サロメ (岩波文庫 赤 245-2)

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  • Amazon.co.jp ・本 (100ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003224526

作品紹介・あらすじ

月の光のもと、王女サロメが妖しくうつくしく舞う-七つのヴェイルの踊りの褒賞に彼女が王に所望したものは、預言者ヨカナーンの首。ユダヤの王女サロメの恋の悲劇を、幻想的で豊麗な文章で描いた、世紀末文学の代表作。ビアズレーの挿絵18点を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「お前の口に口づけしたよ」とビアズリーの挿絵で始まり、恐ろしくも惹きつけられた。
    戯曲なので台詞で物語が進む。台詞だけで迫りくる不吉な出来事を感じ取ることができた。
    奇妙な月の夜、いつもに増して美しく恋に狂うサロメ、預言者ヨカナーンに恐れおののく王など。
    ヨカナーンの台詞から、神や救世主の存在も。

    少し前に漫画で読んだので、人物やその背景をイメージできて読みやすかった。
    オスカー・ワイルドのこの世界観が好きかどうかは自分ではまだ分からないけど、ブクログの他の読者さんのレビューが大変参考になるので、また読み直してみようと思う。舞台でも観てみたいと思った。

  • オスカー・ワイルド作『サロメ』は、預言者ヨハネの斬首のエピソードを下敷きにした戯曲である。新約聖書マタイ伝に記された「聖者の生首を所望する姫」という猟奇的な逸話は、モローやシュトゥック、カラヴァッジオなど多くの芸術家に取り上げられてきた。その中でもワイルドの戯曲は、創作としてのサロメの決定版といった趣きがある。ビアズレーの挿絵と共に、世紀末芸術の代表的作品といっていい。

    この戯曲の中では、サロメは処女でありながら、文学史上稀に見る淫婦として描かれている。ヨカナーンの首を前にして陶然と愛を語るサロメの姿は凄まじいというよりほかなく、さらにその唇に接吻するとあっては、冒瀆だとして作者の本国イギリスでの上演が禁じられたというのも、無理からぬ話と思われるのである。

    一方で、倒錯もここまで極めれば、いっそ神話的であるともいえる。古来、処女性と残酷性とは、しばしば表裏一体のものとして描かれてきた。純潔を守るため、または愛の成就のため、あるいは愛の証明のために、乙女が男を理不尽に破滅させるのは、いにしえより語り継がれてきた物語の原型のひとつである。

    裸体を見られたためにアクタイオンを鹿に変えたアルテミス、愛するエンデュミオンに不死の眠りを与えたセレネ、求婚者に難題を課して死に至らしめたかぐや姫の逸話もある。彼女らがみな月に関わりの深い女性だというのが興味深い。サロメがヨカナーンを誘惑し、その生首に接吻をしたのもまた、月の光のもとであった(さうだよ、月は生娘なのだよ)。

    甘やかな芳香の中に微かな腐臭を漂わせる熟れきった果実、今まさに風に散らされようとしている満開の薔薇、そんな印象の物語だ。福田恒存による美文調の翻訳が、この作品にいっそう麻薬的な魅力を与えていることは、言うまでもない。

    • nazunaさん
      佐藤さん
      サロメはやっぱり福田恆存訳♡
      それにしても、アルテミス、セレネといった「月の女たち」にかぐや姫が登場するとは!ご指摘があるまで...
      佐藤さん
      サロメはやっぱり福田恆存訳♡
      それにしても、アルテミス、セレネといった「月の女たち」にかぐや姫が登場するとは!ご指摘があるまで、気がつきませんでした。求婚者たちを無理難題で振り回し、あげく死に至らしめる月の処女。なるほどなるほど!

