闇の奥 (岩波文庫 赤 248-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003224816

感想・レビュー・書評

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  • 「地獄の黙示録」の元ネタとして有名な(?)コンラッドの「闇の奥」。

    いろいろなところで言及されたり、分析されたりすることも多いので、なんとなく知っている気になるが、ここは一応読んでおこうということで。

    なんで、そんな気になったかというと、ここ数年、全体主義について調べているところなのだが、アーレントの「全体主義の起源」の第二部の「帝国主義」のなかで、「闇の奥」についての分析があったからかな?

    という流れなので、読む視点がどうしてもアーレントの読解に引っ張られるわけだが、それにしても、これはなんだかディープな本だった。

    設定としては、マーロウという船乗りが、船が停泊しているなかで、仲間に自分の体験を物語るという体裁をとっているのだが、読んでいて、誰が誰だか、わからなくなってしまう複雑さがある。

    訳文も1958年のもので、原文をしっかり訳そうとしているのか、かなり読みにくい感じ。なかなか、話の筋がわかりにくい。(もう少し、新しい訳を読めばよかった)

    この難しさはたんに訳文のせいだけではないはずで、まさに「暗黒大陸」アフリカの奥にむかって、川を遡行していくにあたって、なにがなんだかわからないことがどんどん起きて、悪夢のなかに迷い込んでいくような物語そのものの構造からやってくるのであろう。

    なんだかよくわらないにもかかわらず、かなり衝撃的な本だった。(読みにくかったのには、最近、わたしが小説をほとんど読まないということも関係しているかもしれない)

    アフリカの奥地、闇の奥(Heart of Darkness)に入ることによって、理性と非理性の対立、文明と原始との対立が浮かび上がるとともに、人間の心の闇(Heart of Darkness)に分けいっていくことが主題なんですね。

    と言っても、これは19世紀のヨーロッパ人の社会的な構築の文明観なんだけど。

    アーレントは、「帝国主義」のなかで、ヨーロッパの植民地経営のなかで、人種主義的な暴力が蔓延していったことが、人の命を軽くみてしまう感性を生み出したこと、そして、ヨーロッパで余計ものになったいかがわしい人々が植民地に行って、傍若無人な行為をおこなっていたことが「全体主義」を生み出す一つの要因になったとしているが、まさにそのあたりの分析を裏付ける本だな〜。

    「裏付ける」と言っても、これは小説であって、歴史家には、アーレントの論立ては、まったく許し難い論理であろうけど、アーレントは客観的な事実というより、主観的、心理的な経験というところから、全体主義的な暴力の一面を描こうとしていたんだなとあらためて納得した。

    もうちょっと新しい翻訳で、再チャレンジしてみたい。

  • 和訳でしか読んでいないけれども、飾ったレトリックに若干抵抗があったものの、肥大化した人間の自我の恐ろしさを描いた本書のインパクトはすごい。しかもこれぞ文学だ、と思わされるところは、語り手マーロウは、なんやかんや言いながら、クルツを畏敬しているところ。友という言葉すら使う点。皮肉がききまくっている。
    ポーランドに生まれ英語で書いた、いわばマイノリティ感覚をいやでも意識している作家が書いた作品であることもかんがみるなら、本書はすさまじい批評意識に貫かれた本だ。
    マーロウが向かった叢林(ジャングル)は、コンラッドにとってのポーランドでもあったはずだと断言できる。
    けれども本作のもっとも驚くべき点は、まだ存在していない、未来のナチスドイツおよびヒトラーを、「クルツ」(ドイツ語で『短い』『短命』という意味だそうな)として「あらかじめ」(!)戯画化しているということだ。

  • 難解だった・・・。そもそもおれの読解力が稚拙なんだけど、テーマが抽象的なうえ翻訳のむずかしさも手伝って、ぜんぜんわからんかったです。
    再読しなくちゃいけないとおもうけれど、とりあえず、今回の読書では「孤独」の重さを感じた。
    自然、自然であること(おのずからしかるべく)は、少なくとも現代社会をいきる人にとっては、とてつもなく「孤独なもの=不明なもの、闇」であって、その闇は未開の自然の象徴であるアフリカの奥地だけでなく、ひとのなかにもある。

    ホルクハイマー=アドルノらがいう「理性による同一化作用」と親和性がある気がしたんだが、そうすると、人は孤独=闇をもとめているということでもあるのかね。

    やっぱよく分からん。もう一回よむ!

