月と六ペンス (岩波文庫)

著者 : モーム
制作 : 行方 昭夫 
  • 岩波書店 (2010年7月15日発売)
3.83
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  • レビュー :95
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003225424

月と六ペンス (岩波文庫)の感想・レビュー・書評

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  • The Moon and Sixpence(1919年、英)。
    芸術に魅せられた男の純粋性と、それと表裏一体のエゴイズム。結構重いテーマのはずだが、読後感は意外と爽快だった。クールで湿っぽくない筆致、あまりに的を得ているので腹が立つ前に苦笑してしまう皮肉、そして、クライマックスの鮮烈な印象のためだろう。読了後、ラストの壁画のヒントになったというゴーギャンの絵を画集で見た。タヒチの森の奥で、壁画サイズのあの絵を見たら、確かに鳥肌が立つような感覚に襲われるだろう。

  • 初めてのモーム!
    素敵だなあと思う言い回しが所々にあって、引用文をたくさん保存した。

    人の心は周りには見えないし、変わりうる。でもその変化さえ、私たちは予想することしかできない。本人にしか分からない、そして自分自身でさえも理解出来ない感情がある。
    相手からの評価を気にせずに理想を追求して生きることが、モームが描いた「月」なのだとしたら、しんどいけど崇高で、美しいけど醜い部分もあるなあと思いました。
    どんな人にも二面性、多面性があり、善悪が混じり合っていると何度も作品中で強調されるけれど、それはストリックランドにも言えることなのかもしれない。

  • 『お菓子とビール』があまりにも面白かったので、今さらモームの有名作品を初読み。いろんな翻訳者で出ていますが『お菓子~』の訳がとても読み易かったので、迷わず同じ翻訳者の岩波文庫版で。これもとても面白かった。

    形式としては『お菓子とビール』と同じく、作家の「私」が、ストリックランドという破天荒な画家との関わりについて回想する形なのだけれど、通常一人称の小説は主人公=語り手であるのが一般的だと思うのですが、モームの場合は語り手の「私」がいつも傍観者なんですよね。語り手はあくまで語り手に徹して、主人公は語られる側として存在する。モームの語り口が軽妙で客観的なのは、一人称でありながら語り手が「私が私が」と自己主張せずあくまで人間観察に徹しているこのスタンスのせいかなと思いました。

    語られる側のキャラクターたちは皆とても魅力的です。ゴーギャンをモデルにしたというストリックランド(しかしある意味全くの別人でモームの創作だったと思う)は、傍若無人な天才で、人として明らかに最低な部類に属しているのだけれど、その理想のあまりの潔癖さにどうしても憎むことができないし、彼に妻を奪われる道化のようなダーク・ストルーヴは、すごく善良なのに滑稽という不幸なアンビバレンツを抱えながらもとても魅力的な人物。

    悪漢も俗物も天才も善人も、それが一面だけではない多面性があって、モームという人は人間を観察するのが面白くて仕方なかったんだろうなと感じさせられます。だからモームの書くものはきっと面白いんだろうな。

  • 主人公のストリックランドのアクと神聖性の共存っぷりが素晴らしい。これ系のキャラクターの源流らしい完成度。これを読んだ作家志望は、きっと皆「俺もこういう人物を書いてみたい」って思ってしまって、それで後世の作品の手本になってきたんじゃないか。
    また、本作で最も気の毒な男、ダーク・ストルーヴ氏のキャラクターも白眉。正反対の要素をごった煮に詰め込んだ挙句にあくまで善人という、かなりアクロバットな人間。ストリックランドの凄さとはちょっと違って、ストールーヴは比類なさという点で作品の魅力の大きな部分を担っていると思う(全体の三分の一ほどにしか登場しないにもかかわらず!)。
    色々と人間性についての洞察についても、感心させられるところはあるのだけど、どうも「主語がデカい」「小賢しい」という印象が拭えず。この時代のイギリス人の小説にありがちな勿体なさ。
    あと、後半のタヒチの自然の描写が美しい。行ってみたくなった。しかし、遠い……。

  • 「人間の絆」よりもこちらのほうが有名な気がするのは何故だろう、と思ったら発表時期の問題だったとはじめて知った。どうりで、「人間の絆」のほうが良かった。
    モームの人生観はやはり一本通ったものがあって、私はそれがかなり好きだから読むことができる。思い悩む時期に、モームに支えられたということを思いだす。

    今回の「月と六ペンス」では、ストリックランドの人生を追いながら、彼と関わった人物たちの人生もささやかではあるが印象に残る描かれ方をしている。彼との対比としても、彼の輪郭としても生きていて、あたたかいなあという印象がのこった。

  • 主人公(作者)の人間分析というか、観察眼が面白かった。
    ストリックランドと元家族との価値観の違いが最後の最後まで埋められていないのを見て、人の幸せをどの基準で決めるのかはその人次第、でも、本人にも自分の本当の幸せがどんなものかわかっていない場合がある(かもしれない)、ということに怖さを感じた。

    ストリックランドのように、自分の幸せ(求めるもの)が何であるかを知り、他人のどのような言葉や態度にもそれが揺らがないという人は少ない。
    世間一般の常識や幸せの基準を自分のものとすれば、とりあえずの安心は得られるからだ。

  • すごく面白かった。
    人間に対する描写は冷ややかで辛辣だけどそこがいい。
    ストリックランドの最期の描写で感動した直後に、英国に残された妻と子供達の描写で一気に現実に引き戻されたりする皮肉なところが好き。
    また読みたいし、他の作品も読んでみたい。

  • 取り憑かれたように激しく一途で芸術に心を支配されている…。
    芸術家と呼ばれる人々の性質や生き様について、思い描いていた姿が物語のかたちでここまで深く綴られている本を初めて読んだ。
    ゴーギャンの人生に着想を得たものだそうだが、実際のゴーギャンとはほど遠い気がする。
    芸術家の満たされない気持ちや苦悩など心理描写がすごくリアルで、読んでいて納得させられてしまった。
    女性蔑視のような文章が目立ったのは、著者が妻と上手く行ってない時期に執筆されたためらしい。そして著者自身は金や欲など世俗的なことから逃れられない人生であったらしい。
    こういうモームの人生を知るとなおさら彼の語る芸術観に面白みを感じるとともにタイトルの素晴らしさに気づかされる。

  • 画家の一生を第三者目線で書いた作品。常人には理解しがたい、その熱意を、どちらかというと冷めている主人公の目線で目撃したことを書き連ねることで、より一層、その狂気がよく描かれている。

  •  画家ポール・ゴーギャンをモデルにした小説。ロンドンで金融業を営んでいたストリックランドは、突如として芸術にめざめ、家族を捨てて出奔する。パリでは自分を支援してくれた男の妻を奪ったうえに捨て、南の楽園タヒチへむかう。タヒチの自然の中で暮らしながら、芸術の道を極めてゆく。ハンセン病で盲目になりながらも最高傑作の絵を仕上げ、自らの死とともに絵を燃やして葬り去る…。
     メチャクチャな男の生涯だけど、人間にはこういう非合理な部分が多かれ少なかれあると思う。世間体とかプライドに邪魔されず、自分の欲望のままに生きる人生は、決して否定するものではないと思う。

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