オデュッセイア 上(ホメロス) (岩波文庫 赤 102-4)

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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003210246

感想・レビュー・書評

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  • そのタイトルを訳すると、「オデュッセウスの歌」。ここでは、おおむねトロイヤ戦争の登場人物を引き継ぎ、また、有名な「トロヤの木馬」のくだりが回想録として登場したりしますので、「イリアス」の続編として、ぜひ読まれる順番は、「イリアス」⇒「オデュッセイア」でどうぞ(恥ずかしながら、学生のころ逆に読んで挫折寸前まで落ち込みました……汗)。

    10年におよんだトロイヤ戦争。瀕死の勝利を手中にしたギリシャ軍の英雄オデュッセウスは、愛妻ペネロペイアと息子テレマコスが待つ故国イタケに向けて意気揚々と船出します。
    ところが、奢り高ぶるギリシャ軍の不埒なふるまいに、とうとう神々の怒りを招いてしまいます。思わぬ島に吹き流されるわ、現地人との戦いに巻き込まれるわ、一つ目巨人の島で次々に部下が喰われるわ、魔女キルケの虜になってしまうわ……散々な目に遭うオデュッセウスの10年にわたる冒険活劇でして、そのダイ・ハードぶりには拍手喝采です。

    実は、この物語が面白いのは、オデュッセウスの笑える冒険譚だけではなく、故国で夫を待ちわびる深刻な賢妻ペネロペイアの話がオムニバス形式で描かれているところです。並行していた物語は、クライマックスで華麗に交差します。緻密に練られたプロットや組み立ては、はるか2000年以上も前の作品とは思えない見事なものです。

    ペネロペイアのほうを少しご紹介しますと……。
    故国イタケの領主オデュッセウスがトロイヤに出征して20年。誰もが死んだものと諦める中、ペネロペイアだけは夫の生還を信じています。
    ところが、彼女の美貌とオデュッセウスの財産を虎視眈々と狙う――婚約者と称する100名あまりの――連中は、オデュッセウス宅に入り込んでやりたい放題。我が物顔でのさばり、どん食を尽くし、次々に財産を食いつぶしていきます。軽薄な彼らの蛮行に身も細る思いで貞操を守っていたペネロペイア。そしていつ何時謀殺されるかわからない年若い一人息子のテレマコス。
    切羽詰まったペネロペイアは、自分の織物が完成したら正式に婚約者を決めて再婚すると宣言し、必死で時間を稼ぎます。昼間はせっせと機織りに励み、夜はせっせとその糸をほどく……まことに暗く健気な作業を3年も続けていた彼女でしたが、とうとうその偽計も露呈してしまい、万策尽きてしまいます……。

    この作品は、「イリアス」と同じように、オリュンポスの神々が違和感なく同居しています。トロイヤ戦争のさなかより、とりわけ女神アテネに寵愛されたオデュッセウスでしたが、この仁侠女神、ギリシャ軍の熱血英雄アキレウス(トロイヤ戦争末期に戦死)といい、武勇・奸智に長けたオデュッセウスといい、どうやら知と勇姿に優れた男性がお好きなようです(私もそうですが…笑)。
    この作品では、パラス・アテナのオデュッセウスに向ける熱烈寵愛ぶりがとても可愛らしいです。

    「オデュッセイア」は世界の教養古典として名高く、その後の数多くの作品の下敷きとされ、引用されています(多分、あげればキリがないでしょう)。私は決して古典派でも教養派でもないのですが、この人の作品はとりあえず読んでおかれても損はないものと感じています。
    また、「イリアス」よりも、「オデュッセイア」のほうが主人公に寄り添いやすい洒脱なタッチになっていますので、するすると読めてしまうとても楽しい書物だと感じます。

  • 幼い頃、私は親に、お前はオデュッセウスを知ってるか?ギリシャ神話の英雄で、20年もの間冒険の旅を続け、故国に帰ってきたんだ。人生は冒険だ。冒険をしなさい、みたいなことを言われたことがある。当時はよく意味がわからなかったが、「オデュッセウス」という名前だけが脳裏に残っていて、ずっと気になっていた。

    そんな『オデュッセイア』を、このたびようやく読むことができた。
    なにせ、古代ギリシャ時代の作品だし、上下巻あるし、なかなか読みにくい本なのだろうなと思って読み始めたのだが、あっさりと予想を裏切られた。訳が新しいこともあってか、とても読みやすく、ぐいぐいと引き込まれた。

    冒頭は、オデュッセウスの息子テレマコスの話が中心で、彼がお父ちゃんを探しにゆく姿が描かれるが、途中から場面が切り替わって、オデュッセウスが登場して冒険譚を語ったり(これがまた、よく喋るのだ)、また夫を待つペネロペイアと彼女に詰め寄る求婚者たちの姿が描かれたりしながら、3地点の物語が同時並行で進んでゆく。まるでトランジションで切り替わる動画を見ているようで面白い。そして、下巻にいたって、その3点がオデュッセウス邸という一点に集約されてくる描き方は、古代ギリシャ時代の作品において、よくできたものだと感嘆した。

