失楽園 下 (岩波文庫 赤 206-3)

著者 :
制作 : John Milton  平井 正穂 
  • 岩波書店
3.67
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本棚登録 : 566
レビュー : 37
  • Amazon.co.jp ・本 (431ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003220634

作品紹介・あらすじ

サタンの言葉巧みな誘惑に屈したイーヴはついに禁断の木の実を口にする。アダムもまた共に亡びることを決意して木の実を食う。人類の祖をして創造主に叛かしめるというサタンの復讐はこうして成った。だが神のつかわした天使ミカエルは、犯された罪にもかかわらずなお救いの可能性のあることを彼らに説いてきかせる-。

感想・レビュー・書評

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  • 旧約聖書「創世記」中、禁断の木の実を食べたアダムとイヴが楽園を追われるエピソードを元にした、ジョン・ミルトンによる一大叙事詩『失楽園』。
    全12巻からなり、岩波文庫版では1~6巻を「上」、7~12巻を「下」としている。
    「上」では、イヴを誘惑した蛇がそもそも何者であったか、なぜ彼は人間が神に背くよう唆したか、その前段が語られる。
    「下」では、いよいよ人間が罪を犯し、楽園を追われるまでが描かれる。

    この物語詩では、天使と人間、神と人間、人間同士など、会話で語られる部分が多い。
    7~8巻では、天使ラファエルがアダムに、神による天地創造がどのようなものであったかを語っている。おもしろいのは8巻で、当時の、そしてミルトン自身の宇宙観が滲む部分である。上巻でも少し触れたが、ミルトンはガリレオとも面識があった。時代的には天動説から地動説、プトレマイオス的天文学からコペルニクス・ガリレオ的天文学への過渡期であった。そのようなときに、全知全能の神がどのように世界を作ったかを述べることはなかなか野心的ともいってよい試みだったのではないだろうか。ただ、ミルトンは、新しい学説も取り入れつつも、それに固執しているようにも感じられない。新しいものを頑迷に拒否するわけではないが、それに熱中するわけでもない姿勢がほの見える。結局のところ、ミルトン自身の主軸は天文学そのものにはなく、神と人との関わりを詩人として考えることだったのだろう。

    神の偉大さ・世界の壮大さを語る7・8巻から急転直下、9巻は本作のクライマックス、人の裏切りに場面が移る。サタンの目論見が功を奏し、人は許されぬ罪を犯す。それまでの完全な幸福は影を潜め、アダムとイヴの間には不信感が生まれ、互いになじり合い、諍うようになる。そして彼らは、「死すべきもの」となり、楽園を追われることになる。
    己の愚行を後悔しつつも、アダムは歎く。
    おお、創造主よ、土塊から人間に造っていただきたいと、私が
    あなたに頼んだことがあったでしょうか? 暗闇の世界から私を
    導き出していただきたい、この楽しい園に住まわせて
    いただきたいと、懇願したことが果たしてあったでしょうか?

    「塵から出たものが塵に帰る」ことが当然と思いつつ、死がいつ訪れるかわからぬことに彼は苦悶する。いっそのこと、直ちに破滅が訪れればよいとさえ思う。

    ではこれは絶望の物語か。
    いや、少なくともミルトンは人間がただの悪しき者として追われたとは書いていない。
    12巻で、神は、「未来には救いがある」ことを人間に伝えた上で、楽園を去らせるよう、天使に命じる。
    天使はアダムにこれ以後人間に起こるであろうことを幻として見せる。旧約聖書のダイジェストのように、バベルの塔やノアの箱舟のシーンが繰り広げられる。神の教えに背を背け、病に苦しむもの、闘い殺し合うもの、淫蕩に耽るものもいる。自らの子孫が経験するあまりの悲惨さ、あまりの困難に絶望するアダムだが、天使は優しく教え諭す。
    取りなすものである神の御子(=キリスト)を通じて、いずれは救いが訪れる。人間を陥れたサタンにもいつか復讐が果たされる。
    「いつか」を胸に、アダムとイヴは互いに手を取り、楽園を後にする。
    人は罪を犯した。けれども直ちに滅せられはしなかった。
    物語の顛末に完全に納得するかと問われると、信仰を持たないものとしては答えに窮するところがあるのだが、本作の読後感は意外に明るい。
    困難を抱えつつ、なお、生きることには希望がある。
    生きた環境と時代を超えて、不思議に響く明るさの源はどこにあるのか、もう少し考えてみたいと思っている。

  • 2017.8.30 読了

  • 新書文庫

  • 再読。あれだけラファエルから色々忠告されたにも関わらず、ついにイヴはサタンの甘言に乗せられて禁断の実を食べてしまう。蛇はサタンに乗っ取られただけなのに、悪者扱いされてちょっと可哀想・・・。

    楽園を追われる前に人類の未来をアダムに語って聞かせるミカエル。カインとアベル、ノアの方舟、モーゼ、そしてキリストの出現まで・・・そこまで御見通しなら、どっかの時点でなんとかしろよというツッコミは入れてはだめですか。もはや予言の必要性が謎。予言をなぞるだけの現実なら、見届ける時間が無駄。

