鏡花紀行文集 (岩波文庫)

制作 : 田中 励儀 
  • 岩波書店 (2013年12月18日発売)
3.75
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  • 本棚登録 :45
  • レビュー :5
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003127193

作品紹介・あらすじ

「…ああ、美しさに気味が悪い」(「十和田湖」)。湯の町修善寺・飯坂温泉、猪苗代に京大阪、暮らした逗子になじみの深川。食べもの乗りもの唄に鳥、明治大正昭和をかけて、小説では出会えない喜多八鏡花と旅する十六篇。現代の読者のために詳細な注を付す。

鏡花紀行文集 (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 鏡花の紀行文とは珍しいが、そういえば後期の小説は旅情を背景としたものも多い。しかし紀行文集だから、この本は幻想的な小説群ほど面白くはない。「私小説」ふうな作品もつまらなかったが、これもそれに類している。
    とはいえ、お化けや波瀾万丈の起伏が無かったりするぶん、この作家がいかに<文章>という魔法に心血をそそいでいたかが明確になる。
    鏡花初期の小説はそうでもないが、尾崎紅葉の弟子となり徹底的に文章を鍛えられ、さらに自身の江戸趣味を爆発させた結果、現代文とはいいがたい独特な読みにくさの文体が獲得された。おかげで、現在の読者にはひどくとっつきにくい作家となってしまった。
    これらの紀行文でもしきりに東海道五十三次への言及が見られ、彼はとても好んでいたようだが、鏡花の文体はそういえば、江戸時代の読み物や、歌舞伎の台詞回しに似たような側面がある。
    このアクロバチックな文体は、言葉だけで、華麗な美を描いてみせる。似たような趣向の作家としてはナボコフが思い浮かぶが、文体の精緻さは鏡花には及ばない。
    泉鏡花という作家の<文章>には、西洋由来の概念である「芸術」よりも、「芸」という言葉の方がぴったりだ。その無心な「芸」が極められたところに、「春昼」のような絶美の「芸術作品」が結実したのだ。
    鏡花が操作しているのはどこまでも「言葉」であって、しかもシニフィエとしてのそれよりも、次々と繰り出されるシニフィアンの舞踊であるかのように見える。
    たとえば、鏡花は人物の個性とか人格に興味を寄せない。小説であっても、登場人物はその「内面」を披露することはなく、ただ、視覚的イマージュとして、視覚的な美の契機として、文章にあらわれ、通過してゆく。その意味でも、泉鏡花は非-西洋的である。
    これらの紀行文でも、柳田国男や芥川龍之介、谷崎潤一郎といった文士が時折登場するのだが、鏡花は決して彼らの人物を浮かび上がらせようとはしない。まるで記号であるかのように、これらの著名人は通過していくだけだ。

    これらの紀行文は私小説的な文学と言えるだろうが、興味深いのは、作家自身の微妙な心の揺れである。泉鏡花は迷信深く、すこぶる小心であったことは有名だ。彼の恐怖の対象は、この本の中では特に「自然災害」に対して向けられているのが印象的だった。
    少年時代に出会った「洪水」のモチーフは、初期の小説数編に見事にあらわれ、カタストロフの感覚として、破綻する夢の記憶として、生理的な畏怖の感覚をもってえがかれていた。
    この本の紀行文の幾つかでは「地震」への畏怖が登場する。関東大震災の経験への、「忌み」を伴った、腫れ物に触るかのような扱いも特徴的だし、さすが日本列島は地震だらけで、鏡花は行く先々で地震に出会って、怯えている。
    西洋ロマン主義や表現主義とは異なって、鏡花の「恐れ」の感覚は決して叫びにはならず、彼の怪異小説も全然「ホラー」とは違う。
    作家の感情は、自然な日常の時間に紛れながら、かすかな皮膚感覚のように、文章の「芸」の中に埋め込まれているだけだ。その意味では、以外にも「私小説」派の文学にも近いかもしれない。
    このような鏡花文学は、翻訳不可能で、やはり日本的なものだろう。

  • 915.6 イズミ タナカ

  • 岩波文庫 080/I
    資料ID 2013200597

  • 泉鏡花の紀行文集。
    解説によると、意外なことに、鏡花の紀行文が1冊に纏まったのは初めてのことらしい。まずはそれを喜びたい。
    私は西日本の出身なので、矢張り西日本のものを面白く読んだが、随筆とも小説ともつかない後半も同じように面白かった。
    泉鏡花は果たして何処に旅したのだろうか。この世ならぬ場所に向かったのではないだろうか。
    そんなことを思いながら旅先で読了。

  • 鏡花と巡れば、身も引き締まるような気がします。。。

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    「「……ああ,美しさに気味が悪い」(「十和田湖」)。湯の町修善寺・飯坂温泉、猪苗代に京大阪、暮らした逗子になじみの深川。食べもの乗りもの、唄に鳥。旅は道づれ弥次喜多道中、明治大正昭和をかけて、鏡花と旅する十六篇。小説では見えない鏡花の姿に出会える、新編集の紀行文集。現代の読者のために詳細な注を付す。」

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