    パラス・アテネの献身的な応援を受けつつも、ゼウスやポセイダオン、カリュプソ、キルケなど神々の、嫉妬や怒りや愛情に翻弄されながら続ける冒険部分は痛快だ。中でもキュクロプスやスキュレなど異形の怪物たちが行く手を阻む描写は、ゲームのようで時代を経てなお古びていない。

    こんな面白い作品だけれど、とかく登場人物が多く、途中で誰が誰だかわからなくなったので、神々たちと人間たちとそれぞれ、家系図みたいな関係図を書きながら読んだ。そうしたら、恐ろしく近親相姦な図がかけてしまって、知っていたとはいえ、我ながら驚いた。

    ところで、これは全編を通してのことではあるが、名詞に特定の修辞的な言葉が付く形が多用されているのは面白いと思った。例えば、パラス・アテネには「眼光輝く女神アテネ」、オデュッセウスには「知略縦横たるオデュッセウス」、言葉という単語には「翼ある言葉」や「言葉の翼をもがれてしまう」などなどである。夜が明けて朝日が昇る様は「朝のまだきに生れ指ばら色の曙の女神が姿を現す」と書かれている。おそらく琵琶法師よろしく、物語を耳で聴く際には、こうした手法が表現をよりダイナミックにし、迫力あるものにしたのだろう。一度耳で聴いてもみたいものである。

  • 中学3年生の頃、一人で上野に四大文明展を見に行って、帰りに上野公園で同じ展覧会を見に来ていた知らないおじさんに「歴史が好きなの?」と声をかけられた。展覧会の感想を話しているうちになぜか上野公園を案内してもらうことになり、お化け灯篭とか、神社の柱から抜け出す龍の話とか、上野東照宮の話とか、聞きながら二人で散歩した。最後に文化会館でお茶を飲んでさよならしたのだが、その時、コーヒーを飲みながらおじさんが「今この本読んでるんだ」と見せてくれたのが『オデュッセイア』だった。あれから15年経ち、私はようやくこの本を読んだ。
    思い返せば小学校の頃からギリシャ神話好きだった私はホメロスもシュリーマンも当時すでに知っていたのだから、もっと早くに読んでいてもよかったはずなのに、今頃になって読んでいるのがなんだか不思議な気がする。あのおじさんが生きていたら(もうお爺さんに違いない)、「私も読んだよ」と報告したい。
    内容の感想は下巻に。

  • 「ホメロス オデュッセイア(上)」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1994.09.16
    394p ¥670 C0198 (2022.10.27読了)(2016.09.16購入)(1996.05.07/4刷)

    【目次】
    凡  例
    第 一 歌 神々の会議。女神アテネ、テレマコスを激励する(四四四行)
    第 二 歌 イタケ人の集会、テレマコスの旅立ち(四三四行)
    第 三 歌 ピュロスにて(四九七行)
    第 四 歌 ラケダイモンにて(八四七行)
    第 五 歌 カリュプソの洞窟。オデュッセウスの筏作り(四九三行)
    第 六 歌 オデュッセウス、パイエケス人の国に着く(三三一行)
    第 七 歌 オデュッセウス、アルキノオスに対面す(三四七行)
    第 八 歌 オデュッセウスとパイエケス人との交歓(五八六行)
    第 九 歌 アルキノオス邸でオデュッセウスの語る漂流談、キュクロプス物語(五六六行)
    第 十 歌 風神アイオロス、ライストリュゴネス族、およびキルケの物語(五七四行)
    第十一歌 冥府行(六四〇行)
    第十二歌 セイレンの誘惑。スキュレとカリュブディス、陽の神の牛(四五三行)
    訳  注
    解  説

    ☆関連図書(既読)
    「イリアス〈上〉」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1992.09.16
    「イリアス〈下〉」ホメロス著・松平千秋訳、岩波文庫、1992.09.16
    「ホメロス物語」森進一著、岩波ジュニア新書、1984.08.20
    「ギリシャ神話」山室靜著、現代教養文庫、1963.07.30
    「古代への情熱」シュリーマン著・村田数之亮訳、岩波文庫、1954.11.25
    「オイディプス王」ソポクレス著・藤沢令夫訳、岩波文庫、1967.09.16
    「コロノスのオイディプス」ソポクレス著・高津春繁訳、岩波文庫、1973.04.16
    「アンティゴネー」ソポクレース著・呉茂一訳、岩波文庫、1961.09.05
    「ソポクレス『オイディプス王』」島田雅彦著、NHK出版、2015.06.01
    「アガメムノン」アイスキュロス著・呉茂一訳、岩波文庫、1951.07.05
    「テーバイ攻めの七将」アイスキュロス著・高津春繁訳、岩波文庫、1973.06.18
    「縛られたプロメーテウス」アイスキュロス著・呉茂一訳、岩波文庫、1974.09.17
    「ギリシア悲劇入門」中村善也著、岩波新書、1974.01.21
    「古代エーゲ・ギリシアの謎」田名部昭著、光文社文庫、1987.08.20
    「驚異の世界史 古代地中海血ぬられた神話」森本哲郎編著、文春文庫、1988.01.10
    「古代ギリシアの旅」高野義郎著、岩波新書、2002.04.19
    「カラー版 ギリシャを巡る」萩野矢慶記著、中公新書、2004.05.25
    (「BOOK」データベースより)amazon
    トロイア戦争が終結。英雄オデュッセウスは故国イタケへの帰途、嵐に襲われて漂流、さらに10年にわたる冒険が始まる。『イリアス』とともにヨーロッパ文学の源泉と仰がれる、ギリシア最古の大英雄叙事詩の、新たな訳者による新版。(全二冊)