      絢爛豪華なモローのサロメに比して、ビアズリーは黒と白という究極のコントラストと、流麗にして精緻な曲線のみで、この血の匂いに満ちた妖美で残酷な物語を完成させたように思います。ワイルドの「サロメ」は、ビアズリーを得て完結しているのでは、とさえ感じてしまいます。
      2022/03/21
    • 佐藤史緒さん
      nazunaさん
      >ワイルドのサロメはビアズリーを得て完結している
      非常に同意です。あとサロメはやっぱり福田恒存、も同意です!この読みに...
      nazunaさん
      >ワイルドのサロメはビアズリーを得て完結している
      非常に同意です。あとサロメはやっぱり福田恒存、も同意です!この読みにくい文語体がイイ。
      「わたしは貴方にキスしたわ」じゃなく、「あたしはおまえに口づけしたよ」じゃないと、成り立たない世界観がありますよね!
      2022/03/27
    • nazunaさん
      佐藤さん
      嬉しいお返事をありがとうございます
      モノクロームの画家といえば、エドガー・アラン・ポォにハリー・クラーク、またギュスターヴ・ド...
      佐藤さん
      嬉しいお返事をありがとうございます
      モノクロームの画家といえば、エドガー・アラン・ポォにハリー・クラーク、またギュスターヴ・ドレがいましたっけ。ポォの「赤死病の仮面」も好きな作品名です。最近の訳で「赤い死の仮面」としたものがあるようですが、「赤死病」としたほうがはるかに恐ろしいですよね。
      2022/03/27
  • 久しぶりに読むのを非常に心待ちにして温めていた作品
    果たしてサロメはどれほどの妖しさを持った女性なのだろうか
    そしてヨカナーンの首をなぜそこまで欲していたのだろうか
    美と狂の瀬戸際である妖艶でおどろおどろしいビアズリーの挿絵から妄想が止まらない

    ビアズリーの絵いいですねぇ
    例え血の滴る描写であっても美しい
    モノトーンの色彩が残虐さを美に変えているようである
    おまけにユーモアまで感じる
    もし、「不謹慎だ」を真剣に非難する人間がいるとしたら、「その人間の立っている土台が次元の違う場所にあるのだよ」
    と笑い飛ばされそうだ

    ユダヤの王エロドの宮殿で宴会が開かれている

    集まった者たち(ユダヤ人、ギリシア人、ローマ人、カパドキア人、ヌビア人ら)が
    「蒼く白くまるで死人のように美しい」サロメを褒めたたえる
    一方のサロメは彼らの悪口を言い、「みんな嫌い」と言い放つ

    俗っぽい王である義理父は性欲剝き出しの視線をしつこくサロメに送る
    妻であるエロディアスに「もう、あなたたいがいになさいまし」と咎められる

    エロド王は預言者ヨカナーンを聖なる者としながらも恐れている
    砂漠からきたヨカナーンをかつて水槽であったという深く暗い牢獄に幽閉している

    サロメはヨカナーンに興味を示し、自分に気があるシリア人の若者をしもべの如く使い
    「会わせろ」とせがむ

    ヨカナーン
    不思議な声、白い肌の色、黒い髪の毛、そして赤い脣…
    それぞれ褒めたたえるサロメ
    ヨカナーンが「退れ、触るな、女こそこの世に悪をもたらすもの」と言えば、
    褒めたくせにけなす
    また褒めたたえ、そしてまたけなす
    何この心理!
    笑ってしまう
    自分の気持ちにどうしてよいかわからないのか…
    いじらしさと幼さ満載

    ヨカナーンはエロディアスの不義、不貞を咎め、
    サロメと母エロディアス対し同じ邪悪な者と全否定(でも兄であった妻を自分の妻にしたのは王なんじゃないの?)
    ヨカナーンはエロディアスを含む女性そのものを蔑んでいるかのようだ

    一方サロメ
    女王として皆からチヤホヤされ、スポイルされており、世間知らず
    恐らく王の元から外(世間)に出ることも許されないのだろう
    そして退屈でウンザリする毎日を送っているのだ
    本当の父親はエロド王の兄でエロド王の命令で殺されちゃってるし…
    脳内が薄っぺらい母親のエロディアスはサロメに対する愛情もなさそうだし…
    そして男性からはいつも羨望と性的なまなざししか受けたことがないのだ
    自分を見向きもしない、そして否定までする男に興味を持つ心理

    さてちっとも自分のモノに出来そうもないヨカナーン
    手に入らないものは喉から手が出るほど欲しくなるのが人の心理
    ましてや常識のないわがままお嬢さん
    義理父王が領土の半分やると言っても
    「ヨカナーンの首が欲しい」
    と繰り返すサロメはまるで駄々っ子の少女のようだ

    そしてとうとう念願のもの手に入れる!


