ディケンズ短篇集 (岩波文庫 赤 228-7)

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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003222874

作品紹介・あらすじ

長篇とは様相を一変する文豪ディケンズの短篇世界,人間の暗い異常な心理を追究した作品を中心に幻想的短篇も加え11篇を収録する.

感想・レビュー・書評

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  • ディケンズ短篇集。
    ディケンズといえば長編作が多い。でも短篇も秀作が多く楽しめる。
    注目したものをいくつか。

    「墓掘り男をさらった鬼の話」。クリスマスに墓掘りをする意地悪男の前に鬼が現れて説教垂れるお話。やや教訓的な作りで子どもが読むといいだろう。

    「奇妙な依頼人の話」。貧困のため妻と子どもを失った男が、一家を不幸に追い込んだ妻の父に復讐するストーリー。借金が返済できないと債務者監獄に収監されるという当時の習わしもわかるが、男の執着心がもはやホラー。

    「狂人の手記」。一族の血に流れる狂気を自覚した男が妻を殺害する。独白体で綴られた露悪的な内容だが、どこか男自身が誰かに助けを求めている。

    「グロッグツヴィッヒの男爵」。放蕩の末に結婚した男爵。子宝に恵まれつつも妻の尻に敷かれ、自由が失われたことを嘆き自殺を企てる。死のうとした瞬間、目の前に死神が現れる。死神と言葉を交わすうち男爵は死ぬのを思い止まる。ホラーコミックで楽観的な教訓話のように読めるが、生と死の境界線は案外あやふやであるという深い真理が含まれていて考えることが多い。

    「追いつめられて」。素晴らしい。保険金殺人を捜査する保険会社の調査員のストーリー。二転三転する展開と伏線を回収するプロットの巧さは全く無駄がない。エラリー・クイーンが20世紀に本作を発掘し、本格的推理小説の傑作と絶賛し紹介した理由もよくわかる。これが19世紀の半ばに(日本はまだ幕末の頃に)書かれたことを考えると唸るしかない。

    「信号手」。一番のお気に入り。幽霊が発する警告に怯える鉄道員のお話。これも無駄がない構成と伏線で一気に読んでしまう。ホラーでもあるが、読み方を変えれば精神異常をきたした心理小説とも読める。なにより語り手は一体何者なのかと考えれば怖さ倍増。様々な解釈と読みができる秀逸な作品。

    「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」。孤独で内気な宗教家の男性の告白記。教え子との秘めた恋。失恋と宗教家としてのキャリアの挫折が綴られているが、果たしてどこまでが真実なのか。書かれなかったことを想像するとさらにこの短篇の良さが増す。独白体を巧みに使って孤独な男の感情の襞と機微を描いた小品。

    と、いうわけで、ディケンズ。長編もいいが短篇も優れものが多いのでお薦めです。

  • 短編「信号手」読みたさで手にした『ディケンズ短編集』。

    全編とも、あまりの読みやすさ故か、読んだそばから話の内容が記憶から抜け落ちてしまうのだが、本命「信号手」は評判に違わぬ素晴らしさ。

    たった20ページで、オカルトあり、心理の迷路あり、不条理あり、トッピング全部盛り的な幸福感。

    この一遍を再読するために、『ディケンズ短編集』は手元に置いておこうと決めた。

  • 面白おかしくて、悲しくて、狂っていて、ウィットに富んでて、奇妙な気味悪さが最高です。短編ならではの切れの良さを堪能させて頂きました。

    特に心に残ったのは以下の作品。

    ・グロッグツヴィッヒの男爵
    尻に敷かれる貧乏男爵のお話。すかんぴんになってからの不死鳥っぷりが素晴らしい。自害寸前のところで、死神的な幽霊との対話の中で「やっぱやーめた」となる鋼メンタルから学ぶ点は現代に通じると思います。

    ・追いつめられて
    あっと驚く保険金殺人事件(未遂も含まれる)のお話。要旨が掴めないまま霧の中を歩くように読み進めていくと、ぱっと視界が開けるようにお話の全貌が見えてくる、素晴らしいミステリーです。

    ・信号手
    こちらも驚きのホラーミステリー。少しの無駄もない筆致がとても心地良いです。短いお話の中で、勤勉で実直、かつ知的な信号手への好感度と好奇心がどんどん上がると同時に、破滅の予感が高まっていき、最後にスッと冒頭の伏線が回収されるのが最高の読書体験。

  • 狂人の手記

  • あら、ディケンズさんてこんな重苦しい作品も描くのね、て感じ。
    ーーーーー
    ユーモアと明るい笑いの作家ディケンズ(1812―70)の世界も短篇に目を転ずると相貌を一変する。自らの血に流れる狂気を自覚した男が妻を殺害するに至る「狂人の手記」、実直な鉄道員が幽霊の発する警告に怯える「信号手」など、人間の暗い異常な心理を追究した作品を中心に、幻想的作風の短篇も加え11篇を収録する。

