- Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003220634
作品紹介・あらすじ
サタンの言葉巧みな誘惑に屈したイーヴはついに禁断の木の実を口にする。アダムもまた共に亡びることを決意して木の実を食う。人類の祖をして創造主に叛かしめるというサタンの復讐はこうして成った。だが神のつかわした天使ミカエルは、犯された罪にもかかわらずなお救いの可能性のあることを彼らに説いてきかせる-。
感想・レビュー・書評
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旧約聖書「創世記」中、禁断の木の実を食べたアダムとイヴが楽園を追われるエピソードを元にした、ジョン・ミルトンによる一大叙事詩『失楽園』。
全12巻からなり、岩波文庫版では1~6巻を「上」、7~12巻を「下」としている。
「上」では、イヴを誘惑した蛇がそもそも何者であったか、なぜ彼は人間が神に背くよう唆したか、その前段が語られる。
「下」では、いよいよ人間が罪を犯し、楽園を追われるまでが描かれる。
この物語詩では、天使と人間、神と人間、人間同士など、会話で語られる部分が多い。
7~8巻では、天使ラファエルがアダムに、神による天地創造がどのようなものであったかを語っている。おもしろいのは8巻で、当時の、そしてミルトン自身の宇宙観が滲む部分である。上巻でも少し触れたが、ミルトンはガリレオとも面識があった。時代的には天動説から地動説、プトレマイオス的天文学からコペルニクス・ガリレオ的天文学への過渡期であった。そのようなときに、全知全能の神がどのように世界を作ったかを述べることはなかなか野心的ともいってよい試みだったのではないだろうか。ただ、ミルトンは、新しい学説も取り入れつつも、それに固執しているようにも感じられない。新しいものを頑迷に拒否するわけではないが、それに熱中するわけでもない姿勢がほの見える。結局のところ、ミルトン自身の主軸は天文学そのものにはなく、神と人との関わりを詩人として考えることだったのだろう。
神の偉大さ・世界の壮大さを語る7・8巻から急転直下、9巻は本作のクライマックス、人の裏切りに場面が移る。サタンの目論見が功を奏し、人は許されぬ罪を犯す。それまでの完全な幸福は影を潜め、アダムとイヴの間には不信感が生まれ、互いになじり合い、諍うようになる。そして彼らは、「死すべきもの」となり、楽園を追われることになる。
己の愚行を後悔しつつも、アダムは歎く。
おお、創造主よ、土塊から人間に造っていただきたいと、私が
あなたに頼んだことがあったでしょうか? 暗闇の世界から私を
導き出していただきたい、この楽しい園に住まわせて
いただきたいと、懇願したことが果たしてあったでしょうか?
「塵から出たものが塵に帰る」ことが当然と思いつつ、死がいつ訪れるかわからぬことに彼は苦悶する。いっそのこと、直ちに破滅が訪れればよいとさえ思う。
ではこれは絶望の物語か。
いや、少なくともミルトンは人間がただの悪しき者として追われたとは書いていない。
12巻で、神は、「未来には救いがある」ことを人間に伝えた上で、楽園を去らせるよう、天使に命じる。
天使はアダムにこれ以後人間に起こるであろうことを幻として見せる。旧約聖書のダイジェストのように、バベルの塔やノアの箱舟のシーンが繰り広げられる。神の教えに背を背け、病に苦しむもの、闘い殺し合うもの、淫蕩に耽るものもいる。自らの子孫が経験するあまりの悲惨さ、あまりの困難に絶望するアダムだが、天使は優しく教え諭す。
取りなすものである神の御子(=キリスト)を通じて、いずれは救いが訪れる。人間を陥れたサタンにもいつか復讐が果たされる。
「いつか」を胸に、アダムとイヴは互いに手を取り、楽園を後にする。
人は罪を犯した。けれども直ちに滅せられはしなかった。
物語の顛末に完全に納得するかと問われると、信仰を持たないものとしては答えに窮するところがあるのだが、本作の読後感は意外に明るい。
困難を抱えつつ、なお、生きることには希望がある。
生きた環境と時代を超えて、不思議に響く明るさの源はどこにあるのか、もう少し考えてみたいと思っている。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