    ビアズリーの挿絵のイメージが強かったせいか自分の妄想と本書にちょっとギャップを感じてしまった
    思った以上にサロメは妖女ではなく幼女に感じた
    鬱屈した精神の反逆
    今までに味わったことのない自分に目を向けない男に対する好奇心
    初めて持った欲は手に入らない分大きすぎて、コントロールできないほどパンパンに膨れ上がる
    手に入れる方法はもう一つしかない
    自分で自分を追い込むサロメ
    濃縮された歪んだ情熱がはじけたとき、ようやく手に入れることができた
    ふふふ

    短いストーリーでこの圧縮したスピード展開は小気味よい

    何かが起こる…
    徐々に迫ってくる暗黒
    王が楽しいと言えば言うほど、他の者らは「王は暗い顔をしている」と言う
    不穏で不思議な月が見る者の心の不安を反映する鏡のように変化する
    それぞれの感じ方が面白い(個性出てる!)
    エロド:血のように赤く見える
    エロディアス:月はただの月
    サロメ:冷たくて純潔な生娘

    何かが羽ばたく音…
    さぁ不吉なお膳立てはそろった

    いよいよ来る
    来る
    来る…
    ついに…
    キターーーーーー!

    ヨカナーンの血の滴る首を手にし、ようやく口づけを果たしたサロメ
    征服欲が満たされていく…
    愛憎の極みが最高潮に達する
    戯曲のテンポ感の良さが実に引き立つ作品である
    そして個人的には世界観がなかなか好きである
    グフフ

    「美や芸術」というのは理屈も理論も社会の常識もモラルも
    何も関係ないところで成り立っているのだ!
    とまるで胸を張って言われた清々しい気分だ

    そう正解とかないし
    感じるまま、思うまま
    妄想は自由なのよ
    どこまでも
    これは想像力を最大限に駆使することができる、その喜びに溢れる作品なのだから

    • 5552さん
      ハイジさん、こんにちは

      『サロメ』は、一度しか読んだことがないけれど、鼻血が出そうな程大好きな作品です!
      どうして好きなのか、どんな...
      ハイジさん、こんにちは

      『サロメ』は、一度しか読んだことがないけれど、鼻血が出そうな程大好きな作品です!
      どうして好きなのか、どんな風に好きなのか、言語化できずに悶々としています。
      ハイジさんのレビューは、複雑なことを、誰にでも分かる分かりやすい文章で言語化されていて、毎回、感嘆します。

      『サロメ』を読んだとき、「もしかして、ワイルドはヘテロセクシャルの男性に恋しちゃったのかな?」と、思ったんですが、直接的すぎますかね…。
      サロメがワイルドでヨカナーンがワイルドの恋する人の象徴で…。

      2023/02/18
    • ハイジさん
      5552さん こんにちは
      コメントありがとうございます!

      そうなのですね
      鼻血が出そうなほどお好きとは…(笑)

      なんだかお褒めくださって...
      5552さん こんにちは
      コメントありがとうございます!

      そうなのですね
      鼻血が出そうなほどお好きとは…(笑)

      なんだかお褒めくださってますが、単に言語力に乏しく、稚拙なだけなのです
      お恥ずかしい限り…

      なるほどヘロセクシャルですか
      5552さんも様々な妄想をされましたね♪
      この作品は読んだ人の想像力を幾らでも掻き立てる不思議な作品ですよね
      読む人によって作品が七変化して見えると言いましょうか
      その妄想をかけ立てるエネルギーが、多くの人を魅了するのでしょうか…

      私もこの世界観とても好きです
      もっと若い頃に出会いたかったなぁ
      そうしたらわたしもきっと鼻血を出して興奮したと思います(笑)
      2023/02/18
  • 新妻を迎えてすぐの王エロドが夢中になっているのは、新妻と前王の間の娘である王女サロメ。サロメは月光のもとで踊れというエロドの要求の見返りとして、地下に囚われていた預言者ヨカナーンの生首を所望する。
    シュトラウスのオペラ「サロメ」の原典である本作。

