外科室・海城発電 他五篇 (岩波文庫 緑27-12)

  • 岩波書店 (1991年9月17日発売)
3.76
  • (101)
  • (100)
  • (164)
  • (7)
  • (4)
本棚登録 : 1500
感想 : 141
サイトに貼り付ける

本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784003127124

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

作品は、明治時代の初期に書かれた短編小説集で、特に「海城発電」や「外科室」は印象的なテーマを持っています。日清戦争を背景に、愛国心や社会の圧力、個人の悲劇をドラマティックに描き出すことで、現代にも通じ...

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 浅学な私にとっての「泉鏡花」といえば「怪奇趣味とロマンティシズム」というように教科書的には習ったものだが、果たして読んでみた率直な所としては怪奇やロマン云々よりも’ことごとく女の人が大変な目に遭っているなあ’という所に尽きる。
    収録の全7編、どれもこれも登場する美女がこれでもかと酷い目に遭っている。川村二郎先生の解説の言を借りれば、「嗜虐的な趣向」(p268)、「美女受難」(p277)の物語に終始する初期作品集であろうと思われる。おそらくここで大事なのは’美女’がえらい目に遭うという点であり、まだ調べてはいないが多分何らかのコンプレックスやわだかまりを女性に抱いていたのではなかろうか。

    少し前に読んだ、同時代に活躍した田山花袋(新潮文庫9784101079011)よりも正直なところ読み難さはあった。

    以下、各話感想。

    〈義血俠血〉…前半は馬車と人力車のカーチェイスにワクワクすっぞ。打って変わって後半は美女〈滝の白糸〉さんが『俠』を貫いた為に裁判の場にまで引き立てられる超展開に。めちゃくちゃだけど体温がちょっと上がるエンタメ風味。

    〈夜行巡査〉…もはや意味不明レベルの発言を繰り返すくそじじいに腹が立つ。〈八田巡査〉も融通が利かないくそ堅物だが何も死ぬ事はないのにね。

    〈外科室〉…表題作のひとつ。上章はわかる。あぁ、過去に〈高峰医師〉と〈貴船夫人〉の間に何らかの邂逅・ロマンスがあったのだろうとは察せられる。
    が、読んでも読んでも下章の会話のどこからどれが誰の発言なのか分かりにくくて(特にp128、129の部分)、そもそもどうしてここで商人体の壮者ふたりをぽっと登場させたのか。極め付けは高峰と夫人はただ’見かけた’くらいの接点しか書かれておらず、出逢いから手術に至るまでにどういった事があったのかは全て読み手の想像に委ねられる。大胆。

    〈琵琶伝〉…意に沿わず、好きでもないどころか「忌嫌ひ候」(p134)という相手の元に嫁いだ〈お通〉と、その忌み嫌われている軍人の旦那〈近藤〉と、お通の真の想い人〈謙三郎〉とのバイオレンスで不健全な三角関係の物語。終盤のお通の行動にただただ唖然。ラスト1行、リフレインの余韻がたまらない。

    〈海城発電〉…とかく酷い目に逢いがちな本書中の女性陣の中でも、特に哀れなのがこの〈李花〉。〈看護員〉の男は赤十字社員としての職務は全うしたかもしれないが、彼女に対する彼のラストの振る舞いには失望しかない。蹂躙される彼女を前に「諸君」(p190)と呼び掛けた際に、彼は何と続けようとしたのか。

    〈化銀杏〉…結構好き。本作品中に登場する女性陣の内で唯一、明確な死亡ではない幕引きを迎える〈お貞〉による、お貞の物語。最終的に狂ってはしまうのだが。明治の世にありながらもこんな風な思想に到達し得た鏡花の独特な精神性がうかがえる。p228からp230までのお貞の長台詞は現代の妻達にもきっと共感を得られるのではなかろうか。たぶん。

