすごく印象的で、なるほどと思ってもう一度読み返してしまった。
    第一詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』は、伊藤比呂美に、「率直すぎて、現代詩というより、ほとんど社会の正義と反戦と平和のプロパガンダだ。アジテーションだ(p287)」と言わしめる戦争をテーマにした詩に始まり、「身のまわりのp日常的なことがらを見つめ始める(p291)」詩へと移っていく。その視線はやがて「家族の存在に向かい、家族の感情に向かい、家族の使う便所に向かい、台所に向かい、それから自分自身に向かって(p292〜293)」いくと、日常の暮らしの汚さを描いていき、最後に一つ、ため息をつくのだという。

    戦争は終わった。平和を願った。社会について、時事について書いてきた。それから人々を、日常を書いてみた。汚いこと、恥ずかしいことをいっぱい書いた。それから家族を書いた。自分を書いた。書いてきた。そして今、石垣りんは、ここ、詩の半ばで、脱力して、病気もあって、詩らしさからすっかり逃れて、地声で、聞こえるか聞こえないかくらいの低い声で、つぶやくのだ、「ああ疲れた、ほんとうに疲れた」と。(p305)

    この詩集は、伊藤比呂美が選んだ選集だが、本人も「どれひとつとして、選びたくない詩がなかった(p285)」と言っているように、『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』と『表札など』については、かなりの数がそのまま載せられている。これは、後半の『略歴』、『やさしい言葉』、『レモンとねずみ』の三つと比べれば明らかだと思う。それくらいに前半の二つの詩集は、詩集というまとまりとして、一つのストーリーが出来上がっていて、編者の伊藤比呂美が、その作者としてのストーリーを、上手に拾い上げている。

    もう詩集としての理解は、解説にすっかり納得してしまって、それ以上のことを思えなくなってしまった。あとは、個人的に気に入った詩について想いを馳せるくらいのものである。自分の現在置かれた境遇に対して、タイムリーだったということもあって、第三詩集『略歴』にある「定年」は、なんだかものすごく刺さってしまった。


    ある日
    会社がいった。
    「あしたからこなくていいよ」

    人間は黙っていた。
    人間には人間のことばしかなかったから。

    会社の耳には
    会社のことばしか通じなかったから。

    人間はつぶやいた。
    「そんなこといって!
    もう四十年も働いて来たんですよ」

    人間の耳は
    会社のことばをよく聞き分けてきたから。
    会社が次にいうことばを知っていたから。

    「あきらめるしかないな」
    人間はボソボソつぶやいた。

    たしかに
    はいった時から
    相手は会社、だった。
    人間なんていやしなかった。(p152〜153 定年)


    合理化された組織の原理で動く会社には、一人ひとりの人間の声は届かない。決められたルールに則って、機械の部品のように取り替えられる社員たちの様が、不当に長い間、懲戒処分を待たされる自分の境遇と重なって、ものすごく共感してしまった。
    働きたいのに働かせてもらえないということの、必要とされなさ。自分の代わりはいくらでもいるのだということの虚しさ。どれだけ、何を訴えても、人間の言葉で訴えても、聞く耳を持つことのない会社という組織の非人間性。理不尽が、この詩の中に詰まっていることが、身をもって感じさせられる。「あきらめるしかないな」と、ボソボソと呟いた人間の表情を思い浮かべるだに、いたたまれない気持ちになる。

    個人的には、詩集を読みきったあと、伊藤比呂美の感性的な言葉に頼らない、冷静な解説を味わってほしい。詩の言葉を丁寧に拾い集めて引用し、解説を加えていく手つきは、ものすごく憧れる。こんな風に詩を読むかどうかは別にしても、教師という職業をやっている身として、こんな風に詩を説明できたらとは思う。
    選集であることの魅力をいかんなく感じ取れる本だと思う。

  • 女性への力強い応援歌のような

  • 岩波文庫から出ている、詩人・石垣りんさんの詩集。
    詩って本当に、詩人の「人」が見えてくるんだなと実感する。
    全体的に静かで、それでいて激しく、何か鋭利な刃物のような感触が漂っている。
    厳しい?物悲しい?静謐な?
    そんなイメージが漂う詩たちが詰まっていた。
    巻末の解説や年譜を見ても、激動の時代に揉まれ、家族に揉まれ、それでも背筋をピンと生き抜いてきた石垣りんという人の人生が、詩にぎゅっと凝縮されていることが分かる。

    世界へ、戦争へ、国へ、家族へ、個人へ。
    様々な事にフォーカスを当てながら一つの生き方を見せてくれる一冊でした。
    イメージとして、茨木のり子さんとも通ずる所のある雰囲気。

  • 「石垣りん詩集」石垣りん著・伊藤比呂美編、岩波文庫、2015.11.17
    326p ¥814 C0192 (2024.10.13読了)(2024.10.11借入)(2019.07.05/5刷)
    2024年3月のEテレ「100分で名著」で文月悠光さんによって紹介された本です。いつか読んでみようと思っていたので、図書館から借りてきて目を通しました。

    【目次】
    『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』(1959年)
    『表札など』(1968年)
    『略歴』(1979年)
    『やさしい言葉』(1984年)
    『レモンとねずみ』(2008年)
    単行詩集未収録詩篇から
    解説  伊藤比呂美
    石垣りん自筆年譜