  • かなり乱暴にまとめると「ある船乗りのアフリカ思い出話」になると思うのですが、読後には重苦しさと、言葉にできない感情が残りました。それを無理矢理文章にするとしたら、的外れかもしれませんが今のところ「人間とは本来、自然の一部であったのに、いつしか文明や経済という実体のない物に支配され不自然な存在となってしまった。かといって原始的な生活は、今の人類には恐怖や荒廃という闇でしかなく、狂気である。もう戻ることはできない」という文明批判と焦燥でしょうか。この作品は、時間を置いて再読する必要があると感じました。

  • 象牙を採りまくられた象たち。テムズ川から出航しアフリカ大陸の闇の奥には、クルツがいたが、このもと音楽青年のクルツは、その暑さや湿気、病気などにやられて、その恐怖ゆえに人格をかえ、その土地の王様のようになっていた。しかし故郷では恋人がそうとも知らずに信じて待っていた。マーロウはそれをつたえきれずに、ただテムズ川でそのことを語る。舟が行く中で、美しいもやや霧がもう一つのロンドンを空想させる。

  • 最後まで読みたくなる力がある、しかし、なんとも言えない不思議な小説だ。

  •  船乗りのマーロウが、船上で仲間たちに昔話を語るところから物語は始まる。マーロウの話し言葉で物語は進み、時折、船上の仲間たちの視線も描写される。マーロウと言うのは作者の分身で、この作品は自伝的らしい。
     マーロウは貿易会社に入りアフリカへ行く。それも、何だか誘われるような行動で、白鯨のイシュメールを思わせる抗えない磁力を感じる。アフリカでは黒人が持ってくる象牙を薬莢やガラス玉と交換していた。ここで黒人はかなり搾取されていたことが分かる。文明の対立がある。
     仕事仲間から、ある男の話を聞く。それがクルツという人物で、彼はジャングルの奥の出張所で暮らしていて、非常に優秀で天才だと聞かされるのだ。マーロウの中でクルツという存在が、どのように大きくなっていったのかはよく分からない。話を聞くうちに、まるで尊崇するかのような気持ちになっている。クルツに会って、クルツが死んでからも、彼のことを一番知っているのは自分だと思っている。これは自惚れなのか、それとも真実なのかを読み解く力は、今の私には無い。
     クルツは狂ったように象牙を集める。ジャングルの奥で土人の支配者になっていたのだ。クルツはジャングルの奥の、闇の奥でどれだけの狂気に取り憑かれていたのか。クルツが連れていかれるときに、周りに住んでいる土人たちは必死に抵抗する。クルツの命令もあるだろうが、心から止めているようでもあった。クルツは搾取する側の人間で、安く象牙を買い叩いて莫大な利益にしている。土人にとってクルツは英雄なのか、それとも初めて見た光に釣られてしまったのか。
     クルツは死ぬ前に「地獄だ! 地獄だ!」と二度叫んだ。それはジャングルの闇がそうさせたのか。はたまた、人の奥に真の闇を見たのか。ずっと闇の中にいて、考えすぎておかしくなってしまったというのも現実ではありそうだが、マーロウとクルツの動機は分からない。支配人や、最後に出てくるクルツの許婚などは分かりやすいので、比べてマーロウとクルツの思慮深さが際立つのかもしれない。
     物語は中ごろまで来て、マーロウの話が進むとともに、冒頭の船上は夕方になり薄暗くなってきた。彼らがいると分かる描写は、これが最後だ。その後は過去の話が闇の中を進むように、現在の彼らの姿も闇に消えたような感じがした。

  • コンラッドは、自身が船長として、現在のコンゴ民主共和国のキサンガニ(スタンリー・フォールズ)に遡行した時の経験を基に、この小説を書いたとあとがきにあります。

    主人公がアフリカの奥地で出会うクルツという人物の心の闇、そして19世紀当時のアフリカのジャングルの闇が不気味に描写されています。

    このあたり、映画の「地獄の黙示録」は、この小説の雰囲気を良く伝えています。実際、フランシス・コッポラはこの作品の映画化を真剣に検討していたようです。マーロン・ブランド演ずるカーツ大佐の名前が、クルツに似ているのは偶然ではないでしょう。

    異郷であれ、大都会であれ、そこに住む人間の寂寥を描く、というのは文学の一つ大きなテーマなのでしょうか。この小説が書かれた19世紀末、植民地の開拓への野心華やかりし時代にアフリカへと渡った人たちの懊悩が垣間見えた気がしました。

  • 映画「地獄の黙示録」の原作といわれる作品とのこと。コンゴの奥地への異様に薄暗い旅。真夏に汗だくでもう一回読んでみよう。

  • 高校生のころ観たコッポラの『地獄の黙示録』は衝撃的だったが、下敷きになったこの小説をあらためて読んでみると、ただただ圧倒される大迫力の物語。わずか160ページ(第31印発行分)近い中編小説の中で、気が付けば私は、世界の端々から文明の心臓部に至るまでをマーロウと共に旅したのだ。本を閉じてしまうと、まのあたりにしたはずの印象的な断片の数々が、私とは関係のないどこか遠くの記憶に感じられるのが未だに信じられない。

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