    〈凱旋祭〉…戦時における狂乱を描いたと思う作品。余りにも露骨に対清戦争の勝利に浮かれる群衆と、それを一歩引いた場所からつぶさに冷静に見つめる視点(鏡花ないしは読者)。色彩描写が豊かで、「紫の幕、紅の旗、空の色の青く晴れたる、草木の色の緑なる」(p256)や「黄なる、紫なる、紅なる、いろいろの旗」(p260)や「青く塗りて、血の色染めて、黒き蕨縄着けたる提灯」(p264)など、とにかくどぎつい程にガチャガチャとカラフル。まるで、取り留めのない群衆のカオスを表現しているかのよう。


    もっと作品に触れつつ、鏡花のパーソナルな面も知っていけばより一層理解が進むかもしれない。
    本書を一周読み終えて改めて、彼は女性に対して何らかの思想を抱いていたのだろう。
    なおかつ、短編集でありながらどの話もアクが強く、少なくとも人にあらすじを言えるくらい鮮烈に印象に残ったというのは、まさに本作が’キラーアルバム’たり得る凄味を纏っているからだと思う。


    30刷
    2023.9.2

  • 既読作も含まれるが「海城発電」が気になったので購入した
    初期作品集。
    明治の硬い文体だが、もう慣れたので気にならない(笑)
    川村二郎の解説によれば、
    いくつかの作品には日清戦争が影を落としているが、
    鏡花の本意が反戦を訴えることではなく、
    ただ無惨に斃れ、理不尽な目に遭わされる一個人の悲劇を
    ドラマティックに描いているに過ぎないのだが、
    それにしても当局のお咎めを受けずに雑誌掲載されていたところが、
    後の太平洋戦争時下、作家が困難を強いられたのに比べれば
    世の中の空気は数段マシだったと言えるのではないか、とのこと。
    それにしても「外科室」の言葉少なに迸る熱情は異常……
    なのだが、以前読んだときよりジーンと胸に沁みるようになったなぁ。

  • 明治27年から30年に書かれた7編。若々しく激しさを感じる作品が多い。

    『海城発電』『凱旋祭』は日清戦争を背景に、いわゆる愛国心というものを冷ややかに見つめる。
    また『化銀杏』にみられる女性の地位の低さや弱き者への世間の圧力。
    これらがかえって現代的で、驚きと複雑な思いとでいっぱいになった。

    『義血侠血』の馬車と人力車の競走、美人客を乗せて馬を走らせる場面が大好き。何度読んでもかっこいい。
    『琵琶伝』は初めて読んだがほぼホラー。でも好きな作品のひとつになった。「ツウチャン」の呼び声が切なく耳に残る。

  • ある医者の下で手術を受けることになった女性の話なのだが、彼女はある理由により手術の麻酔を拒否する。
    なんとも不思議な題材だが、そこに泉鏡花の妖艶でどこか非現実的な世界観が加わり、読み手をじわりと確実に引き込んでゆく。

    初めて泉鏡花の作品を読んだのが外科室だったが、本当に衝撃的だったのを覚えている。
    こんなにも日本語というのは美しい言語なのかと。
    泉鏡花の小説を母国語で理解できるというだけで、日本人に生まれてよかったと思った。

  • 明治時代には、乃木夫婦が死を選んだように、死を美学として捉えていたのだろう。

    人を愛し続けることは、時として儚く、醜い。
    死で、それを包むことで、永遠の美しさに変えてしまう。

  • 「外科室」のみ。はっきり言ってなんだこれすごすぎか。見えてこない2人の今までを想像すると、この結末はかなしくも、2人にとってこうなるしか道はなかったのかなとも。でも痛いだろうなあ……。

  • 愛の瞬間、悲哀の頂点。近代というよりはもっと古い読み物にも似て、ときにハラハラ、ときにグサリと胸を突き動かす。鏡花の作品は、岩波ではこれで四冊目となるのだが、解説にもあるように、なるほどかれの源流のようなものを感じる。深いところにある女性への『尊敬』のようなものーー。確かに、後の作品と比べるといくらか芝居がかっている気もするが、若い筆の作品はよく響いて止まない。

  • 学生時代以来で読んだ泉鏡花。書かれた年代が明治中期(19世紀末)で文語体であっても読みづらさはなかったのだが、それでも読みこなすのに苦労したのは、各編で描かれる愛や情念があまりにも激しく、それ故の殉死で幕を閉じるのになぜか不条理さを感じてしまったからなのだろうか。