    ☆関連図書(既読)
    「forユース」齋藤孝・土井英司・河合俊雄・文月悠光著、NHK出版、2024.03.01
    「今日 Today」伊藤比呂美訳・下田昌克絵、福音館書店、2013.02.15
    「先生!どうやって死んだらいいですか?」山折哲雄・伊藤比呂美著、文藝春秋、2014.02.15
    「女の一生」伊藤比呂美著、岩波新書、2014.09.26
    「犬心」伊藤比呂美著、文春文庫、2016.02.10
    (「BOOK」データベースより)
    家と職場、生活と仕事の描写のうちに根源的なものを凝視する力強い詩を書きつづけ、戦後の女性詩をリードした詩人、石垣りん(一九二〇-二〇〇四)。そのすべての詩業から、手書き原稿としてのみ遺された未発表詩や単行詩集未収録作品をふくむ、一二〇篇を精選した

  • 詩の世界の事はよく知らないけれども、
    石垣リンさんの詩は怒りに満ちている感じがした。

    読んでいる間、気付いたら肩に力が入ってしまっていた。それに気付いて肩の力を抜くのだけど、
    気付いたらやっぱり肩に力が入ってた。

    リンさんって力んで生きてたんじゃ無いかな。
    読み疲れてしまった。

    表紙の文字がきれい。
    こんな、きれいな字を書く人に憧れる。

  • やはりこの人の詩は好きなんだと認識を深めた。

  • 言葉が強い。戦争と戦後すぐ、ふんばって生きている女性の叫び。時が経つなか、年を重ねるなか、家族の重みに耐えながら毎日仕事に向かう生活者の姿。まっすぐで簡明な言葉が刺さる。

  • 100分で名著でこれから紹介される若者のための本である。伊藤比呂美が解説している。この解説がなければ石垣りんがどこのひとかよくわからない。東京の銀行で長らく勤めた。国際女性デーにふさわしい詩集であるばかりでなく、とてもわかりやすく同意しやすい詩集である。学生にとっても読んでこれほどわかりやすい詩集はないであろう。

  • 銀行員として働きながら詩を書き続けた人。
    昔国語の教科書に載っていて名前は知っていたけど、日経新聞の特集で関心を持ったから買った。
    初期の頃は、戦後間もない日本の社会風景を、一般庶民の目線から表現していて興味深かった。
    短い言葉の連なりで、人生や社会の根源的なものを描写する表現力があると感じた。

  • 第二次大戦を経た戦後から活躍した詩人。
    当時の戦後の混乱に基づく苦しみもさることながら、
    複雑な家庭環境。母はおらず、父は半身不随で義母に甘えている。弟は精神遅滞で自分の稼ぎに家族全員がのしかかっているという当時の社会情勢を差っ引いても厳しい生活の中で生き抜いた人。

    そんな背景の人であるから、詩の内容も反戦や反体制、家族へのやるせない気持ちなど、怒りや憎しみと取れる内容が多い。

    詩に何を求めるかは人それぞれだが、私は前を向く勇気や癒しを求めているので、強い敵意や憤怒の詩風はちょっと合わなかった。

    とはいえ、過酷な日々の中で詩による心情の吐露が癒しになっていたのではと想像する。

  • 伊藤比呂美の好みでない石垣りん後期の「穏やかな人生詩」が少ないなど、選詩に偏りはあるが、それでも石垣りんの言葉の凄まじさを味わえる内容に満足。
    私は彼女の穏やかな優しい詩もとても好きなので、それは別詩集を買おうと思う。

  • なかなか…石垣りんさんが過ごしてきた時代背景がまざまざと浮かぶかのような…そんな詩のベストセレクションでしたねぇ…社畜死ね!!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    貧乏と孤独と…家族に悩まされ? ながらも…この時代の女の人で独身ってなかなか珍しいんじゃないでしょうか? などと要らぬことを考えながら読み進めていきましたねぇ…。

    うーん、これは…再読したくなるような詩集でしたね! 茨木のり子さんと言う人もどうやら有名らしいので、そちらもチェックしてみましょうかね…。

    さようなら…。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • 銀行員として働きつつ、詩を紡ぎ続けた石垣りんの精選詩集。茨木のり子さんの詩にも大きな衝撃を受けましたが、石垣りんさんの詩は、また、全く違った意味での衝撃でした。
    現代詩にはまってしまいそうです。


  • 戦後間もないあの時代の空気が言葉から、その間から溢れ出すよう。

    うっすらと覆われて隠されてしまうだろうことから目を逸らさずにいたいと、痛む胸を抱えながらおもう。

    寂しさややるせなさや諦観が漂って、それでいて力づい、そんな女性の姿を思わせる。

全31件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

石垣 りん(いしがき・りん):1920年、東京生まれ。詩人。2004年没。高等小学校時代から詩作を始め、少女雑誌に投稿。卒業後、14歳で日本興業銀行に就職し、25歳の時に敗戦を迎えた。1938年、同人誌「断層」創刊。福田正夫に師事する。1959年、第一詩集『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』刊行。1969年に第二詩集『表札など』でH氏賞、1972年に『石垣りん詩集』で田村俊子賞、1979年に『略歴』で地球賞をそれぞれ受賞。エッセイに『ユーモアの鎖国』『焔に手をかざして』『夜の太鼓』などがある。


「2026年 『焔に手をかざして  新版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

石垣りんの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×