阿Q正伝・狂人日記 他十二篇: 吶喊 (岩波文庫)

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感想 : 114
  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003202524

作品紹介・あらすじ

魯迅が中国社会の救い難い病根と感じたもの、それは儒教を媒介とする封建社会であった。狂人の異常心理を通してその力を描く「狂人日記」。阿Qはその病根を作りまたその中で殺される人間である。こうしたやりきれない暗さの自覚から中国の新しい歩みは始まった。

感想・レビュー・書評

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  •  標題の「阿Q正伝」は、阿Qと呼ばれる名前もはっきり分からない、行状もはっきり分からない、当時(1920年頃)の中国の最底辺で暮らす、家も無い、家族も無い、日雇労働者で稼いだ金は全て飲み代に使ってしまうような男が主人公。
     皆から馬鹿にされ、しょっちゅう殴られているのだが、変なプライドがあり、例えば殴られた時でも「息子に殴られたようなものだ」とか「我こそ自分を軽蔑出来る第一任者なり」などと考え、自分を納得させて、殴った相手よりも意気揚々とその場を立ち去る。
     しかし、自分よりも見すぼらしい者や女性のことは軽蔑している。
     ある時、その町に革命軍がやってきた。その革命軍が町の有力者を怯ませたと聞いて、「革命軍に入るのも悪くないな」と考えるのだが、革命軍側についたのは、町の有力者で、阿Qは革命軍に入れて貰えるどころか、とっととその場を去れと言われる。
     結局、無実の罪で、拘束され、それでも見せしめの処刑になる寸前までそのことに気づかず、悲しい最後を遂げる。
     これは中国の当時の社会の闇なのか、その当時の世界の流れなのか、それとも負の連鎖で、今のこの日本でもこのようにいつまでも報われない底辺の人がいることに私が気付いていないのか……と哀しくやるせなくなる中篇だった。
     他の作品は短編が多く、社会の底辺の悲哀を描いたものが多かった。魯迅は、自序に書いている通り、子供の頃は父親の病気のために、質屋とくすりやに通い詰める、貧しい暮しではあったらしいが、それでも少しは人を雇うような家で、当時の西洋学を学ぶ学校に行き、日本にも留学している。「故郷」という作品では、子供のころ仲良くした使用人の息子と二十年ぶりくらいに出会い、「旦那様」と呼ばれ、彼の暮らしが大変で有ることに距離感を感じてしまう寂しさが書かれていた。
    貧しさの経験があり、底辺の人を描きながら、ある程度偉く有名になってしまった自分に矛盾を感じていたのかもしれない。

  • 阿Q正伝
    阿Qの最期が悲しすぎる。


    狂人日記
    自分の周りにいる者がみな人食だと信じ込んでいる男の日記。本当に狂気的だった。当時の中国の社会制度を暴露しているらしい。正直そういう背景は分からなかったけど、頭のおかしい人の日記自体は読んでて面白かった。

  • 今から100年ほど前、中国がまだ中華民国だった頃に書かれた短編小説。それまで口語体の小説を書く人はおらず、魯迅が初めて口語体で小説を書くことに成功し、中国文学の近代化を推し進めた。
    魯迅は、「人間というのはたとえ体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜい見せしめの材料とその見物人になるだけだ。病気したり、死ぬことは不幸とまでいえない。むしろ、精神の改善の方が先である。精神の改善の一番は文芸活動である」と考えた。
    ユーモアを混じえつつ、当時の中国人の思考や生活態度、古い慣習やしきたりを巧妙に批判する作品は、現代人の心にも響く。

