石垣りん詩集 (岩波文庫)

制作 : 伊藤 比呂美 
  • 岩波書店
4.12
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本棚登録 : 344
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003120019

作品紹介・あらすじ

家と職場、生活と仕事の描写のうちに根源的なものを凝視する力強い詩を書きつづけ、戦後の女性詩をリードした詩人、石垣りん(一九二〇‐二〇〇四)。そのすべての詩業から、手書き原稿としてのみ遺された未発表詩や単行詩集未収録作品をふくむ、一二〇篇を精選した

感想・レビュー・書評

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  • 今日は2020年8月15日、75回目の終戦の日です。
    終戦といって真っ先に浮かぶ詩です。

    「崖」
    戦争の終わり、
    サイパン島の崖の上から
    次々に身を投げた女たち。

    美徳やら義理やら体裁やら
    何やら。
    火だの男だのに追いつめられて。

    とばなければならないからとびこんだ。
    ゆき場のないゆき場所。
    (崖はいつも女をまっさかさまにする)

    それがねえ
    まだ一人も海にとどかないのだ。
    十五年たつというのに
    どうしたんだろう。
    あの、
    女。


    そしてもう一篇。
    1951年に書かれた詩だそうです。

    「雪崩のとき」
    人は
    その時が来たのだ、という

    雪崩のおこるのは
    雪崩の季節がきたため と。

    武装を捨てた頃の
    あの永世の誓いや心の平静

    世界の国々の権力や争いをそとにした
    つつましい民族の冬ごもりは
    色々な不自由があっても
    また良いものであった

    平和
    永遠の平和の銀世界
    そうだ、平和という言葉が
    この狭くなった日本の国土に
    粉雪のように舞い
    どっさり降り積もっていた。

    私は破れた靴下を繕い
    編物などしながら時々手を休め
    外を眺めたものだ

    そして ほっ、 とする
    ここはもう爆弾の炸裂も火の色もない
    世界に覇を競う国に住むより
    このほうが私の生きかたに合っている
    と考えたりした。

    それも過ぎてみれば束の間で
    まだととのえた焚木もきれぬまに
    人はざわめき出し
    その時が来た、という
    季節にはさからえないのだ、と。

    雪はとうに降りやんでしまった。

    降り積もった雪の下には
    もうちいさく 野心や、 いつわりや
    欲望の芽がかくされていて
    ”すべてがそうなってきたのだから
    仕方がない”というひとつの言葉が
    遠い嶺のあたりでころげ出すと
    もう他の雪をさそって
    しかたがない、しかたがない
    しかたがない
    と、落ちてくる。

    ああ あの雪崩
    あの言葉の
    だんだん勢いづき
    次第に拡がってくるのが
    それが近づいてくるのが

    私にはきこえる
    私にはきこえる


    「今からほんの半世紀前には、現代詩にがこんなに率直に平和や社会についてことばを発することができた時代だったということに私は詩人として驚いている」と解説の伊藤比呂美さんがおっしゃっています。
    非常に何か恐ろしいことが起こる前触れのような怖い詩のような気がしました。
    伊藤さんは「今、それができないのが情けないとも言いたいが、実はそんな表現をしないで済んでいるこの時代に詩を書くことができてほんとうによかったと思っている」ともおっしゃっています。


    「私の前にあるお鍋とお釜と燃える火と」「不出来な絵」「表札」「くらし」「兵士の世代」「すべては欲しいものばかり」「犬」も心に残りました。

    • kuma0504さん
      こんにちは、石垣りん詩集は角川文庫で持っています。
      「雪崩のとき」の
      しかない、しかたない、しかたない
      と言う言葉が今も鳴り響いています。
      こんにちは、石垣りん詩集は角川文庫で持っています。
      「雪崩のとき」の
      しかない、しかたない、しかたない
      と言う言葉が今も鳴り響いています。
      2020/08/15
    • まことさん
      kuma0504さん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      石垣りんは、私は2冊目ですが「雪崩のとき」は、この詩集で初めて知...
      kuma0504さん♪こんにちは。

