コンラッド短篇集 (岩波文庫 赤 248-6)

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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003224861

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  • 映画『地獄の黙示録』の原案『闇の奥』が
    あまりにも有名なコンラッド(1857-1924)の短編集。
    20世紀初頭に発表された6編は、いずれも
    人の心の襞に潜むものを洗い出すかのようなストーリーであり、
    また、後年の長編への布石とも受け取れる
    設定も存在する。

    【収録作】
     エイミー・フォスター(Amy Foster,1901)
     ガスパール・ルイス(Gaspar Ruiz,1906)
     無政府主義者(An Anarchist,1906)
     密告者(The Informer,1906)
     伯爵(Il Conde,1908)
     武人の魂(The Warrior's Soul,1917)

    鋭く胸に刺さったり、
    もやっとした謎が残ったりした三編について触れておく。

    ■エイミー・フォスター
     英国の僻村、イーストベイ海岸のコールブルックに住み着いて
     開業医となったケネディ医師が「私」に語った悲しい逸話。
     医師が診察した子供の母であるエイミー・フォスターと、
     彼女の亡夫について――なのだが、
     実はこの夫ヤンコー・グーラルが主人公。
     漂着したよそ者であるが故に冷遇され続け、
     心を通わせたはずの妻とも真に理解し合えなかった男の
     悲劇の物語だが、
     妻エイミーの名がタイトルになっている点が興味深い。
     定住しながら同化を拒んで異質性を保ち続けた異邦人を
     最後まで受け入れなかったコミュニティの代表として、
     作者は彼女の名を題名にしたのだろうか。

    ■ガスパール・ルイス
     19世紀初頭、スペインからの独立を目指す
     革命戦争下のチリにおいて、
     解放者ホセ・デ=サン・マルティンが組織・指揮した
     共和派軍で華々しい軍歴を築き上げたサンティエラ将軍の
     若かりし中尉時代の記憶、すなわち、
     王党派軍の捕虜となり、否応なく寝返らざるを得なかった
     屈強な兵士ガスパール・ルイスの物語。
     奇蹟的に銃殺を免れて逃亡したガスパールの戦いと愛。
     没落した金満家スペイン人の娘エルミニアは、
     大地震の混乱から自分を救ったガスパールを信頼し、
     彼の進撃の支えとなった。
     エルミニアは男装してガスパールに寄り添い、
     彼に味方するインディオたちの尊崇を集め、
     やがて娘を産んだ――。
     *
     血沸き肉躍る冒険活劇にして
     ところどころご都合主義的な展開になる点は、
     さながらラテンアメリカ文学か、はたまた
     レオ・ペルッツの歴史小説か――といった印象。
     オチも予想どおり、いかにもな締め方なのだが、
     そのベタさに心を奪われた(笑)。

    ■伯爵
     原題はイタリア語で伯爵を表すなら Il Conte のはずだが、
     コンラッド本人のケアレスミスがそのままになっている。
     語り手がナポリで出会った
     上品で人のいい老伯爵が見舞われた災難について。
     背後にある重要な事柄をわざとうやむやにしたかのような、
     奥歯に物が挟まった風な叙述にモヤモヤしていたが、
     少し検索してみたところ、
     私と同じ感懐を持った人のレビューを発見してホッとした。
     訳者の解説もアッサリしたもので、
     その点には触れられていないが、
     実はクィアな物語だろうと考えられる。
     アンソロジー『クィア短編小説集』に収録されても
     おかしくないと思うのだが……。
     https://booklog.jp/users/fukagawanatsumi/archives/1/458276844X
     持病を悪化させないために温暖な地域を選んで
     健やかに過ごしてきたにもかかわらず、
     恐怖に駆られてその地を離れねばならなかった
     伯爵の身に起きたこととは一体何だったのか。
     伯爵の回想を額面どおり受け取っても構わないのだが、
     彼がその晩の出来事をありのまま「私」に語ったとは限らず、
     選ばれた言葉は性的な事柄の暗喩だったと捉え得る。
     夜の公園のベンチに座り込んだ青年に
     気分が悪いのかと声をかけたら
     相手は刃物を持った強盗だったというのが
     伯爵の言い分なのだが、
     金銭の受け渡しがあった、また、
     伯爵は死よりも醜聞を怖れている――と言われれば、
     なるほどと得心するしかない。

  • 1900年前後のイギリス作家で、当時の時代背景や政治思想をどう捉えているかが透けて見えて面白い。書き方も自然と映像が頭に浮かんでくるような文体で好きだった。

  • 短編6個。重厚さに潰されそうになりながらも読んだが、作品によってはひょうきんな雰囲気もある。
    『エイミー・フォスター』
    「鈍い」と呼ばれている女がいた。自分から前に出るタイプでなく、家畜や自然の動物には心優しい印象だった。
    遭難者と結婚する。その女は旦那を男性として扱えなかった。言葉の通じない生き物に対しては一方的に情愛を感じられるが、男が意見したり話かけると、暴行にあったかのように拒否反応を示す。旦那はいなくなり、また静かな生活が戻る。自分の子供が成長するつかの間の間だけ。

  • (岩波文庫の中島賢二訳とは別物です〜)

    なーんかコンラッドのワールド全開。
    steadyなんだかfragileなんだかわからない連中が
    入替わり立ち代り。

    海洋小説もアフリカも守備範囲外だったので、
    新鮮ってのもあるかと思いますが、
    いやあ〜、ハマるわ、これ。

  • 歴史の奥にしまわれていた人の物語を聞かせてもらった。人がどう感じてどう生きたか、触れるところに話の醍醐味がある。

  • ○2010/01/29 
    短編当たりが多かったから、図書館でなんとなく短編集を探しててこれを。話的には当たりだったが読み物としては、やっぱり翻訳もの…。訳が新しいだけあって比較的読みやすかったけど。でもこの文体に慣れるのは、やっぱり日本語の話の流れと表現を知ってしまってるから難しいかなぁ。読むのは楽しいのになぁ。
    ”ガスパール・ルイス”と”伯爵”が印象に残ってる。らしい外国の人間、という感じが。海外の話ってこともあって細かいニュアンスとか事柄は分からない部分もあるのか、話が飛ぶように感じることもあった。
    とりあえずジョセフ・コンラッドという人を知らなかったことを恥じておく。

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