  • イリアス読んでからだと驚くほどファンタジックです。オデュッセウスの冒険譚。息子テレマコス君の父を探して三千里と二本立てで代わる代わる物語られるのも面白いです。
    主人公が苦労しつつも最強なのでまあ痛快に読める。というかお前はラノベの主人公かよって女神や姫に愛され方してるのが笑
    有名なキャプクロスのお話ようやく読めて嬉しかった。

  • 「イリアス」とともにニ大叙事詩と仰がれるギリシア最古の英雄物語。トロイア戦争終結後のオデュッセウスの冒険。

    「アキレウスの怒り」がテーマの戦記ものであった前作から一転、オデュッセウスを中心とした冒険ファンタジーとなっている。父の消息を求めてテレマコスが旅立つ冒頭からワクワクがとまらない。神々が介入してくるのはイリアスとも共通するが、本作ではさらに王宮や冥府、魔女や巨人、漂流や裏切りなど、波瀾万丈の要素が盛りだくさん。紋切り型といわれればまさにその通りで、それは長い時を通してこの偉大な古典が愛されてきたことの証明でもある。無双すぎてモテすぎるオデュッセウス、やってることは今のラノベも変わらんではないか?(笑)。

    上巻はこれまでの経緯がすべて語られ、さぁこれからどうなる!?というところで終わる。ここで訳者の解説が入るが、《上巻巻末の解説で下巻のネタバレをする》のはやめてほしい。有名なタイトルとはいえこれから触れる人もいるのだから……。これから読む初見の人は注意してほしいと思う。

  • あらかじめ言うと話が特段面白いわけではない。
    ただ「ドラえもん」みたいに誰もが知ってる(とされる)名作だから色々な作品の色々な場面でオデュッセイアのワンシーンなんかが引用されている。
    ふと昼下がりにテレビで名前も知らない映画を眺めていたらオデュッセイアとキュクロプスの戦闘シーンが出てきて、「あ!これオデュッセイアで読んだ!知ってる知ってる!」と声が出た。
    知識が別のものと結びついた瞬間って気持ち良いなと改めて思ったものでした。

    また随所に出てくるギリシャ的な表現がなんだか仰々しくて面白いので要注目です。
    朝が来る=朝のまだきに生まれ指バラ色の曙の女神が姿を表す 等

  • 再読していたが、第4歌で読めなくなって中断。

    数年前、「教養のため」と思って読んだときは、意外にも楽しい冒険物語として読めたのだが、今回はなんかだめだった。

    オデュッセウスをはじめ、主な登場人物たちはみな名のある英雄か、さもなくば神々である。今読みたいのはこれじゃない。英雄譚よりむしろ、名もなき人々の話を読みたい時期らしい。1機のガンダムではなく、たくさんのジムの話を。強さではなく弱さ。

    たまには「読めなかった」という感想を置いておくのも、読書の記録としてはアリな気がするので、こんな感じで。


    1箇所だけ抜粋。

    「私が許せぬと思うのは、むしろそなたら、ほかの領民たちなのだ。誰も彼も口を噤んで、数に勝るそなたらが、寡勢の求婚者らに一言の咎め立てもせず、静止することもできぬとは、何たる醜態であろう。」(p.46)

    (むしろこの領民の話こそ読んでみたいと思う。)

  • 現代でも様々な作品で登場するアテネやゼウス、ポセイドンなどの神話世界の人物や、セイレーン、サイクロップス、スキュラなどの怪物が紀元前の世界ではどのように扱われているかを知れる。

    物語の展開力も凄い。どんどん気になってページが進む。紀元前の時代の作品だと少しなめていた自分が愚かだった。

    上巻では苦難が続く話がメインで、後半での逆転劇に期待してしまう。

  • 2019.3.10
    オデュッセウスは意外と人間くさいおじさんで、英雄的な肉体も知恵?ももってるけど、時折みせる部下に対する冷淡さや、強欲さ、生臭さがなんとも言えない。
    ダイ・ハードの主人公みたいなもんかもしれんなぁ。

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