      コメントありがとうございます。
      石垣りんは、私は2冊目ですが「雪崩のとき」は、この詩集で初めて知りました。
      今日は終戦の日なので、投稿しました。
      2020/08/15
  • 石垣さんは

    14歳で銀行に事務見習として就職し

    定年まで家族の生活を一人で支えつづけた

    職業婦人。

    そういう背景を知ってから読むと

    仕事と生活の描写が多い詩に納得がいきます

    雄々しく力強かったり 生活に疲れていたり

    何度も自分の背負う重荷に

    負けそうになりながらも

    厳しく 強く 温かい

  • 私は、まえへ、
    あごをあげて、

  • フォロワーさんのお勧めより。とても胸打たれる詩集でした。戦中、戦後を生きた彼女の生々しい肉声が深く刻まれている。平和への思い、戦争へのやるせなさ、親や兄弟を養っていくことの重さ、日々の生活に倦み疲れながらも、ささやかな幸福を噛み締めて。石垣りんという1人の人間の生き様が詩の中に立ち現れている。彼女は本当はどんなふうに生きたかったのだろう。読んでいると慎ましく、平凡な毎日がどれだけ有難いかが身に染みる。彼女の鋭く温かい言葉が突き刺さって涙が溢れてくる。『戦争の記憶が遠ざかるとき、/戦争がまた/私たちに近づく。/そうでなければ良い。』『信頼はそう性急であってはならない。/せっかちに手を組んだって/すぐ離れることもある。/日本の政治家たちがそのいい例だ。』石垣りんが今の世の中を見たらどう思うのか。私の若い頃とちっとも変わっていないと憤るような気がしている。

  • 言葉が強い。戦争と戦後すぐ、ふんばって生きている女性の叫び。時が経つなか、年を重ねるなか、家族の重みに耐えながら毎日仕事に向かう生活者の姿。まっすぐで簡明な言葉が刺さる。

  • 100分で名著でこれから紹介される若者のための本である。伊藤比呂美が解説している。この解説がなければ石垣りんがどこのひとかよくわからない。東京の銀行で長らく勤めた。国際女性デーにふさわしい詩集であるばかりでなく、とてもわかりやすく同意しやすい詩集である。学生にとっても読んでこれほどわかりやすい詩集はないであろう。

  • 銀行員として働きながら詩を書き続けた人。
    昔国語の教科書に載っていて名前は知っていたけど、日経新聞の特集で関心を持ったから買った。
    初期の頃は、戦後間もない日本の社会風景を、一般庶民の目線から表現していて興味深かった。
    短い言葉の連なりで、人生や社会の根源的なものを描写する表現力があると感じた。

  • 第二次大戦を経た戦後から活躍した詩人。
    当時の戦後の混乱に基づく苦しみもさることながら、
    複雑な家庭環境。母はおらず、父は半身不随で義母に甘えている。弟は精神遅滞で自分の稼ぎに家族全員がのしかかっているという当時の社会情勢を差っ引いても厳しい生活の中で生き抜いた人。

    そんな背景の人であるから、詩の内容も反戦や反体制、家族へのやるせない気持ちなど、怒りや憎しみと取れる内容が多い。

    詩に何を求めるかは人それぞれだが、私は前を向く勇気や癒しを求めているので、強い敵意や憤怒の詩風はちょっと合わなかった。

    とはいえ、過酷な日々の中で詩による心情の吐露が癒しになっていたのではと想像する。

  • 伊藤比呂美の好みでない石垣りん後期の「穏やかな人生詩」が少ないなど、選詩に偏りはあるが、それでも石垣りんの言葉の凄まじさを味わえる内容に満足。
    私は彼女の穏やかな優しい詩もとても好きなので、それは別詩集を買おうと思う。

  • 「家と職場、生活と仕事の描写のうちに根源的なものを凝視する力強い詩を書きつづけ、戦後の女性詩をリードした詩人、石垣りん(一九二〇‐二〇〇四)。そのすべての詩業から、手書き原稿としてのみ遺された未発表詩や単行詩集未収録作品をふくむ、一二〇篇を精選した」

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