  • 「いいえ、あなただから、あなただから。」

    『外科室』が読みたくて先にこれだけ読んだ。ん~~~ッ善い!
    泉鏡花は初めてで、明治の文体につっかえながらだったけどなんとか読み切った。

    現代とは異なり爵位制度が存在していて、身分違いの恋が許されなかった時代。言葉すら交わすことはなかったが密かに恋に落ちた学生と少女が歳月を経て、医者と手術を控える貴婦人として再会する。
    貴婦人は夫と子供のある身で、心に抱える「秘密」をうわごとで漏らしてしまうことを恐れ、麻酔の使用を拒否し、「麻酔なしで手術を」と切々と訴える。・・・・

    句読点での台詞の区切り方が好き。1つ1つは決して長くない台詞だけど、区切り方が良いからおのおのの切々とした思いが伝わってくる。

    「秘密」の美しさを「麻酔なしでの手術」という常軌を逸した状況、熟成された時間、抗えない社会構造、一言も会話をしたことがないという一種の盲目的な純情さが装飾している。すごい作品だ。

  • 文体が昔のまんまなので私にはかなり読みにくし難しかったですが、だからこそ当時の雰囲気が伝わってきて面白い部分もありました。
    外科室が読みたくて読みましたが、個人的には「義血俠血」「夜行巡査」「海城発電」が好きでした。
    何か不思議な違和感を感じながら読んでたんですが、最後に解説読んで そこだ!!ってしっくりしました笑

  • 定期的に読み返す一冊。泉鏡花はいつも鶯屋敷に踏み入れたような心地がする。

  • 【外科室】
    外科医と伯爵夫人の秘められた恋の話。
    9年前に一度だけ目が合い、恋に落ちた相手と外科室で再会した二人の様子が美しく、かつ残酷でドラマティックに書かれている。
    外科室での思わぬ再会から「忘れません」という一言に至る流れには、想い合いながら初めて言葉を交わす二人の恋する気持ちが込められていて、とても印象的な場面だった。

    【海城発電】
    反戦を描いた話だろうと受け取ったが、この時代にそれを表現した事がまずすごいと思った。
    敵味方関係なく、看護員としての職務を全うする神崎と、愛国を掲げながら一個人に対して極悪非道な所業をする海野、その対比が明確であればあるほど人間性や器の大きさの違いが伝わってくる。

    【義血侠血】
    以前読んだため割愛。
    http://booklog.jp/users/rayhiouzo/archives/1/B009IXCXQ4

    【夜行巡査】
    老車夫を懲罰したり、貧しい母子の嘆願も問答無用で退け叱責したり、四角四面で融通が効かない八田巡査。
    その八田が求婚した女性は、因業な伯父に翻弄され、自分が死ぬ時はお前も一緒だと半ば脅され、八田との結婚を許して貰えない。
    そんな伯父が極寒の堀で溺れ、八田は泳げないながらも職務だからと助けに行き命を落とし、それを世間は「仁」だと評価するが、鏡花自身は最後にそれを批判する。
    八田=当時の観念であって、それを痛烈に批判する事で今のあり方を問うこの作品が、読めば読むほど好きだ。

    【琵琶伝】
    従兄妹でありながら愛し合う謙三郎とお通の愛と、その仲を割き結婚した近藤のお通への愛。
    前者は狂おしいほどお互いを求め合う愛であり、後者は一方通行の歪んだ愛だったが、どちらもこの時代の小説に登場するには珍しいタイプなのではないかと思う。
    特にお通は、結婚したからには節操を守れるかと問う近藤に、出来るものなら破るとはっきり答えるが、こういうところに鏡花の思想(もしくは好み?)が見えて来る。
    タイトルの琵琶伝はどういう事なのかと思っていたが、最後まで読んで理解した。