    ①魯迅の小説は当時の中国が当時抱えていた問題を取り上げている。狂人日記は「食人」がテーマなのだが、儒教には、子は親のためにその肉を差し出すことをよしとしている。儒教の教えは、封建社会においては人を支配するための道具となっている。そのような考え方は、中国が近代化を進めるにあたって妨げになっている。
    “「人食いはいけない」という人間として当然の訴えの中に、中国の儒教思想を中心にした古い考え方や古い制度が、いかに人間が人間らしく生きようとするのを妨げているかという批判が込められているということです。
    しかも、それは遠い昔のことなどではなく、中国が近代化を急がなければいけない今このときに、人々の意識の中にこびりつくようにその考え方が染みついていて、それがなかなか時代を前に進ませない、大きな要因になっているということでもありました。まさに、それこそが、魯迅がこの小説に込めた主張です。”
    また、阿Q正伝では、阿Qという貧しい男が日雇いの仕事で食いつなぐが、銭が懐に入ってもすぐに酒屋で使ってしまう。家はなく、土地神を祭る廟に寝泊まりしている。根っからのポジティブで、たとえば偉い人に殴られても、「最近は息子が父を殴るということもあるのだし」と、偉い人の父になった気持ちになる。「これは人間様が畜生を殴るんだ」と言われてけんかに負けると「おいらは虫けらさ」といって自分を自分で軽蔑することのできる第一人者だと思い、第一人者はすべてすごいと思う。無実の罪で牢屋に引っ張っていかれても、長い人生そういうこともあるだろうと納得する。理不尽とも言えるようなことに関して、それを何かのせいにしてひたすら優越感にひたる「精神勝利法」をもっている。
    “阿Qはこれを武器に連戦連勝を続けるわけですが、よくよく考えてみれば、阿Qほどではないにしても「自分のことは棚に上げて」というのは、ほとんどの人が、少なからず思い当たる節があることです。確かに、阿Qは欠点だらけのダメな人間です。しかし魯迅は、いまの中国人はみんなこと阿Qのようなものではないかと主張しても、それゆえ救われないなどと書いているわけではありません。
    なぜなら、無知で旧時代のしきたりや考え方を無批判に受け入れ、なにがあっても反省せず、つねに誰かのせいにして目先の利益ばかり追求する、こういう阿Qのような中国人と思考や生活態度がいまの半分植民地みたいな中国をつくり上げたという確信が、魯迅にはあるからでした。
    やがて阿Qは、阿Qこそが革命をはばむ敵であり、ゆえに私たちは、阿Qを打倒し乗り越えなければならないと、中国の多くの人に共通して認識されるようになりました。 ”

    ②狂人日記は「食人」がテーマ。儒教には、子は親のためにその肉を差し出すことをよしとしている。儒教の教えは、封建社会においては人を支配するための道具となっている。そのような考え方は、中国が近代化を進めるにあたって妨げになっている。中国の儒教思想を中心にした古い考え方や古い制度が、いかに人間が人間らしく生きようとするのを妨げているかという批判が込められている。

    阿Q正伝では、阿Qという人物は自分のことを棚に上げて、無知で旧時代のしきたりや考え方を無批判に受け入れ、なにがあっても反省せず、つねに誰かのせいにして目先の利益ばかり追求する。こういう阿Qのような中国人と思考や生活態度がいまの半分植民地みたいな中国をつくり上げたという確信が魯迅にはあった。
    果たして100年たった今、私たちはまだ古い慣習やしきたりに囚われて、仕事の効率や生活の向上が妨げられていないだろうか?と考えさせられる作品だった。

  • 「故郷」は確か、高校の現代文の授業で読んだ覚えがある。非常に情景描写の美しい短編で、印象的である。特に好みなのは、「孔乙己」。酒場の描写で、映画「紅いコーリャン」のワンシーンを思い出した。それにしても、孔乙己はお人よし過ぎたのだ。
    中国事情に疎すぎるため、巻末の注をパラパラとみていると、頁がなかなか進まなくて苦労した。背景知識もある程度ないと、本当の意味では楽しめないのかもしれない。

