倫敦塔・幻影の盾 他5篇 他五篇 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (1990年4月16日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784003190012

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

中世の騎士物語や幻想的なテーマが織り交ぜられた短編作品集は、独特な文語体で描かれ、読者を魅了します。特に「薤露行」や「幻影の盾」では、アーサー王物語を基にした日本初の創作が展開され、登場人物たちの運命...

感想・レビュー・書評

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  • 七篇の短篇を収録していますが、擬古文の作品が二点含まれるなど、漱石が小説の書き方を模索しているかのような感じを受けました。収録作は『倫敦塔(ロンドンとう)』『カーライル博物館』『幻影(まぼろし)の盾』『琴のそら音』『一夜』『薤路行(かいろこう)』『趣味の遺伝』の7篇。

    擬古文で書かれた『幻影の盾』『薤路行』は、美しい文章に酔つつも、それだけに所々が不明瞭な箇所が散見されて、頭が付いて行けなかった。それにアーサー王伝説が絡むと、某アニメの影響で女性剣士のセイバーが脳裏に浮かんでいけない。いつか再読したいと思っております。

    『一夜』は、何が言いたいのかよくわからなかったです。好きな四作品の感想を以下に。

    『倫敦塔』あらすじ:
    二年の英国留学中の着後間もないころ、倫敦塔を訪れたときの話し。そこは幾千もの罪人が護送され、牢獄や処刑場として使われた、まさに英国の負の歴史を詰め込んだ城塞でした。その建物を見て回り、古の人々に思いを馳せるうち、やがて空想が幻影として目の前に現れたかのようになり……。

    感想:
    時折ユニークな語り口を交えながら、ちょっと不気味で幻想的な文章に引き込まれました。ラストのカラッとしたオチも好きです。小説といいますか、紀行文の形態を取った短篇ですが、とても気に入りました。

    ところで、チャールズ・ディケンズ 『二都物語』の感想で、中野京子氏の話しを出しましたが、怖い絵の代表格ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》の絵画の話しが出てきてビックリ。本を読んでるといろいろ引き寄せるものがありますね。


    『カーライル博物館』あらすじ:
    ある朝、公園で散歩する度に夢想していた、歴史家のカーライルの庵りに足を運んだ。展示してある故人の遺物について、案内役の婆さんが何年何月何日と澱みなく朗読的な口上を述べたてますが、次第に話しを聞き流しつつ、故人の過去に思いを馳せ始めます……。

    感想:
    故人である歴史家のトマス・カーライルの居宅を訪ねる紀行文。案内役の婆さんの様子はもちろん、故人が奥さんに頭が上がらなかった話しが面白い。また、日常の音すら呪わしく感じるほど神経質な性格が、彼が著作に耽る妨げになっていた描写も面白かったです。


    『琴のそら音』あらすじ:
    久しぶりに友人の津田を下宿に訪ねて、自らは下宿を出て家を借りつつも、手伝いの婆さんの迷信深さに困惑する様を吐露する。なんでも、婆さんが相談に訪れる寺の坊主が言うには、引っ越さなければ婚約者に不幸があるとのこと。ちょうど彼女がインフルエンザにかかっており、それを津田に話すと、津田はインフルエンザが肺炎に変じて亡くなった、ある親戚にまつわる不思議な霊体験を語りだした……。

    感想:
    津田くんの下宿からの帰り道は、怖い話しを聞いた後のこともあり、何もかも怖く感じるところが共感できました。また、主人公が、生まれて初めて死について真剣に向き合って考えたことが語られているところは、漱石自身にもいえるのではと興味深かった。

    なお、作中で津田くんが持っていた本は、漱石の『思い出す事など』や『文学論』に出てくる、アンドルー・ラング『夢と幽霊の書』です。その本の解説によると、津田くんの言う「ロード・ブローアムの見た幽霊」とは”第五章 生霊”にある「ブルーアム卿の物語」のことのようです。読んでみると、確かに津田くんの話す幽霊譚と同様の内容。これを原書で読んで、作品に落とし込んだ漱石の語学力には驚かされました。


    『趣味の遺伝』あらすじ:
    日露戦争の空想に耽っていると、いつしか新橋にいた。駅には凱旋する兵士たちと歓迎する群れなす人々。しかし、そこに戦死した浩さんの姿は無かった。弔いに駒込の寂光院に足を向けると、詣るべき墓に若い女を見る。暫くして誰だか気になるも、手掛かりは浩さんの日記にある「郵便局で逢った女の夢」という記述のみ。そこで、日頃興味がある遺伝の知識で推論すれば、浩さんとその女の関係がわかるのではと行動に移します……。

    感想:
    内容はタイトルが表す通り、お互い惹かれあう恋仲が、子どもや孫にも受け継がれる不思議を物語るものです。しかし、そこに至るまでの戦争批判とも取れる箇所が多々あったのが興味深い。例えば、凱旋する将軍に万歳しかけてやめた場面なんかは、浩さん含めて多くの帰らぬ人たちへの代弁のようで、当時の風潮を考えると驚きですね。発表に際して、勝ち戦で沸く世論や戦場が内地でなかったことが功を奏したのかもしれない。他にも結婚して半年足らずで後家になる例え話しは、勝ち負けや損害の大小に注意が向きがちな戦争に、漱石の意外な視点の投げかけにハッとさせられました。

