月と六ペンス (岩波文庫)

著者 :
制作 : 行方 昭夫 
  • 岩波書店
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本棚登録 : 781
レビュー : 99
  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784003225424

感想・レビュー・書評

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  • The Moon and Sixpence(1919年、英)。
    芸術に魅せられた男の純粋性と、それと表裏一体のエゴイズム。結構重いテーマのはずだが、読後感は意外と爽快だった。クールで湿っぽくない筆致、あまりに的を得ているので腹が立つ前に苦笑してしまう皮肉、そして、クライマックスの鮮烈な印象のためだろう。読了後、ラストの壁画のヒントになったというゴーギャンの絵を画集で見た。タヒチの森の奥で、壁画サイズのあの絵を見たら、確かに鳥肌が立つような感覚に襲われるだろう。

  • 初めてのモーム!
    素敵だなあと思う言い回しが所々にあって、引用文をたくさん保存した。

    人の心は周りには見えないし、変わりうる。でもその変化さえ、私たちは予想することしかできない。本人にしか分からない、そして自分自身でさえも理解出来ない感情がある。
    相手からの評価を気にせずに理想を追求して生きることが、モームが描いた「月」なのだとしたら、しんどいけど崇高で、美しいけど醜い部分もあるなあと思いました。
    どんな人にも二面性、多面性があり、善悪が混じり合っていると何度も作品中で強調されるけれど、それはストリックランドにも言えることなのかもしれない。

  • 『お菓子とビール』があまりにも面白かったので、今さらモームの有名作品を初読み。いろんな翻訳者で出ていますが『お菓子~』の訳がとても読み易かったので、迷わず同じ翻訳者の岩波文庫版で。これもとても面白かった。

    形式としては『お菓子とビール』と同じく、作家の「私」が、ストリックランドという破天荒な画家との関わりについて回想する形なのだけれど、通常一人称の小説は主人公=語り手であるのが一般的だと思うのですが、モームの場合は語り手の「私」がいつも傍観者なんですよね。語り手はあくまで語り手に徹して、主人公は語られる側として存在する。モームの語り口が軽妙で客観的なのは、一人称でありながら語り手が「私が私が」と自己主張せずあくまで人間観察に徹しているこのスタンスのせいかなと思いました。

    語られる側のキャラクターたちは皆とても魅力的です。ゴーギャンをモデルにしたというストリックランド(しかしある意味全くの別人でモームの創作だったと思う)は、傍若無人な天才で、人として明らかに最低な部類に属しているのだけれど、その理想のあまりの潔癖さにどうしても憎むことができないし、彼に妻を奪われる道化のようなダーク・ストルーヴは、すごく善良なのに滑稽という不幸なアンビバレンツを抱えながらもとても魅力的な人物。

    悪漢も俗物も天才も善人も、それが一面だけではない多面性があって、モームという人は人間を観察するのが面白くて仕方なかったんだろうなと感じさせられます。だからモームの書くものはきっと面白いんだろうな。

  • 主人公のストリックランドのアクと神聖性の共存っぷりが素晴らしい。これ系のキャラクターの源流らしい完成度。これを読んだ作家志望は、きっと皆「俺もこういう人物を書いてみたい」って思ってしまって、それで後世の作品の手本になってきたんじゃないか。
    また、本作で最も気の毒な男、ダーク・ストルーヴ氏のキャラクターも白眉。正反対の要素をごった煮に詰め込んだ挙句にあくまで善人という、かなりアクロバットな人間。ストリックランドの凄さとはちょっと違って、ストールーヴは比類なさという点で作品の魅力の大きな部分を担っていると思う(全体の三分の一ほどにしか登場しないにもかかわらず!)。
    色々と人間性についての洞察についても、感心させられるところはあるのだけど、どうも「主語がデカい」「小賢しい」という印象が拭えず。この時代のイギリス人の小説にありがちな勿体なさ。
    あと、後半のタヒチの自然の描写が美しい。行ってみたくなった。しかし、遠い……。

  • 「人間の絆」よりもこちらのほうが有名な気がするのは何故だろう、と思ったら発表時期の問題だったとはじめて知った。どうりで、「人間の絆」のほうが良かった。
    モームの人生観はやはり一本通ったものがあって、私はそれがかなり好きだから読むことができる。思い悩む時期に、モームに支えられたということを思いだす。

