朝鮮詩集 (岩波文庫)

  • 岩波書店 (1954年11月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (230ページ) / ISBN・EAN: 9784003207215

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

多様な詩の魅力を堪能できる一冊であり、特に韓国の文人ブームの影響を受けている現代の詩情が感じられます。金起林や金億、金素月といった詩人の作品は、清らかな恋心や自己の表現を美しく描き出しており、読者に深...

感想・レビュー・書評

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  •   『野菊』  異 河 潤

    愛ほしや野に咲く菊の
    色や香やいづれ劣らね
    野にひとり咲いては枯るる
    花ゆゑにいよよ香はし。

    野の花のこころさながら
    この國に生へる詩人(うたびと)
    ひとり咲き ひとり朽ちつつ
    僞らぬうたぞうれしき。


    薄紫色の野菊だろうか。清楚で慎ましい佇まいの野の花。それでいて川辺や山地、どんなに痩せた土地であろうとも、まっすぐ茎を伸ばして育つ強い花。
    野にひとり咲いた清廉な詩人は、しっとりとした心を詩に残しひとり朽ちていく。「この國に生へる詩人」への愛しさが込められた美しい詩だ。

    訳詩は単語を直訳する逐語訳では、なんだか情感が色褪せてしまうようで味気ない気がする。
    たとえば『野菊』の最初の一節も、逐語訳では「わたしは野に咲いた菊の花を愛します」となり、なんだか趣が感じられない。
    それに比べて金素雲の訳詩は、「原詩の情感を的確に理解したうえでの“再創作”を目指す文学的姿勢」(『金素雲『朝鮮詩集』の世界』より抜粋)が見て取れ、わたしにとっては、まるで原詩の世界が色鮮やかに生まれ変わったかのようになる。

    ただ、この金素雲の「創作的な翻訳」には、原詩に対する越権であるか、否かの問いがつきまとう。このあたりのことは、今読んでいる『金素雲『朝鮮詩集』の世界』でも解説されているので、これからじっくり考えていきたい。
    それでも、金素雲が祖国の近代詩を日本語で訳したことには、並々ならぬ強い意志があったからには違いない。そこには祖国の「詩心」を日本語で伝えるべきだという、金素雲の揺るぎなき「民族の誇り」が込められていたのでは、とわたしは思う。たとえそれが祖国では「親日文学家」として否定的に見られようとも。

      『峠路』  金 億

    ちらちらと
    粉雪の降る宵でした
    峠路を
    越えて あなたのいらしたは。

    ほのぼのと
    夜の明けそめるころでした
    峠路へ
    あなたひとりを かへしたは。

    詮もない
    むかしのゆめと知りながら
    せつなさは
    いまにわすれぬ 雪の宵。


      『わすれねばこそ』  金 素 月

    わすれねばこそ こゝろもくるふ、
    ならば一生(ひとよ)をたゞ生きなされ
    生きりゃ わすれる日もござる。

    わすれねばこそ おもひはつのる、
    ならば月日を たゞ經(ふ)りなされ
    たまにゃ想はぬ日もござる。

    したが はてさて こればつかりは、
    ──しんじつ戀しいこゝろのひとを
      束の間ぢやとて どうわすれよう。

    詩人の想いを汲み取る抒情豊かな金素雲の訳詩だからこそ、『朝鮮詩集』に込められた「朝鮮の詩心」が、こんなにもわたしに美しく響くのだ。

      『蝶と海』  金 起 林

    誰も水深を教へたものがないので
    白い蝶は海の懼れをまだ知らない。

    青い大根畠かと下りて行つては
    いたいけな羽を波頭に浸し
    王女のやうに打萎れてかへる。

    三月の海原に花の匂はぬうらはかなさ、
    蝶の背に蒼白い新月が沁みる。


    『朝鮮詩集』の初版は、昭和15年河出書房から『乳色の雲 朝鮮詩集』として出版された。
    島崎藤村が「序の言葉」、佐藤春夫が「朝鮮の詩人等を内地の詩壇に迎へんとする」という紹介の辭を書き、高村光太郎が扉絵を描いている。
    その後『朝鮮詩集』は、幾度か版を重ね岩波文庫に加えられたものの、紙数の都合から三分の一の詩が削られた。これは大変残念でならない(ちなみに岩波文庫にも島崎藤村の序の言葉と、解説で佐藤春夫の紹介の辭は掲載されている)。
    『乳色の雲 朝鮮詩集』には、わたしの大好きな詩も載っているので、いつの日か手に取って読んでみたい。その時はひとつひとつの詩をお気に入りのノートに筆写するのだ。

      『こゝろ』  金 東 鳴

    わたしのこゝろは湖水です
    どうぞ 漕いでお出でなさい。
    あなたの白い影を抱き
    玉と碎けて
    あなたの舟べりへ 散りもしませう。

    わたしのこゝろは燭火です
    あの扉を閉めてください。 
    あなたの綾衣の裾にふるへて
    こゝろ静かに
    燃えつきてもさしあげませう。

    わたしのこゝろは旅人です 
    あなたは笛をお吹きなさい。
    月の下に耳傾け
    こゝろ愉しく
    わたしの夜を明しませう。

    わたしのこゝろは落葉です
    しばし お庭にとゞめてください。
    やがて風吹けば さすらひ人のやうに
    またもや
    あなたを離れませう。

          『乳色の雲 朝鮮詩集』収録

  • 現在韓国の公演業界には文人ブームが来ており、『SMOKE』、『ファンレター』、『私とナターシャと白いロバ』等文人を題材にしたミュージカルが多く上演されているので、趣味と実益を兼ねて。
    読みながら、しみじみと良い詩がたくさんあるなあと思う。
    個人的には金起林が好きかな。

    序を島崎藤村が書いていたり、李箱の“翻訳者に送られた私信(日本文)”を詩の形に繋ぎ合わせたものが掲載されていたり、レアな見所も。
    というかこんな文章の手紙が届いたら惚れ惚れして帰ってこれなくなりそう。

    白石の詩も掲載されているのだけれど、『私とナターシャと白いロバ』が載っていないのがちょっと惜しい。

  • いい!

  •  島崎藤村を彷彿とさせる、清らかな恋心をとらえた叙情詩(金億、金素月)、ホイットマンを思い起こさせる自己を歌い上げた詩(金石松)、息子が母を慈しむ気持ちに溢れた詩(趙明煕)。
     本書は、昭和15年刊の『詩集・乳色の雲』の再刊だが、詩編の3分の1を削除している。茨木のり子の『ハングルのすすめ』で紹介されている口承詩のような一篇も省かれている。なんとも惜しい。

  • わすれねばこそ

    雪は降る

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