  • 赤毛のアンの作中劇の原作(アーサー王伝説をもとにしたテニスンの詩「ランスロットとエレーン」)を美しい日本語で読みたくて手にとった。

    テニスンの「ランスロットとエレーン」は長編詩だが、漱石の「薤露行」は小説であり、きれいな文語調で綴られている。中世の騎士物語なので文語体がよくあっていた。さすが漱石といったところだった。
    他の短編も、明治の東京の人の生活が垣間見え、とても面白かった。描写も巧みでユーモアに富んでおり、肖像がお札に印刷されるだけのことはあると思った。

    アーサー王伝説は日本でも大人気で、ゲームやアニメなど、あらゆるファンタジーものの礎になっている。一方、海外で知られた日本の伝説が何かあるかと考ても、全く思いつかない。ジブリが竹取物語を映画化していたが、マニア向けの域を出ない。
    アーサー王にあって桃太郎にないものは何か。アーサー王に普遍的な魅力があるのか、単に西洋に対する憧れが人気のもとなのか。当然のように世界中の人がおらが村の伝説を知っており、謎の改変が繰り返されて、新しい伝説すら確立しつつあるのはどんな気分なのか。などと色々と考えてしまった。

  • 「倫敦塔」のみ。全体的に暗い感じだけど、形容の仕方にユニークがある。時々白昼夢のように昔の光景が目の前で展開されるのが少しホラーなようで、霧のロンドンに相応しいなあと。宿の人の話に急に現実に戻された感があるものの、本当は。。。が拭い切れない。

  • 漱石のロンドン留学時代。

    これがあの『吾輩は猫である』と同じ人が同じ年に書いた作品とは到底思えない。ユーモアなし、風刺なし。幻想的な小品群である。評伝によればこの頃の漱石は神経衰弱に悩まされていたとのことなので、そういった精神状態も作風に影響を与えたのかもしれない。

    いつかこの本を手にロンドン塔に行ってみたいものだ。ジェーン・グレーは現れるだろうか。

  • 『倫敦塔』『カーライル博物館』か 読みにくくて続けて読むのが辛かった。『幻影の盾』もベースになっているアーサー王の伝説を知らないとついていけないくらい読みにくい。『琴のそら音』『趣味の遺伝』は読みやすくて良かった。特にパンチのある話がない短編集だったかな~。


  • 漱石の初期短編。元々は『漾虚集(ようきょしゅう)』という名でまとめられたそうだ。このうちの「薤露行」(かいろこう)、「カーライル博物館」、「幻影の盾」の三作品が大学の哲学科目の参考テキストとなっていたため、慌て読み。
    「薤露行」・「幻影の盾」は、アーサー王物語を題材にした創作としては日本初の作品である。円卓の騎士ランスロットをめぐる3人の女性の運命を描いたのが「薤露行」、持つ者の願いを叶えるという不思議な盾を携えた騎士が、戦で助け出すことの出来なかった恋人の死に絶望し、盾にすがって幻の世界に消えていくのが「幻影の盾」。
    また「カーライル博物館」は留学中の漱石が、歴史家トーマス・カーライルの博物館となっている彼の旧邸を訪れ、カーライルの執筆活動の苦闘に思いを馳せる話。
    漱石の作品では、「夢十夜」が一番好きなので、幻想的なこれら短編を知ることが出来たのはラッキーだった。
    ただ文語体なので、読みにくい!なぞっただけで、しっかり読んだとは言いにくいが、漱石文学がこれほど評価され、現代の私たちに指示される理由は、人間観察に紐づく“人生哲学”がどの作品にも碇のごとく打ち据えられているからだというのがわかった(気がする)。漱石が極度の神経衰弱に悩まされていたことも、このような世界を生み出せる要因なのかだろうか?とすると、物書きなんかに生まれつくのは幸せなことではないなぁとも思ったり。
    今回、購入したのは実はkindleの「夏目漱石全集」で、随筆や講演録も収められている。これが期間限定セールで220円だったので即ポチ。余ってたポイントを使ったので、たったの21円!!
    現代社会とは、かくも手軽で怖ろしきかな。死ぬまでには読み終えたいものである。

  • 漱石の短編集。海外を舞台にしたものなど、長編とは趣が違い新鮮。

  • 著者:夏目漱石(1867-1916、新宿区、小説家)

  • 文体も主題もそれぞれ違う短編集の中でも、一際鮮やかかつ濃い存在感を放つのはやはり表題作?の一つである倫敦塔。過去の風景がまるで今現在見聞きしているかのように描かれる様は、その内容の凄惨さと相まってより艶やかに、湿り気のある感を読者に抱かせる。決して読みやすくはなかったけれど、過去の空想を現在形の文章で表す手法は面白かった。幻影の盾、一夜、薤露行は文体が読み慣れないせいかそもそも意味がよく分からなかったし、カーライル博物館、琴のそら音、趣味の遺伝は、漱石の小説としては少し物足りない感じが、、、でも現代の小説でもそんなの腐るほどあるよなあ。この全体的に薄暗い短編集を、吾輩は猫である、坊ちゃんと同時期に書いていたというのが面白いところ。色んな表現の仕方や文体を漱石なりに試していたんだろうと伺わせる、その探究心、向上心に拍手!

