- Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
- / ISBN・EAN: 9784003222522
感想・レビュー・書評
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「アーサー王物語」と「マビノギオン」の概略から、広大な伝説の世界へと我々を導く、中世騎士物語の入門書。
岩波文庫の初版が1942年、以降長く読み継がれている名翻訳。トマス・マロリー『アーサー王の死』からの抜粋かと思われる前半と、『マビノギオン(マビノジョン)』というウェールズ民話の抄訳である後半からなる。巻末にわずかだが、ロビン・フッドやベーオウルフなど英国の伝承も収録。
こういった中世ヨーロッパにおける伝説・伝承の物語は、おそらく今日のファンタジーというジャンルの源流の一つなのだろうが、ここに描かれるアーサー王と円卓の騎士たちの世界は、日本で異世界(転生?)ファンタジーなどと呼ばれているものとは精神性がまったく違う。そこにあるのは騎士道の精神であり、彼らは「主君への忠誠・名誉と礼節・貴婦人への愛」(Wikipedia)を備える高潔な人物たちである。……はずなのだが……。
実際に読んでみると、ツッコミどころが多数。もちろんこれは、物語として面白いという意味で。不倫や横恋慕、略奪に裏切り、何かあればすぐに決闘で決着をつける武闘派っぷり。ちょっと何かのネジがはずれているんでない?と思わせる話が多くて笑う。もちろん美しい純愛を感じる話もあり、とにかく恋愛要素に欠かない物語群は楽しい。
円卓の騎士たちのキャラクターがすごく立っており、それぞれの冒険とロマンスが素直に面白い。彼らの個々のエピソードのあとに、最後のミッション的な聖杯(聖盃)探索へ続き、そこから思わぬ展開に続いていく流れは中々に読み応えがある。
ファンタジー好きとしては、魔術師マーリンの活躍をもっと見たいのだが、そういう話も探せばあるのだろうか。
後半のマビノジョンの方は、アーサー王たちの話もあるが、どことなくアラビアン・ナイト風なファンタジー短篇集といった感じ。こちらも、趣は異なるが濃密な物語群で楽しめた。
前作『ギリシャ・ローマ神話』と同様、本書はこれら中世騎士の世界に飛び込んでいくきっかけとなる入門書として優れたものだと思われる。なお本訳は名文ではあるが、やはり訳が古くてわかりにくい部分がある。特に人物名などの固有名詞は今日親しまれているものと異なるものがあるので、ここから他の関連作品に手を付けるときには注意が必要かも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
1996年7月28日再読