蛇に化けたサタンに騙され、禁断の果実を悲嘆にくれる2人にミカエルが救われる方法を提示する。
アダムの子孫たちの未来を示し、イエスの出現によって救われる未来を伝える。
楽園追放されたされても、なお神は2人を愛していたのだということが示されていて、素敵だった。 -
下巻ではサタンがイヴを騙して、知恵の実を食べさせる。イヴが一人で行動したいと駄々をこねて、失敗したらしたでアダムを責めるシーンが、嫌な女すぎて笑ってしまった。現代でもこういう喧嘩しているカップルはいる。昔も今も、あまり変わらない。アダムは喧嘩の後にこう思う。「女というものは、制約されることに我慢できない。そして自由気ままに振る舞い、もしその結果禍が生じると、忽ち、自分を大目に見てくれた男の気の弱さを非難する」。なかなかに言い得て妙だ。イヴが知恵の実を食べて、アダムも一緒に食べて、SEXして寝て起きて自己嫌悪に陥るところは、薬物をやった後みたいで、その後の人類の堕落を予期しているようで、気をつけようと思う。
サタンは人間を堕落させて、意気揚々と地獄へ帰る。皆の前で大演説をかまそうとしていたのに、神の力で、その場にいる全てが蛇に変えられてしまう。サタンは偉いからか、ドラゴンだった。このシーンを持ってサタンは登場しない。以外と呆気なくて残念だ。サタンを目的に見るのはミルトンは予想していないだろうが、上巻の時の方が活躍していた。罪と死は地球に行き、その後に人間にずっと寄り添う。迷惑な話だ。
アダムは天使から、その後の人間たちを見せられる。それは聖書で語られる歴史だ。全てが確定しているというのは、神としてはどういう立場で見ているのか不思議だ。そういう考えは、真面目にキリスト教に精通していないと分からないのだろう。
アダムとイヴが知恵の実を食べなければ、労働しなくても良いし、楽しくいられたのだろうが、食べることは決まっていたというので、あまり責められもしないし、気持ちの拠り所が分からない。
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イーヴがそそのかされて知恵の実を食べ、アダムと痴話げんかし、ミカエルが現れ、追放だけれども神を信仰していれば良いことあるよ!て未来をちらっと見せる(ノアとかモーゼとか)、そんな展開。
自分全知全能!とかいいながら、自分の思い通りにならないと、自由意志(今でいう自己責任?)とかいって怒る(笑)あと平等の意識は無いみたいね。 -
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どのようにしてアダムとイヴがエデンを追われるのかと、そこから旧約聖書を絡めて少し希望のある終わり方でした。もしかしたら、ゲームに登場するドラゴンは悪魔がもとになっているのかとか、女性の陣痛の苦しみはそういうところから来ているのかみたいな感じで、想像力がかきたてられて面白かったです。 -
新書文庫
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再読。あれだけラファエルから色々忠告されたにも関わらず、ついにイヴはサタンの甘言に乗せられて禁断の実を食べてしまう。蛇はサタンに乗っ取られただけなのに、悪者扱いされてちょっと可哀想・・・。
楽園を追われる前に人類の未来をアダムに語って聞かせるミカエル。カインとアベル、ノアの方舟、モーゼ、そしてキリストの出現まで・・・そこまで御見通しなら、どっかの時点でなんとかしろよというツッコミは入れてはだめですか。もはや予言の必要性が謎。予言をなぞるだけの現実なら、見届ける時間が無駄。
あといつものことだけど、神の傲慢さにイラッ。お前いったい何様だよ!(あ、神様か)だから一神教はキライなんだよーと勝手に憤る。
ところで寡聞にしてフェミニスト団体が聖書にケチをつけたという話は聞いたことないですけど、改めて男尊女卑ひどいなーとも思いました。そもそも父(神)が一人で創った子(イエス)は息子な時点で完全に男性上位、アダムによると天使の性別も男だそうで(これは諸説ありそうですが)イブがサタンに騙されたのは女がアホだから!罰として出産の痛みを味わえって・・・おいおいちょっと待て(怒)
まあこういう不満点は別問題で、ミルトンに対しての怒りではありません。物語としては文句なしに面白い!それに尽きます。