  • 僕はこれまで、漱石の本は『坊っちゃん』と『吾輩は猫である』しか読んだことがなかった。どちらも名作の誉れが高く、広く長く親しまれてきた本だ。それだけの人気を獲得するだけあって、とてもおもしろく、漱石のファンになりつつあった僕は、三冊目として、以前から所有するだけはしていた『倫敦塔・幻影の盾』を手に取った。
    ところが、読みやすかった前の二冊に比べ、表題の「倫敦塔」と「幻影の盾」は、はっきり言って取っつきにくい文章である。文体が難しい、ということもないわけではないが、僕は割と平気だ。じゃあ何が難しいかと言えば、漱石が描いたファンタジックなイメージを文章から再構築するのが難しいのだ。自分でも不思議だが、『指輪物語』よりも難しかった。
    そんなわけで、なかなか読み進められずに苦労していたのだが、第四篇、「琴のそら音」に至って、この本の評価が大逆転した。自分の無知を省みずに敢えて言うならば、この一篇には漱石のエッセンスが凝縮されている。‥たぶん。
    例えば、冒頭の「津田君」と「余」の会話には、あたかも迷亭と苦沙弥のやり取りを思い出させるものがある。もちろん、「余」はまだ独身であるから、苦沙弥よりは若いようだし、「津田君」も迷亭ほど極端ではない。「琴のそら音」の二人は、『吾輩は~』の人物たちほど浮世離れしてはいないが、「学生気分を残したままの中年男性のつきあい」という共通点があるようだ。
    それから、帰宅した「余」と「婆さん」の会話もおもしろい。僕はまた、『坊っちゃん』の坊っちゃんと清との関係を思い出した。もっとも、『坊っちゃん』を原作にしたドラマ「坊っちゃんちゃん」における郷ひろみと樹木希林の印象もだいぶ強いんだけども。
    こんなことを書くと、マニア方は「その登場人物にはちゃんとモデルがいて云々」と歯がゆく思うかも知れない。でもそんなこととは無関係に、僕はこういう愉快なやり取りのパターンを擁する作者に魅力を感じる。

    追記:『こころ』を読んだことをすっかり忘れていた。

  • 2016/12/18

  • 夏目漱石 X イギリス = ミステリー!?!?
    夏目漱石がイギリス留学中の経験をもとに書いた短編創作小説集。
    あの名作「坊っちゃん」と同時期の作品なのに、全く異質な幻想的雰囲気を持つ。夏目漱石の意外な一面です!!!(医学部2年)

  • 表題作はさておき「琴のそら音」「趣味の遺伝」が面白かった。

  •  図書館で借りたら昭和5年に刊行したものだった。旧漢字が多すぎてなかなか読み進められない。
    電車で本を読んでいるのに立って寝てた。。。
    「幻影の盾」「薤露行」はなんだか不思議な気持ちで読む。
    こういうのも書いているんだなあ。本当にイギリスに留学していて、西洋文学にも造詣が深いんだ。
    面倒くさい気もするけど、ロマンチックな物語。
    「趣味の遺伝」もよかった。
    「外の人なら兎に角浩さんだから、その位の事は必ずあるに極つて居る。」
    どんだけ?浩一さん!
    そんな浩一さんを失った悔しさをたんたんと綴る。
    戦争って虚しい。
    ブツブツしてるところは「吾輩は猫」を思わせる。できすぎな気もするけど最後が素敵。

  • アーサー王伝説。

  • 一夜を研究中?

  • 好:「薤露行」「趣味の遺伝」

  • 8月25日購入。倫敦塔・カーライル博物館・幻影の盾・琴のそら音・一夜・薤露行(かいろこう)・趣味の遺伝の7篇。同時代の『猫』と全く異質なこれらの作品の世界はユーモアや諷刺の裏側にひそむ漱石の「低音部」であり、やがてそれは彼の全作品に拡大されていく。…BYエトジュン!それにしてもイギリス留学中のそーせきセンセは、病んでた・・倫敦塔なんか殆ど妄想で語ってる、幻影の盾も妄想。一夜にいたっては禅問答だものな

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著者プロフィール

1867(慶応3)年、江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)にて誕生。帝国大学英文科卒。松山中学、五高等で英語を教え、英国に留学。帰国後、一高、東大で教鞭をとる。1905(明治38)年、『吾輩は猫である』を発表。翌年、『坊っちゃん』『草枕』など次々と話題作を発表。1907年、新聞社に入社して創作に専念。『三四郎』『それから』『行人』『こころ』等、日本文学史に輝く数々の傑作を著した。最後の大作『明暗』執筆中に胃潰瘍が悪化し永眠。享年50。

「2021年 『夏目漱石大活字本シリーズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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