  • 「信号手」を読んだ
    いいゾワッと感

  • 「グロッグツヴィッヒの男爵」は、初めて読んだ。
    結局、奥さんのケツにしかれてしまうのが、笑える。
    本当の幸せとは、派手なものではないのかもしれないね。
    解説より、ニコラス・ニクルビーに挿入されているお話。
    リンカーン羅紗は in clothes of Lincoln green となっている(と、調べた)。それ以上のことは分からなかった。

    「ある自虐者の物語」は、多かれ少なかれ人間が持っている主観について考えさせられた。
    自分の感情を通してしか世の中を見ることができないから、良いものを取りこぼして拒絶してしまう。
    確かに、あわれみや優越感などによる優しさも、世の中にはたくさんあるだろう。
    でも、それだけではない。
    結局、自分と同じ相手としか付き合っていくことができない、ということか。
    解説より、リトル・ドリットの中のお話。

    「子守り女の話」も、今回初めて読んだ。
    小さい子どもをからかうのは面白いから、この子守り女の気持ちもわからなくはない。
    まあ、ほどほどにしてあげてください。
    そして、あたたかく優しい良いお話もきかせてやってください。


    「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」も、初めてだった。
    欲や嘘や見栄にまみれた世界で、彼の心は陰鬱で弱く優しい。
    最後にたどり着いた場所はとてもささやかで、心は苦しみ続けているのだろうけれど、彼を認めて支えてくれる人たちがいることが、何よりもの財産なのだと思う。
    解説を読んでの感想。
    なるほど、確かに、彼が語って「いない」部分に思いを巡らせると、また違った彼の姿が見えてくる。面白い。

  • ディケンズといえば長篇小説のイメージがあるけれど、短篇小説もたくさん書いている。この短篇集の特徴としては、①超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在している。②ミステリー的要素が強い。③人間の異常心理の追求の三つを中心に厳選されている。

    絶望と歓喜のあいだで振り子がゆれる人生。善人を騙す悪人。復讐を企てる善人。最後に笑うのはどっち?精神が崩壊している人、清い心の持ち主。ディケンズは、どんな人物を書かせても天才。

    『墓掘り男をさらった鬼の話』と『旅商人の話』は、ユーモアまじりの深いい話。既読の『信号手』は結末が分かっていても背筋が凍った。

    読み終えた後、ディケンズをより一層好きになっている自分がいた。

    p21
    一生懸命仕事をして、働きづめなのにごくわずかの食い扶持しか稼げないでいる人々がにこにこして仕合わせだったし、まったくの無学の人たちにとっては、自然の慈愛あふれる顔が必ずといっていいほど慰めと喜びの源になることが判った。こまやかな養育を受け、愛情深く育てあげられた人々は貧乏しても明るく、性質がもっと粗い人たちだったらとっくに打ちのめされていたはずの苦しみにも押しつぶされることはなかったが、それは幸福と満足と安らぎを胸のうちに貯えていたからであることも知った。

    p114
    「判らんのだよ」刀をいじくりながら男爵は言った。「本当にここがせちがらいところなのかどうかね。だけど、きみのところがここよりずっといいとも思えないね、だって格別、きみは安楽してるふうにゃ見えないもの。ひょいと思いついたんだけど-この世から消える方が身のためだ、なんて言ったけど、結局のところ、いったいどんな保証があるんだろうか、ってね」

    p299
    このようにしてディケンズは死ぬまでにかなりの数の短篇小説を発表したが、本書では独立した小説として集め、文学的価値の高いものを選んでみた。また内容的に統一をとるために、主として次の三つの特徴が際立っている作品を集めた。
    一、超自然的で、ホラーとコミックが奇妙に混在していること。
    二、ミステリー的要素が強いこと。
    三、人間の異常心理の追求。

    『信号手』を元にした日本の作品
    『汽車を招く少女』
    『急行出雲』

    <目次>
    墓掘り男をさらった鬼の話
    旅商人の話
    奇妙な依頼人の話
    狂人の手記
    グロッグツヴィッヒの男爵
    チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書
    ある自虐者の物語
    追いつめられて
    子守女の話
    信号手
    ジョージ・シルヴァーマンの釈明

  • 青い鳥文庫の怪談アンソロジーから
    信号手。

    岡本綺堂の西瓜もあったとのこと

  • 『クリスマス・キャロル』で有名なイギリスの小説家ディケンズの短編集。主に人間の狂気を描いており、ドストエフスキーを彷彿させるように感じるが、調べてみるとドストエフスキーがディケンズの著作を好んで読んでいたような背景もあるような。ただ和訳のせいなのか、微妙に読みにくかったので★3つ。本当は原文で読解できるような英語力が欲しい。

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著者プロフィール

1800年代を代表するイギリスの小説家。おもに下層階級を主人公とし、弱者の視点で社会を諷刺した作品を発表した。新聞記者を務めながら小説を発表し、英国の国民作家とも評されている。『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』『デイヴィッド・コパフィールド』『二都物語』『大いなる遺産』などは、現在でも度々映画化されており、児童書の発行部数でも、複数の作品が世界的なランキングで上位にランクされている。

「2020年 『クリスマス・キャロル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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