ギッシング短篇集 (岩波文庫 赤 247-5)

制作 : 小池 滋 
  • 岩波書店
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003224755

感想・レビュー・書評

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  • イギリスの小説家ギッシングの短編集ですね。
    8話のイギリスの市井生活を描いた作品集です。
    ギッシングは小説家としての力は認められても、なかなか生活は苦しいものでした。
    ギッシングはディケンズに憧れ小説家を目指したように、彼の作品のなかには「市民生活のなかのロマン」を書き表わし、庶民の赤裸々な生きざまを真摯な目で描き出しています。
    ギッシングの小説では、派手さは無いものの温かな心模様を写し出した作品が多いので、私は好きな作家さんですね。
    長編が伝統的に多いイギリスですが、短編の良さを表現したギッシング作品にはみるべきものが有ると思います。

  • 早世した私の知人が残した蔵書のなかの一冊に、この文庫本があった。多趣味なその人が選書していたくらいだから、すごく凝った内容なのかと読む前は思っていた。
    だが英文学とはいいながら、収録された8編とも貴族趣味的な高尚さはほとんどない。逆に、庶民の生活感覚からにじみ出た物語であり、日本人も好きそうな身近な題材ばかりだ。

    ①境遇の犠牲者
    イギリスのとある名の通った画家が1人で田舎をめぐっていたとき、小さな兄妹と出会う。「父も画家だよ」と言う兄妹に誘われるままに家に行くと、父は宗教画の大作を制作中だった。訪問者が著名な画家だと知った父は、家が狭くて大作を描くのに適さないなどと弁明しながらも画家に未完成の宗教画を見せる。しかし父が自信をもって描いていた作品に対し、画家のプロの眼は心のなかで正反対の評価を下す。
    一方で画家は隅に置かれた風景画に目を留める。宗教画は凡作だが、その風景画は画家も一目置く素晴らしい出来だった…

    「境遇」はcircumstancesを訳したもので意味としては正しいが、如何せんそのままでは日常語でないのでわかりにくい。「境遇の犠牲者」とは、つまり知足安分の生活からほんの少し欲を出した者に降りかかった物悲しい結末のこと。

    ②ルーとリズ
    男で失敗した女2人(と1才半のリズの息子1人)は、2人が家賃を折半することで、ようやく屋根裏部屋で暮らせている。2人は喧嘩もするし生活はギリギリだが、腐れ縁のこんな同居もありかなと思っている。
    ある日曜日、町のお祭りの人ごみの中で、ルーは自分から逃げていた夫が若い女と踊っているのを見つけた。夫に悪態をつきながらも悪い気がしなさそうなルーの様子を見たリズは、共同生活が壊れるのではとやきもきして…

    ③詩人の旅行かばん
    若い詩人がイギリスを放浪の末、ある町にたどり着く。しばらく滞在しようと考え、とある下宿屋に入って人を呼ぶと、若い娘が姿を現した。詩人は大家の娘だと思い、当面の下宿代を渡して部屋を確保してもらう。いったん旅行かばんを玄関に置いて部屋を見に行った詩人は、外から帰ってきた大家に遭遇するが、大家はそんな娘は知らないと言う。しかも玄関に戻るとかばんがなくなっていた。実はかばんの中には、詩人が放浪中に書きためた詩の原稿が詰め込まれていて…

    ④治安判事と浮浪者
    ある男は、資産家の令嬢と結婚し、治安判事の職も得て、日々雑務に追われるが、お金に不自由なく、人がうらやむような生活を送る。
    ある日、法廷でケチな罪で裁かれようとしていた浮浪者然の男を見て、治安判事は元同級生だと気づく。身元を引き受けた治安判事は、その男が貧しいながらも、世界中を渡り歩いていることを聞き、2人が少年時、自由に世界を巡る夢を語り合ったことを思い出す。そして気づく-今の自分には自由なんてひとつもない-と。

    ⑤塔の明かり
    政治家を目指す者にとって不幸なのは、支持者か何か知らないが、ハイエナのように群がり骨までしゃぶり尽くす輩がいること。そういう輩は実際には政治なんてどうでもよくて、自分さえお恵みにあずかれれば、と思っている。この一編は、そんな輩から持ち上げられてご満悦だが、実はたかられて奢らされているだけの元議員が、それに気づき逆に利用しているのか、それとも踊らされているのか、自分でも分別がつかずブレーキがきかない悲劇。