    登場人物たちは皆、妖艶で美しいサロメに惹かれています。
    自分に好意を寄せるナラボスを言葉巧みに操り目的を叶える計算高さを持ち合わせながらも、ヨナカーンに口づけするために首のみを望む心の未熟さなど、大人になり切れない危うい魅力を持ち合わせたサロメ。「純粋な狂気」というのが彼女の第一印象。気付けば読者もサロメの虜になっています。
    幻想的で神話のような描写がある一方、それぞれが抱える「欲」も垣間見えて妙に人間臭い。短い作品ながら色々な側面を見せてくれる印象深い1冊。
    そしてビアズリーの挿絵も作品全体の雰囲気を高めてくれる良い潤滑油になっています。

    ~memo~
    ワイルド著書:「ドリアン・グレイの肖像」「サロメ」「幸福の王子」ほか

  • 平野啓一郎氏が訳したものもあったのだけれど、どうしてもビアズリーの挿絵入りを読みたくてこちら。
    この方のシェイクスピアの訳を持っていて、この方の訳も良かった。

    さて

    何とも美しく、恐ろしい
    何とも言いがたく、蠱惑的、ロゴスとパドスの拮抗、ファム・ファタール...
    文章と挿絵、全てが美しく心を動かされる。
    戯曲というだけあって、口に乗せて発語したらどんなに美しいだろうか。
    最近ホメロスに関しての本を読んだこともあり、戯曲や演劇、文では無く口語について思いを馳せることが多い。

    実際の聖書では詳しく語られないこの物語。聖書は、いかにも人間的な「感情」についての描写を削ぎ落とした、人々の指南書に特化したものだろうか。創作物、文学というものは、言葉だけでなく背後にある情景、感情を想起させる。私は文学が好きだ。
    サロメは、若いシリア人は、侍童は、ナザレの人々は、ディゲリヌスは、エロディアスは、エロドは…
    それぞれどんな思いであの場面を目撃したのか。
    そしてワイルドとビアズリーは…

    ただの妄想である。だけど、堪らなく楽しい。
    蠱惑に溺れ、恋を求め、脣を求める…
    ああ、サロメはどんな人間だったのだろうか。はたしてユディトであるのか。はたまた架空の存在なのか。

    恐ろしさと美しさに溺れたい人は、是非に。

  • 月の美しい夜の狂気と妖艶と甘美の物語。
    虫の声が聴えてきそう。
    めちゃくちゃ好きなお話し。

  • 日曜美術館でギュスターヴ・モローを観てから読みたくて仕方なかった。自分にとって悪女サロメのイメージはワイルドから(たぶん別の本で紹介されていたのを読んだ)。先行して絵画からも出ていたのね。
    文庫と電子書籍とで悩んで、ビアズリーの挿絵つきと聞いて文庫に決定。これは素敵。

    王女サロメのイメージが二転三転していくようで、実はそれら全部ひっくるめて「少女」であるのだと気づかされる。いやらしい目で見てくる継父を嫌い純潔を尊ぶこと、愛を乞うてくる相手になんでもない見返りを提示する驕慢な残酷さ、口づけしたいがために首を求める一途さ。これが「少女」でなくてなんだろうと。
    首だけのヨカナーンに語り掛ける言葉から、袖にされた復讐として首を求めたのではないことがわかる。詰り、勝ち誇りながらなお恋していると語るのに、きっとなんの矛盾もないんだと思う。

    繰り返される月の描写をはじめ、格調高い台詞回しがとても印象的。サロメがヨカナーンに注ぐ比喩の称賛はその最たるもの。肌と髪は拒まれて罵倒に代え、三度目の正直とばかり唇に迫る。月明かりのもとだと思うとますます狂気的で慄然としてしまう。

  • 読む度にうっとり惚けてしまう。血のごとき赤く染まる月、熟れた無花果のごとき落ちかかる星。ヨカナーンの白い肌、赤い唇、漆黒の髪。同じ台詞を幾度も反復するサロメのルナティックな純愛。ピアズレーの挿絵がシナジーとなりより妖しく狂わしく美しく。はぁ‥耽溺。なのでダンゼン挿絵入りの岩波がおススメ。

  • 最高。ワイルドの世界。

  • 新約聖書をもとに預言者ヨナカーンの首を欲する美しきサロメと、サロメを取り巻くユダヤの王エロドとその妃エロディアス。どんどん先を読みたくなる岩波文庫の福田恆存訳。

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