    今回の「月と六ペンス」では、ストリックランドの人生を追いながら、彼と関わった人物たちの人生もささやかではあるが印象に残る描かれ方をしている。彼との対比としても、彼の輪郭としても生きていて、あたたかいなあという印象がのこった。

  • 主人公(作者)の人間分析というか、観察眼が面白かった。
    ストリックランドと元家族との価値観の違いが最後の最後まで埋められていないのを見て、人の幸せをどの基準で決めるのかはその人次第、でも、本人にも自分の本当の幸せがどんなものかわかっていない場合がある(かもしれない)、ということに怖さを感じた。

    ストリックランドのように、自分の幸せ(求めるもの)が何であるかを知り、他人のどのような言葉や態度にもそれが揺らがないという人は少ない。
    世間一般の常識や幸せの基準を自分のものとすれば、とりあえずの安心は得られるからだ。

  • 初めて読んだ時は、語り手である「僕」がストリックランドに初めて出会った頃と同じくらいの年齢だったが、今はむしろフランスに渡った頃の「僕」に近くなった。「僕」の物事の捉え方が変わったように、私もまた変わったことに気づいた。

    同じ人間の中に相反する性質がいくつも存在していることが巧みな人物描写で表現されている。

    女性蔑視的な文章が多いが、身につまされる表現もあって苦笑する。ミセス・ストリックランドみたいな女性、今の日本にもいるよ、なんて思ったり。

    ストルーブ夫妻の関係は、最初牧歌的な雰囲気を持って描かれるが、ストリックランドの看病を引き受けるにあたっての夫婦の言い争いから、結婚に至った経緯が明かされるまでの流れを読んだら、ブランチの不幸に同情を禁じ得ないし、ダークに薄気味悪さというか生理的嫌悪感のようなものを感じる。

    クライマックスで、タヒチに渡ったあとのストリックランドの日々が語られ、あの有名な絵画をヒントにしたと考えられる最期を読み終えた時の感動は、やはり何度読んでも変わらない。

    そして、最終章、ロンドンに帰国したところで徹底的に落とされるのも皮肉っぽくてよかった。

    全体を通して皮肉っぽい名言だらけ。文章も美しい。

  • 高校生の時、初めて読んでもう二度と読まない!こんな読後気分が悪くなった本は初めて!と主人公にムカムカ腹が立った。
    その後留学し働くようになり改めて読むと、主人公の気持ちが本当によくわかった。
    残された家族に深く同情するか、自分の人生を真っ直ぐに生きる主人公が理解できるか、自分の立場によってこんなに180度見方の変わる事があるんだなと。
    家族を持ち母となった今、もう一度読み返したいと思います。

  • すごく面白かった。
    人間に対する描写は冷ややかで辛辣だけどそこがいい。
    ストリックランドの最期の描写で感動した直後に、英国に残された妻と子供達の描写で一気に現実に引き戻されたりする皮肉なところが好き。
    また読みたいし、他の作品も読んでみたい。

  • 取り憑かれたように激しく一途で芸術に心を支配されている…。
    芸術家と呼ばれる人々の性質や生き様について、思い描いていた姿が物語のかたちでここまで深く綴られている本を初めて読んだ。
    ゴーギャンの人生に着想を得たものだそうだが、実際のゴーギャンとはほど遠い気がする。
    芸術家の満たされない気持ちや苦悩など心理描写がすごくリアルで、読んでいて納得させられてしまった。
    女性蔑視のような文章が目立ったのは、著者が妻と上手く行ってない時期に執筆されたためらしい。そして著者自身は金や欲など世俗的なことから逃れられない人生であったらしい。
    こういうモームの人生を知るとなおさら彼の語る芸術観に面白みを感じるとともにタイトルの素晴らしさに気づかされる。

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著者プロフィール

モーム W. Somerset Maugham
20世紀を代表するイギリス人作家のひとり(1874-1965)。
フランスのパリに生まれる。幼くして孤児となり、イギリスの叔父のもとに育つ。
16歳でドイツのハイデルベルク大学に遊学、その後、ロンドンの聖トマス付属医学校で学ぶ。第1次世界大戦では、軍医、諜報部員として従軍。
『人間の絆』(上下)『月と六ペンス』『雨』『赤毛』ほか多数の優れた作品をのこした。

「2013年 『征服されざる者 THE UNCONQUERED / サナトリウム SANATORIUM』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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