    ⑥くすり指
    原題は“The ring finger”。つまり結婚指輪をはめる指のこと。ローマを旅する男女の出会いの物語で、「ローマの休日」は趣向が違うものの、この小品からインスパイアされたのでは?とも思わせる。

    ⑦ハンプルビー
    何の取柄もない少年ハンプルビーは、学校で“偶然”人助けをしたことで有名人に。だがその後は、平凡だが自分がやりたくないことはやらなくてもいい人生を望んでいた彼に、自分の意思ではままならない事柄が次々と訪れて…
    なお、この一編の最後の一行には、自分の人生を自分でコントロールできない状態に陥って疲れ果てたときに効く一言がある。

    ⑧クリストファーソン
    古書店で本を1冊買った語り手の男は、どちらかと言えば貧しい身なりの老人の視線に気づく。男が店を出たとき、老人が話かけてきた。「いまお買いになられた、その本の見返しに書かれている名前に、お気づきになりましたか?」「わたくしの名前なんです」確かにクリストファーソンと署名がある。
    老人は零落して蔵書の大半を売り、現在は自宅に少数の本を置くのみらしい。2人は本好き同士ということで意気投合し、語り手の男は老人の家を訪問することになる。そして男は、少数どころか、両側の壁に沿って天井に届くくらいに積み上げられた大量の本を目にする。
    本好きとして驚嘆する一方で、奥さんが同居していると聞いた語り手の男は、生活空間を圧迫する本の山が、同居者の奥さんの健康を蝕んでいるという現実を透かし見てしまう。

  • 関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB00077537

  • 『境遇の犠牲者』がよかった。
    自分の才能の無さに気がついてしまったとき、更には、妻の方が圧倒的に才能があることを知ってしまった時に、自分を騙しながらかつ妻の才能を殺してしまう、という、なかなか辛い展開。。
    『境遇の犠牲者』は夫本人の言葉と真逆で妻の方というオチ。

  •  お気に入りの一冊になったと思う。自分の才能の平凡さを認められない画家や、報われない恋に独り相撲してしまう女性などといった、端から見ていると気ぜわしくなるような人達ばかりが出てくる。作品はいずれも悲観的な内容なのだが、読み終わった今は満足感と、夢中になった物語を読み終えた後にいつも感じる一抹の寂しさとを、感じている。
    確かに、作品に出てくる登場人物たちは皆どこかで、愚かな一面を持っていたり、不運な出来事に巻き込まれ続けてしまっている。読んで楽しくなれるような作品ではないのかもしれない。けれども、市井で生きる薄倖な彼らの描写はとても人間臭く、ギッシングの明瞭で静謐な文章も相待って、愛おしさを感じた。
     この小説は、純文学というよりは、大衆小説の部類になるのだろうか。この本のように、平々凡々な人々を描いた物語が好きだ。チャールズ・ディケンズに似た作風だろうか。読み比べてみると面白いかもしれない。
     この短編集の中で、とりわけ気に入ったのは、「くすり指」「ハンプルビー」「クリストファーソン」の三つである。「くすり指」の最後の描写は、ケリン嬢の心情を細かく描くことなく、淡々と彼女のこの先の予測される生活を述べるだけにとどまっているが、そのためにむしろ、味わい深い最後になっている。
     ハンプルビーのような少年に関する話を、以前読んだような気がするのだけれど(漫画だったかな?)、正確には思い出せない。「家庭の天使」ならぬ「ハンプルビー」が、僕の心の中に棲み着いてもらいたいと思っている。

  • 日常にある落とし穴や、人間のこころの隙を淡々と、諦観したとも言える鋭さで描いている。境遇の犠牲者と、薬指、クリストファーソンが特に印象的だった。

  • ギッシングは19世紀イギリスの作家。たぶん尾崎一雄が読んでいたからと手に取った。

    人生の良い面より悪い面を取り上げているので辛気くさいと言えばそうなのだけれど、こんなぱっとしない展開になりましたがそれでも登場人物たちの人生は続きますよ、というへこたれなさがどの話にもあって、おセンチ過ぎないのがよかった。

    八話中「境遇の犠牲者」「塔の明かり」「クリストファーソン」と、鈍感で正しい自己評価をできない夫がしっかり者の妻を苦しめる話が三つもあった。奥さんたちはそれでも旦那さんを愛していて、うーん蓼食う虫ってやつですね。

    特に良かったのは、細く長く諦めない「ハンプルビー」と、伝わらない気持ちがせつない「くすり指」。

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