    【化銀杏】
    15歳差の夫婦だからなのか、元々の性格からなのか、それとも環境のせいなのか。
    お貞は夫を嫌い嫌いと言っているが、夫は常識のある人物であることも語られており、私にはただ相性が悪い夫婦という風に受け取れた。
    だが、お貞が陰弁慶だと指摘された時に明かす彼女の心の内を知ると、彼女の中の闇が見えてきて哀しさが伝わってくる。
    逝こうとする夫の言葉に従わず、看取る事を選びさえすれば、お貞が望んだ人生を手に入れる事が出来たはずだが、それを選ばず発狂する道を選んでしまうところに、ああ鏡花の描く女性だ…とある意味安堵した。

    【凱旋祭】
    戦争に勝った喜びでお祭り騒ぎをする人々を描いているが、オブジェやら何やら様々なものが登場するので、現実の世界なのかよくわからない不思議な世界だった。
    ただ、その中で戦死した少尉の妻がポンと登場し、お祭り騒ぎに巻き込まれ突然亡くなってしまうが、戦勝に熱狂する世間の様子とこの少尉の妻の死が真逆にあって、そこに鏡花の戦争観が織り込まれているように感じた。

  • 『外科室』を読んで、玉三郎が監督をした映画を改めて見返したいと思った。美しい描写に幻想文学はこう在りたいものだと、昨今の幻想文学もどきを思う。

  • なんで読み飽きないんだろう。泉鏡花は至高の恋愛小説家だ。

  • 「忘れません」

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「忘れません」
      鏡花は切なく、モノの哀れを感じる。そして惹かれるのです、、、
      「忘れません」
      鏡花は切なく、モノの哀れを感じる。そして惹かれるのです、、、
      2013/04/26
  • 『義血侠血』『夜行巡査』『外科室』と読んだ事がある作品が続いたけど、『義血侠血』『夜行巡査』は好きだし『外科室』も良い。『琵琶伝』『海城発電』はよく出版できたな~。かなり戦争や軍隊に対して批判的で解説にもあったけど、この時代はまだある程度の自由があったのかな。『化銀杏』『義血侠血』と女性の最期が辛い。ちょっと読みにくいけど、やっぱり泉鏡花好きだな。

  • 職業倫理 兼六園 小石川植物園 明治時代 金沢

  • 【購入日】: 2025年7月

    ◆Wikipedia / 社会小説(観念小説)
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%B0%8F%E8%AA%AC

    ◆青空文庫 / 泉鏡花『海城発電』
    https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/4557_12112.html

  • Audieble にて外科室を聴く

    自分の理解として前半は聴きやすくヒリヒリと理解できたが、後日談みたいなとこで急にどうなったかわからずあとであらすじみてわかった。前半麻酔を拒否るする奥様の謎とか結末に引きつけられた

  • 一度目をかわしただけで恋におちた学生と少女。
    その後、外科医師と患者として、立場が変わり手術室の中で再会。
    愛に殉ずる二人はどうするのか。
    鏡花文学の原型を示すと言われる「外科室」をはじめ、初期の代表作集。
    「義血侠血」、「夜行巡査」、「琵琶伝」、「化銀杏」、「凱旋祭」を収録。
    文章は難解ですが、じっくり読めば分かります。
    不思議な不思議な、味わいのある作品集です。

全116件中 1 - 20件を表示

著者プロフィール

(いずみ・きょうか)
1873年金沢市生まれ。1893年、「京都日出新聞」の「冠弥左衛門」連載でデビュー。主要な作品に、「義血侠血」(1894)、「夜行巡査」(1895)、「外科室」(1895)、「照葉狂言」(1896)、「高野聖」(1900)、「婦系図」(1907)、「歌行燈」(1910)、「天守物語」(1917)などがある。1939年没。近年の選集に、『泉鏡花集成』(ちくま文庫、全14巻、1995-1997)、『鏡花幻想譚』(河出書房新社、全4巻、1995)、『新編 泉鏡花集』(岩波書店、全10巻+別巻2、2003-2005)、『泉鏡花セレクション』(国書刊行会、全4巻、2019-2020)など、文庫に『外科室・天守物語』(新潮文庫、2023)、『高野聖・眉かくしの霊』、『日本橋』(ともに岩波文庫、2023)、『龍潭譚/白鬼女物語 鏡花怪異小品集』(平凡社ライブラリー、2023)などがある。

「2024年 『泉鏡花きのこ文学集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

泉鏡花の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×