    あといつものことだけど、神の傲慢さにイラッ。お前いったい何様だよ!(あ、神様か)だから一神教はキライなんだよーと勝手に憤る。

    ところで寡聞にしてフェミニスト団体が聖書にケチをつけたという話は聞いたことないですけど、改めて男尊女卑ひどいなーとも思いました。そもそも父(神)が一人で創った子(イエス)は息子な時点で完全に男性上位、アダムによると天使の性別も男だそうで(これは諸説ありそうですが)イブがサタンに騙されたのは女がアホだから!罰として出産の痛みを味わえって・・・おいおいちょっと待て(怒)

    まあこういう不満点は別問題で、ミルトンに対しての怒りではありません。物語としては文句なしに面白い!それに尽きます。

  • 以前から叙事詩の古典として興味を持っており、また実際に購入もしたが、冒頭を読んで「これは聖書や『神曲』の知識がなければ魅力を味わい尽せないのでは」と考え、そちらを先にすることにして、結局この『失楽園』に取り掛かったのは2014年の暮れとなった。が、2014年に出会った中でも最高の一冊(下巻を合わせれば二冊)となった。
    名作と言われるだけあって読ませる力が凄まじい。あっという間に引き込まれてしまった。また力強く格調高い文体には、凄惨なはずの地獄の情景も豪華絢爛な世界となって顕現するように思われる。
    続編である『復楽園』も読んだが、サタンの「神の愛が失われたことをこの上なく悔み、絶望しながらも屈従を厭い、飽くまで自立を志す」という姿勢が全編を通して貫かれており、その英雄的な姿に惚れ惚れとする。堕ちてなおサタンを慕う大勢の悪魔たちの気持ちもなるほど理解出来る。
    また本作に於ける神だが、旧約のような恐ろしい性格ではなく、人間に対しては救済の道を残してやるような慈愛の強調された描かれ方をしていることも特徴かと思う(その具体的内容は『復楽園』に続く)。サタンが英雄的に描かれているとは言えミルトンの狙いは悪魔讃美ではないだろうし、慈悲を根底に置くキリスト教の考え方を知る上でも参考になる作品だと感じた。

  • カバーから:サタンの言葉巧みな誘惑に屈したイーヴはついに禁断の木の実を口にする。アダムもまた共に滅びることを決意して木の実を食う。人類の祖をして創造主に叛かしめるというサタンの復讐はこうして成った。だが神の使わした天使ミカエルは、犯された罪にもかかわらずなお救いの可能性のあることを彼らに説いてきかせるーー。

  • ★★★★☆

    上巻の感想に「神よりも、悪役であるサタンに感情移入してしまう」と書いた。

    どうしても、圧倒的な力でサタンをねじ伏せる神にはこちらの感情を投影することができず、敗れゆくサタンのあがきの中にこそーー判官びいきと言われればそれまでだがーー人生の何たるかを感じてしまう。

    下巻ではサタンが神への復讐のため、神が自らの姿に似せて創った人間アダムとイブを騙して禁忌を犯させる。

    上巻であれだけ感情移入したので下巻でもサタンの気持ちになって読むことになるかと思いきや、アダムとイブに大いに惹かれることとなった。

    それもサタンに騙され、禁断の木の実を食べてからがイイ。

    楽園を出て行かざるを得なくなったことについてアダムがイブをぐちぐち責めたかと思えば、イブはイブで「あんたこそ、あたしのこと本気で止めなかったじゃない」と言い返す。

    痴話喧嘩である。それも人類最初の。

    こんなの面白くないわけがない。

    こういうギスギスした場面には遭遇したくないけれど、それだけに他人ごとなら面白いに決まってる。

    いやー、やっぱりサタンはいい仕事してくれはりますな。

  • サタンに唆されイブは神から禁じられた実を食べてしまい、その後でアダムも果実を食べてしまう。そこから醜い口論になるところは、いかにも醜くて人間らしい。

    叛逆者サタンが途中からほとんど出てこなくなるので、最後は神や天使のありがたい説法オンパレードになる。内容は男社会的な美徳に偏っている。

  • 最後説教臭いが、おもしろみはある。心の楽園を得る(求めようとする)までの過程が興味深い

  • 2012年11月4日読了
    下巻は有名なアダムとイブの楽園追放のエピソードが書かれます。
    りんごかじってしまった2人に、今後人類がどうなるか天使が語るのですが、こんなつらい目にあわせるのなら、人をつくらなきゃよかったのに、という悲痛な叫びが切なく、キリスト教うんぬん抜きで心にせまってきます。
    りんごをかじった後にアダムとイブがケンカするところは、人類初の夫婦げんか?口論の内容が人間臭く感じました。昔の作品とはいえ、女に責任のすべてを被せるのは勘弁してと思ってしまいますけど…
    口語訳なんで読みやすく、格調高い(と思う)文章をなんとなく楽しむことができる本でした。

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