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Amazon.co.jp ・本 (504ページ) / ISBN・EAN: 9784003120132
作品紹介・あらすじ
明治・大正・昭和の三代にわたる文豪、永井荷風。近代文学に深い刻印を残した荷風は、時代ごと、また場所ごとに、実にさまざまな面影を残した人でもある。荷風と遭遇し、遠くから荷風を慕った同時代人の回想59篇を選んだ。荷風とともに近代を歩くための、最良の道案内。
みんなの感想まとめ
多様な視点から描かれる文豪の人間像が魅力の本書は、永井荷風に関わった59名の回想を集めたアンソロジーです。荷風と接した人々の生の声を通じて、彼の独特な個性や文学的影響力が鮮やかに浮かび上がります。特に...
感想・レビュー・書評
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生前の永井荷風に接した人びと59名が書いた回想録アンソロジー。荷風死去直後の雑誌の特集号に掲載されたものが多いようだ。
戦後の荷風は文学的には一気にかつてのみずみずしさを失って枯れた世界になっていくが、1959(昭和34)年、79まで長生きし、相変わらずの一人住まいの居宅中胃潰瘍から来る吐血で窒息死した。独居老人の孤独死である。女中さんが朝来たら、床にうつぶせになって冷たくなっていたそうだ。
本書を読んで驚いたのだが、当時この荷風死去のニュースがテレビで流れた時、なんと、その死体が転がっている室内の情景が映し出されたようなのだ。当時は死者へのマナーというものが、まだテレビ界に根付いていなかったのか。今ではあり得ない。
文壇から離れ隠棲を決め込んだ荷風は、あれだけ世間に批判的なことを書いていただけあって実際に「気難しい奇人」と思われていたらしい。本書では59名の筆者がそれぞれのコンテクストにおいて多角的に荷風の人間像を照らし出し、互いにイメージが食い違うようなエピソードもあるのだが、とても興味深く、面白い。特に私は荷風の日記『断腸亭日乗』を読んだばかりなので、そこに登場してきた人物らが本書にも姿を現しているのが実に楽しい。
中でも驚いたのは、関根歌さんの寄稿。この「お歌」さんは、芸者をしていたのを荷風が落籍して住居を与えて一時期囲っていた妾なのだが、1931(昭和6)年の日記によると彼女は発狂して入院してしまう。まだ若いのにかわいそうに、と荷風も胸を痛めるのだが、この関根歌さんの文章を読むとこれは実は「仮病」なのである。荷風があまりにも浮気っぽくてひどいので彼女は仕返ししようと思い、医者や周囲の全ての人を欺き、病気のフリをしただけだというのだ。荷風の『日乗』のその部分を読んで「もの凄くドラマチックな出来事だな」と感銘を受けていたので、この種明かしを読んで天地がひっくり返るようだった。
一見淋しそうなようでいて、孤独を極めているようでいて、その都度荷風はわずかながら人びととつながっていたように思える。一見無残な死に様のように見えるかもしれないが、独りで気ままに生き続けた荷風にとって、このような死も本望であったかもしれない。53にもなっていよいよ身体が老いてきた私にとっても、この荷風の枯れてゆく「老い」のイメージは痛切である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
荷風に近かった人遠かった人、明治大正昭和それぞれの時代に、荷風とすれ違った人達の回想59篇を収録。
こうしていろんな人が文章(メディア)に書き残すことで「荷風」というキャラクターのイメージが、実際の人物と切り離されて確立されていく様が垣間見られるようで、読めば読む程に「荷風」の実体が曖昧になっていくという、面白い読書体験でした。
これだけ沢山の荷風の事に触れている随筆を集めているのは流石ですし、巻末の注解と執筆者紹介がとても助かる(作家以外に舞踊家や学者に経営者など、知らない名前の人も多くて…)。そして柱のところに個々の随筆タイトルと一緒に、著者名をカッコ書きで入れてあるのがとても便利でした。(読んでる最中、「あれ、この文章書いてるの誰だっけ?」って時に目次に戻らなくて良い!)こういう編集での地味な心配りが素晴らしいです。
編者の多田さんによる巻末解説も、もちろん充実。 -
時代・場所を異にし、近くから遠くから荷風について語る様々な回想を編んだ本書を読んで、荷風に対して持っていたイメージが随分変わった。あまり感心が出来ずに来た小説を、改めてもう一度読んでみようと思った次第である。
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2020年3月読了。
著者プロフィール
多田蔵人の作品
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