  • 多分大多数の人と同じく、教科書で「故郷」を読んだだけで大人になってしまったのだが、名作をきちんと読みたいと思うようになり、読んでみた。やっぱり魯迅は竹内好、と昔買ってほったらかしていた岩波文庫を読む。
    原題は『吶喊』。はじめの「自序」で、魯迅が文学を志し、この短編集を書くに至った理由が綴られている。父が闘病中、名医と言われていた漢方医にかかり、高価な薬(三年霜にあたった砂糖きび、つがいのコーロギなど、)を処方された挙句死んでしまい、「漢方医というものは意識するとしないとにかかわらず一種の騙りに過ぎない」と西洋医学を学ぼうとするが、仙台の医学専門学校に留学した時、ロシアのスパイの容疑で斬首される中国人と、その様子を見る野次馬の中国人のスライドを見せられ、「医学などは肝要ではない、と考えるようになった。愚弱な国民は、たとい体格がよく、どんなに頑強であっても、せいぜいくだらぬ見せしめの材料と、その見物人になるだけだ。病気したり死んだりする人間がたとい多かろうと、そんなことは不幸とまではいえぬのだ。むしろわれわれの最初に果すべき任務は、かれらの精神を改造することだ。」と考えるに至る。
     その思いが一番よく表れているのが「阿Q正伝」である。この本の中で一番長い。最底辺に生きながら、自分の中で理屈をつけてプライド高く生きる愚かな男阿Q。その死に方は、魯迅の憤りを伝える。お前たちは阿Qと何の違いもないのだぞ、ここまで書けばわかるだろう、という。
    しかし、本当に名作なのは「孔乙己」ではないかと思う。「故郷」もそうだが、ここには憐れみとやさしさがある。ユーモアは阿Qにもあるが。その他「薬」「小さな出来事」「端午の季節」なども良い。これを読むと、魯迅が作家として優れていることがよくわかる。
    名作はやはり読む価値ありと思える一冊だった。

  • 阿Qの最期は自業自得である。一族の抗争など当時の人々の考え方や社会の雰囲気が短い小説の中に凝縮されておりそこが興味深い点であった。

  • 格差社会の最下層として生きる上で、なんでも自分の都合よく考え、自分を騙すくらいでないと、生きるのが辛いのではないかと感じた。
    最後無抵抗のまま死んだのは、自分が周りより劣っていてとてもちっぽけな存在だということに気づいてしまったから、無抵抗のまま死んだのだと感じた。
    当時の中国の情勢がよく伝わる内容であった。

    • カワハギ3Mさん
      日清戦争の頃でしょか?
       自分を騙すくらいでないと、、、
       まず、脳に騙されない様になりたいです。
      日清戦争の頃でしょか?
       自分を騙すくらいでないと、、、
       まず、脳に騙されない様になりたいです。
      2022/04/05
  • 日本の戦時中の作品とは全く違う。穏やかな日常の描写がほとんどない。重く暗い雰囲気が漂う。
    当時の中国の様子を見ていないし、歴史もよく知らないが、狂人日記からは辛亥革命の一面が見え勉強になった。大多数の人の目には大きな革命は阿Qが見たものと同じように見えていて、同じように参加し、死んでいったのかもしれない。

  • 休み時間に読んでて、クライマックスの為途中で辞められず、授業中に号泣して怒った先生に机を叩かれた。

  • ▼東京大学附属図書館の所蔵状況(UTokyo OPAC)https://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003458241

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著者プロフィール

本名、周樹人。1881年、浙江省紹興生まれ。官僚の家柄であったが、21歳のとき日本へ留学したのち、革新思想に目覚め、清朝による異民族支配を一貫して批判。27歳で帰国し、教職の傍ら、鋭い現実認識と強い民衆愛に基づいた文筆活動を展開。1936年、上海で病死。被圧迫民族の生んだ思想・文学の最高峰としてあまねく評価を得ている。著書に、『狂人日記』『阿Q正伝』『故郷』など多数。

「2018年 『阿Q正伝』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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